ダーク・ファンタジー小説

Re: engrave ( No.5 )
日時: 2012/12/03 17:47
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
参照: http://朝内 真幸=ちょううち まさき


+3+


どこに連れて行かれるんだろう。
左右を男二人に囲まれた。右にスーツ、左にジャージ。
私はほぼ俯いた状態で、二人の歩調に合わせていた。何も話す気になれない。もう誘拐だ。これは誘拐なんだよ。
今は走って逃げるか。今ならまだに合うかもしれない。こういう時くらい走ろうか。
あの道に参考書を落としてきたから、きっと誰かが私がいないことに気がついてくれるはずだ。

「逃げるなんて馬鹿なこと考えるなよ」

私の思っていることがばれたのか、左に居たジャージが声をかけてきた。私は軽く笑って頷く。
何でばれたんだ。何で。もう逃げられない。

私はとぼとぼと道を歩く。
やがて、賑やか表通りに来た。車が行きかって、ビルの光がまぶしい。
その中で、一番色が派手なビルの階段を上るように促される。
ビルは黄色と青のストライプだった。何でこんな色にしたんだろうか。ビルを満足に見る暇も無く、私は階段を上り始める。

私の前をスーツが行って、後ろをジャージがついて来る。
外付け階段を上り、踊り場のところにある扉を開く。
簡素な扉だった。倉庫に入るような。スーツが扉の中に入って行く。

もう終わりだ。私の運命は決まった。ごめんなさい、大家さん。
今月の家賃を払うことができずに私は旅立ちます。

「さてと、まぁ、座れよ」

玄関で靴を脱いで、中に上がらせてもらう。

部屋の奥の観洋樹。そのそばの扉。奥があるようだから、広いみたいだ。
真ん中に長方形の机と、それを挟むようにしている赤いソファ。
私は電気をつけたスーツに促されて、片方のソファに座った。

スーツのシャツは、やっぱり白じゃなくて、淡い黄色だった。レモン色というのか。
私の右隣に、スーツが座る。向かい側にジャージが座った。
逃げられないようにされた。最悪だ。泣きそうになる。
だけどまたナイフを取り出されたら困る。

まったく同じ顔の二人は、私をじっと見つめていた。
そして、意を決したように口を開く。私だって緊張しているのに。これから私自身がどうなるのか。
私は言葉を待った。
やがて、ジャージが鋭い声で空気を震わせる。

「生きたいか?」

意味が分からない。今の状況に全く合っていない言葉に、私は戸惑った。

私に、生きたいか、なんて。そりゃあ、生きたいけど。
そんなこと、今関係あるのか?

私が答えずにいると、隣のスーツがため息を吐いて、拳銃を私の頭に突き付けてきた。
硬いその感触。
なんで。なんで私がこんな目に合わないといけないんだ。私が何をしたっていうんだ。
この人たちは、何が目的なんだ。
拳銃なんて、どこに持っていたんだ。なんで持っているんだ。
犯罪だぞ。

ぐるぐると疑問だけが回る頭の中に、二人の死神が囁きかける。

「「生きるか、死ぬか。選べ。朝内 真幸」」