ダーク・ファンタジー小説
- Re: engrave【少し変更】 ( No.6 )
- 日時: 2012/12/03 17:40
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
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意味不明な質問に対して、半ば強制的に『生きる』の方を選択したのは、夢の出来事に思える。
だって、あんなことがあったなんて今も信じられない。
あの後、二人はご丁寧にアパートまで送ってくれた。それだけ聞けたのなら十分だって、妙に優しくなっていた。
私はそれに疑問を感じながらも、また家に帰ってこれたことに心から喜びを感じ、道端に落ちていた参考書を胸に抱えたまま熟睡した。
布団も退かずにくたびれた畳の上で、制服のまま。
そんなことをしたせいか、腰が痛い。
私の腰はずっと悲鳴を上げていて、今もこうして体育の授業を休んでいた。
空を見ると、白い雲が風にあおられて千切れてくのが見える。春になりつつある冬の空は、なんだか疲れているように色がくすんでいた。
そんな風に見えるのには、私の心境が関係しているのかもしれないけれど。
校庭の隅で、唯一校舎の日陰になる水道の隣で、私は自分の膝に顎を乗せた。
みんなが走っているのを眺めながら、寒さで赤くなっている指先を擦る。
生きるか、死ぬか。
生きているのは当然だったから、いまさらそんなことを言われても戸惑ってしまうだけだったけど。今よくよく考えれば、あの時もっと疑問を口にすべきだったのかもしれない。
心の中に大きな雲ができているかのように重く、気分が晴れない。私はこの雲を抱えたまま、今日一日を過ごさないといけないのだろうか。
あの派手なビルまでの道順はもちろん憶えていない。溢れそうになる涙を必死にこらえて、地面ばかりを見ていたから。
だから、ビルに押しかけてあの質問の深い意味を聞くことも、できない。あの二人に私から接触することは出来ない。
もったいないことをした。ビルへの道くらい、記憶しておけば良かった。
みんなが汗を拭きながら、先生の元に戻っていく。
赤いジャージを来ている私にとっては、この寒い中で汗を流している感覚は理解できない。
ジャージを見ると、やっぱりあの二人を思い出す。
そっくりの顔の二人。双子かもしれない。名前は何というのだろう。
私に一体何の用があったのだろうか。
考えれば考えるほど、雲は重くなっていく。
私は肩甲骨辺りまである髪を自分の指で好きながら、溜め息を吐く。
早く、家に帰りたい。
何だかそう思う。そして、あの二人に会いたい。
変態かもしれないし、ただの変質者だったのかもしれない。
だけど、会って話が聞きたい。
あっちが満足するのを手伝ってやったんだから、私だって満足したい。
頭の中には、ずっとスーツとジャージの二人が浮かんでいた。