ダーク・ファンタジー小説

Re: engrave ( No.19 )
日時: 2012/12/14 18:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



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弾倉を入れて、ダブルアクション。
反動で右手が跳ね上がり、空薬莢が吐き出された。弾は高城に馬乗りになっていた男の背骨辺りをとらえた。鮮血が噴出して、馬乗り男はぽかんと口を開けた。
直後に自分を襲う痛みに眩暈を感じ、思わず高城から離れる。

「まゆ、ずみ……」

「黙ってな」

体を起こしかける高城を言葉で制して、愛用の自動式拳銃をシングルアクションで発砲。拳銃を構える、高城を取り囲んでいた男の脳天を貫いた。

「野郎っ……」

汚い唾を吐き出しながら引き金を引こうとする男を、高城は躊躇いも無く撃った。次々と発砲し、時々右へ左へと身を泳がせて敵からの銃撃を避けた。
黛はどんどんと男を倒して、高城に近づいていく。足元にあったナイフを拾い上げて、後ろに回り込んでいた男の喉元に深く突き立てて、右手を見ずに撃つ。隙を狙って居た男の顔面を破壊する。
鮮やかな手さばきで次々と敵を倒して、あっという間に立っている者は黛しかいなくなった。

高城は素早く立ち上がって、血の匂いに鼻を鳴らす。
高城は、自分の側で口を開けている馬乗り男に今度は馬乗りになってやった。ジャージで鼻血を拭いながら、馬乗り男の血が溢れる尻あたりの傷口に指を埋め込む。

「っっうがっぁ!」

後ろからやって来た黛は、返り血が付いたシャツに気を配りながら高城の手に自分の拳銃を握らせた。高城はそれを構えて、馬乗り男の顔のすぐ側で発砲した。耳元だったから、馬乗り男の耳は今痛いほど音が響いて居るだろう。まだ煙を上げている銃口を馬乗り男の首に押し付ける。
熱を持っている銃口で、馬乗り男の首に跡が付いた。

「死にたくなかったら、喋って。ここでなにをしていたのか」

黛のおかげで形勢逆転を果たした高城は、傷口の指を増やす。
生暖かい液体が指を伝っていく。ぬちゃりとした柔らかい人の中身。

高城のその様子を黛はもう見ていなかった。息を整えながら、自分が出した空薬莢を拾い集めつつ、周りを見渡す。
寂れた港の倉庫。何もない。ゴミやほこりがあるものの、想像していたものは無い。
光の勘違いだろうか。
息の根がまだある男を探して、扉の外に黛が出ていく。

高城はそれに気が付いたが、何も言わなかった。
自分を助けたことが信じられない。自分を助けに来たのが信じられない。
悔しいのか、知らず知らずのうちに、傷口の中の指を三本にしていた。
馬乗り男は叫び声を上げるが、肝心なことを喋らない。

「言えよ!!」

痺れを切らした高城が声を上げると、馬乗り男は荒い息を吐きながらもにやりと笑った。
高城をバカにしているようにも見えるその笑みを浮かべながら、一瞬で男は胸元から拳銃を取り出し、口に咥えて。

「っおいっ!!」

引き金を引いた。
脳を貫き、男が絶命する。

その様子を、高城は拳銃を持ったまま眺めていた。
力なく眺めていた。
立ち上がる気にもならなかった。
自分を助けた黛に顔を向けたくなかった。