ダーク・ファンタジー小説
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】テスト期間中ですが、ぼちぼち再開 ( No.13 )
- 日時: 2013/01/19 12:08
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)
倉庫内では、とある密約が交わされようとしていた。
「あぁ、事の運びは順調だ。……そっちの方は?」
男が一人、携帯電話を耳にあて、誰かと会話を行っていた。いかにも強面な面をし、その面にふさわしい黒光する服を着ている。また、その男の他にも似たような雰囲気を醸し出す男達が大勢その場を見守っていた。
『まあ順調さ。……それより、近頃"ねずみ共"が嗅ぎ回っているみたいだからね。気をつけた方がいいよ、そちらも』
「あぁ、いらない心配をありがとよ。にしてもあんた、"これ"を集めてどうすんだ? 俺にはただの戦争の遺品程度にしか思わねぇんだけどな」
『それを決めるのは君ではなく、依頼者であるこの僕だろう? とやかく言う筋合いはない』
「……なあ、それに何か利益があるって言うなら、俺らも手を貸すぜぇ? 勿論、利益は山分けだけどなぁ」
『全くいらない交渉だね。君たちは僕に言われた事を従えばいいんだ。いらない浅知恵など働かせるな』
「……あ? 何だと……? てめぇ——!」
と、その時。
入り口が勢いよく開かれたことによって男の言葉が途切れることとなる。
『……ほらほら、ねずみが来た』
携帯から発せられていた男の声はそう言い残した後、小さくプツッと音を鳴らし、通話を終了させた。それさえも気付かないほど、男は目の前にいる者のことを凝視している。周りの者共が一斉に銃を構え、入り口の方から立ち込める煙の奥にいる何者かを見据えて待っていた。
程なくして煙がなくなり、奥からゆっくりと姿を現したのは、
「武装警察第三部隊所属、日上 優輝だ。武装警察権限により、生死は問わない。投降するなら今の内に従え」
見た目的にまだ若く、いかにも新米そうな面立ちのうえ、そこに現れたのはその青年、日上 優輝一人だった。
「……ククク、ハハハハッ! おいおい、こんなところに迷い込んで、一体何の用だ?」
男は笑いが堪えきらなかった、とでも言うように高らかに声をあげて笑う。思っていたものとは違う、目の前にいるものはどうにでもならないものではなく、どうにでもなりそうなものに見えたからである。
「……笑わせるなよ? 武装警察とやらは期待していたものより、よっぽど腑抜けだったようだなぁ!」
笑い声を止め、男がそう言い放った途端、笑い声が周りの男達からあがる。しかし、それも束の間。黙って見ていた優輝に向け、冷酷な表情で男は告げた。
「——殺れ」
その瞬間、男達は一斉に銃を放った。20人あまりいただろうか。それらの手に握られていた銃の声は途切れることなど——ないように思えた。
「発砲してきたのはそっちから。正当防衛に、職務執行妨害も成立するな……っと!」
「え、な……! ぐはぁ!」
優輝から一番近い前方にいた者が突然声をあげて、手から銃を地面に落とす。今頃銃弾塗れになっているはずであろう優輝の存在は既に元の場所におらず、優輝が呟いた言葉は倒れた男以外の男達には誰も届いていない。
自分達の仲間が一人倒れたことに気付かず、男達は銃声を鳴り響かせる。しかし、一瞬の気配の内に迫り来る予感を感じ取ったが、それは既に遅く、二人目の犠牲者が声をあげて倒れていた。
どうやら倒れた男達は何かによって斬り付けられたようで、肩から腰の方までかけて一気に斬られている。二人目の犠牲者を確認したところで、男はようやく優輝の姿を発見することが出来たが、優輝のその姿は先ほどまでの若造とは違っていた。
己の背丈を越えるほどの大太刀を両手で構え、その刀身は薄い青色の光を後方より照らされる月の光を背景として灯されている。
威風堂々としたその姿は、圧巻の一言であった。
「お、お前……まさか……」
男はいつの間にか汗をかきながら、恐れるべき相手を確認した男は震えながら両手で銃を構える。
優輝の両手に握り締められた大太刀は蒼い光の弧を描き、目の前の味方を両断していく。その際に、男は見てしまったのである。
通常では有り得ない光景を。優輝は、銃弾を幾度となく"一刀両断"していたのだ。
「う、撃て……! 撃てぇーッ!!」
男の言葉と同調するかのように、優輝へと目掛けて銃弾を放つ。だが、優輝は横へ体を転がらせ、手に持つ大太刀で銃弾を所々弾き、両断しては凄まじい速度で近くにいる男を斬り付けていく。男達は優輝に目掛けて銃弾を放つことに夢中になっていた為、多少広いこの倉庫内でも仲間同士で相打ちすることもあった。
着実に人数を減らす優輝の存在は男達にとって既にただの若造などではなく、畏怖の象徴として捉えられることなど容易である。
「くそ……! くそっ! こんな若造に……!」
苦し紛れの言葉を吐き、いつの間にか空になったマガジンに気付かず引き金を引く男の脳裏には、あることが思い出されていた。
それはこの倉庫での密約。そしてその内容と、"電話をしていた相手"との約束事。
全ては"ある計画"のために。自分はその計画のために——
「ま、待てッ!」
男が声を出したのは、それから数分後のことである。
20人あまりもいた男構成員らは誰もかれも負傷しており、うずくまっていたり、倒れている者もいた。
たかが数十分後のことで、ここまでの被害を被ったのだ。それも、ただ一人の若造に。
優輝は、男の叫び声に似たものを聞いて、手に持っていた大太刀を止める。正常に立ち上がっている者はこの男以外、既に存在しなかった為だった。
「と、取引をしよう……! 俺たちが、ここで何をしていたか……それと交換だ! そ、その代わり、俺は見逃してくれ! 頼む!」
「取引……? ……内容によるかな」
「内容なんて、とんでもねぇもんだ! これは極秘なんだ! いいか? 俺たちが依頼されたのは——!」
その時、鋭い銃声が倉庫の中で鳴り響いた。
優輝の目の前で怯えながらも話そうとしていた男の額には、いつの間にか赤黒い丸型のものが刻まれている。その刹那、そこから多量の血が噴出すると同時に男の体はゆっくりと地面へと伏していった。
突然の光景に何が起きたのか暫し理解できず、優輝はただ呆然とその場から動けずにいたが、
「——ぁーあ。喋ろうとしちゃったから」
「誰だ?」
既にこの倉庫の中にいた男達は片付けたはずだったが、声はどこからともなく聞こえてくる。声の持ち主は姿を現さず、倉庫の中でその声を反響させていた。
「ふふっ、よく一人で突入しようと思ったね? 能力者がいると思わなかったの?」
「能力者がいないかどうかなんて、武装警察の手にかかれば簡単に分かる。それに……」
「それに、黒獅子の情報もあるかと思った?」
「ッ、何でそれを知っている!」
突然、声を荒ぶらせる優輝の姿を見ているのか、声の主は高らかに笑い声をあげる。
「そんなに怒らないでよ。君、なかなか面白いよね。興味深いと、僕は思ってるんだよ?」
「何……? 正体を現せ!」
「ははっ、残念だけど、そんなことをしちゃったら面白くないじゃあないか。……まあでも、近い内君には正体を見せるかもしれないね」
「近い内に……? どういうことだ?」
「さぁね。お楽しみってところにしといてよ。……ふふっ、それじゃ、僕はもう行かないと。面白いものを見させてもらったよ——日上 優輝君」
「待てっ! 誰なんだお前は! 黒獅子と一体何のつながりが……」
優輝の叫び声も虚しく、声の主はその場から去ったようで、返事は勿論、気配さえも感じることが出来なかった。
それと同時に、気付いたことがある。男が話していたこの場所での交渉。恐らくその交渉品と思われるものが消えていたのだ。声の主が持ち帰ったのかどうかは定かではないが、消えてしまったことには変わりはない。
「クソッ……!」
唇を噛み締め、苛立ちを露わにする。黒獅子の情報はまたも得ることは出来なかったのだ。そのことが一番自分にとって最悪の結果であった。
そんな優輝に、突然無線から連絡が入ってくる。苛立ちを抑えながらも、無線を出ると怒声が突然無線から聞こえてきた。
『おいっ! 日上! お前今どこにいる!?』
「……もう既に任務は完了しましたよ。倉庫内は制圧しました」
『お前……また一人でやったのか!? 何度も危険だと言うのが分からんのか!?』
「危険なのは分かってます。けど、毎回成功させてるんだから、別にいいじゃないすか」
『よくない! お前は自分の立場も考えろ!』
「立場って何なんすか。……"あのじいさん"が俺の義理の親だからですか? 橋本さんはそんなこと関係ない人の一人だと思ってたつもりなんすけどね」
『誰もそんなことは言っていないだろう! 俺は一上司としてだな……!』
「あぁ、もう説教なら後で聞きますから。……ちょっと待っててくださいよ」
優輝が無線越しにそう言う最中、不意に何かが倉庫の奥の方に見えた。それは薄暗い、何も無い空間のように思える。倉庫の奥は夜の月の光が天井から差し込むぐらいで、明るさなどまるでない。闇しかないその奥の方に、何かが光っているような気がした。
無線から上司の橋本の声が何かを叫んでいる中、優輝はゆっくりとその場所へ近づいていく。
ダンボールがその場所にだけ多量に詰まれ、明らかに不自然な壁の造りがあった。どう見ても何かがあると思った優輝は、そのダンボールを崩し、奥を調べてみる。するとそこには——
「あぁ……橋本さん。すみませんけど、少しだけ遅れますよ」
『……って、やっと返事をしたか、と思えば何だ? 遅れる? 一体何があった!?』
「いえ……まあ、簡単に言えば——興味深いものを発見しました』
奥には、科学研究所のような施設に続く、特殊な構造で出来たものが後に続いていたのであった。