ダーク・ファンタジー小説
- Re: engrave ( No.4 )
- 日時: 2012/12/03 17:02
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
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「……え……」
急いで振り返る。
角を曲がってくるスーツ姿の男。私の腕を掴んでいるジャージ姿の男。
同じだ。全く顔が同じ。背も、声も。全部同じ。格好と性格が違うせいか、雰囲気は違うようには見えるけど。
ジャージ男の腕から逃れようと、腕を振る。
だけど離してはくれなかった。
捕まった。
まずい。
「UFOなんてなかったぞ」
怒っているように近づいてくるスーツ。私がきょとんとしている前で、そのスーツ男は腰を折って私に目線を合わせる。
目は深い茶色だ。目の周りを飾る睫は長くて、なかなかのイケメン。
髪がぼさぼさで、だらしない感じがする。
男の人は薄い唇を舌で舐める。
その姿に、心臓が震えた。何だか怖い。
後ずさると、今度はジャージ男の胸にぶつかった。
最悪だ。気が付くと、自分の右足で参考書を踏んでいた。
最悪。
大家さんの言うとおり、夜中に出歩くんじゃなかった。
後悔しても遅い。
「なぁ、俺たち、あんたに用が有るっつってんだろ」
目に涙の膜が張る。
もう、本当に怖い。夜道で、男の人に挟まれているなんて。しかも知らない人。
殺されるかもしれない。何をされるのか分からない。
なんでだ。なんで私がこんな目に。私は普通の女子高生なのに。
寒さなんて吹き飛んだ。今は早く逃げたくてたまらない。
私はぶんぶんと横に首を振る。
「私はっ、私は、貴方たちに用を作った覚えはありません!」
ぎゅっと目を瞑って、開く。
涙が出てきてしまった。頬を伝っていく熱い液体。
泣いちゃだめだ。この人たちに弱みを見せちゃいけない。そんなことは、分かっているのに。
それでも怖くてたまらないのだ。
何をされるんだろう。私はもう、家には帰れないのだろうか。
私の涙を見て、スーツ男が呆れたようなため息を吐いた。
なんで呆れられなきゃいけないんだ。女子高生を男二人がかりで抑え込んでいるアンタらの方にこそ、私はため息を吐きたい。
もっと人通りの多い道を選べばよかった。
突然、腕を引かれて軽くジャージ男に後ろから抱きしめられた。
いきなりの行動に、背筋が凍る。
コッチ系か。コッチ系なのか。暴力系じゃなくて、もしかして。
私の初めては、こんなところで。
「俺、あんたを傷つけたくないんだけど」
冷たい言葉とともに突きつけられたのは、鋭いナイフだった。顎の下に刃を当てられて、息が詰まる。
いやだ。動いたら、やられる。というか、刃先がちくりとしていたい。
最悪だ。本当に。
どんどん溢れてくる涙。鼻水も出てきそうだ。
声が上手く出せない。人にナイフを向けられたのは、初めてだから。
どう対処すればいいんだ。大声を出せばいいのか。そんなことできない。
私はもう行動できない。
「大人しく、ついて来てくれる?」
首を捻って、後ろの人に向かって弱弱しく頷くと、耳元で『良い子』なんて言われた。
ぜんぜん良くない。