ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.25 )
日時: 2013/02/15 02:04
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)
参照: 今回文字数パネェです……申し訳ないです;

電脳世界の出現によって様々な人間が超能力を持った現在では、地上は様々な地方ごとに隔離されている。
この頃はまだアンダーは無く、全員が地上で暮らしていた。しかし、能力者は研究対象及びに更なる超能力者へと向けての研究や国の発展等に繋がらせるべく、幾つかの都市を隔離してそこに能力関係の研究等をさせるように政府から命じられている。もはや能力はほとんど日常生活に侵食しており様々な所で見受けられるが、能力者は日常生活上で危険性のあるものは使用してはならない。
どこかで能力者同士を戦わせ、どちらが強いかを競い合う賭け事があるそうだが、表沙汰にはなっていない。しかし、そういった場所があるのもまた事実で、世界はそれほどまでに能力というカテゴリによって異変を起こしているということだった。

白夜と那祈が出会い数日経った頃、二人は屋敷の外へと出ていた。勿論、例の研究所へと向かう為であるが、詳しい場所は那祈にも分からないのだという。
その理由としては、誘拐のような形で研究所に連れて来られ、個人の意思とは関係なく実験用モルモットとされた為である。
何の実験なのか、それはもはや明確な答えが誰でも出てしまう。勿論、電脳能力者に対する実験。ということは、能力者ばかりが誘拐させられ、研究所に集められているということである。

「能力者ということは、お前もか?」
「うん……一応、そうみたい」
「そうみたい?」
「何だかよく分からないけど、それまで私は能力何かとは無縁の状態だったの。私のお母さんとお父さんはもう死んじゃって、孤児として育てられたからかもだけど……能力者の街のこととか、全然知らないの。普通の暮らしをしてたかなぁ。そんな時、能力者かどうかの適正検査みたいなのがあって、それで私適正ありって診断が出ちゃって……覚醒した恐れがあるから、とりあえず近くの能力者の街……"久樹市"(ひさきし)で検査入院することになって……そこで、誘拐されたの」

那祈の表情は終始元気は無かった。昨日も那祈は一人別室で泣いていた。その姿を白夜は目撃していた。
それほどまでに、どうしようもなく傷ついている。那祈の心はボロボロだった。服を買ったり、数日だけではあるが那祈と一緒に過ごした時間の中で日ごろの明るさ反面、弱いのかもしれないと思わせた。明るく見せることで、相手を安心させる。だが、実際は内心傷つき、一人で抑えるのに必死になっている。堪えて、堪えて。それでもダメな時は、一人で泣く。そうすることで、色々なことに踏ん切りをつけてきたのだろう。

「とても怖かった。どこに連れて行かれるんだろうって。そしたら、だんだんと眠たくなってきて……何か薬を嗅がされたんだと思う。それで、気付いたら研究所にいて……。そこで、ビックリしたことがあったの」

白夜が歩くスペースを那祈が合わせたり、那祈が歩くスペースを白夜が合わせたりする中、この蒸し暑い季節の中で那祈は一呼吸置いて声を出した。

「同じ……同じ、孤児院の子達がいたの。孤児院のおばさん達に聞いたら、養子に行ったとか実の親が迎えに来たって言ってた子達ばかり。私、変だと思ってたの。今までずっと、ずっとよ? ずっと……そんなの今までなかったのに、突然来たんだもの。それも一人や二人じゃない。一日多い時には4,5人……いえもっと大勢来てた。……それに、朝から見かけなかった子もいたの。皆朝は早起きで、6:00ぐらいには全員起きるの。でも、昨日までいた子は何故かその時いなくて、聞いたら養子に行っちゃったって何度質問してもその一点張りだった」
「……つまり、孤児院の大人達は嘘をついていた、ということか?」
「考えたくないけれど、そうとしか思えない。研究所でまた再開した時には、"数人は"私の名前を覚えててくれてたから」

所々、那祈の言葉には理解しがたない言葉が入っていた。白夜は当然、それらを理解出来ないものとして質問を投げかけていた。

「……孤児院に、那祈は何年いたんだ?」
「え? ……んーと、これでも結構長いんだ、私。自慢じゃないけど、私は皆の名前言えるよ! そうだなぁ……10年ぐらい? かな」
「……お前は全員の名前を言える。つまり、全員と面識があるほどお前は孤児院にいる。そんなお前のことを"見覚えがない"奴がいるというのはおかしくないか?」
「……確かに、うん。凄くショックだった。結構親しかった子も私のこと忘れてて……毎日一緒に遊んでたりしたのに、"覚えてない"って言われるの」

何故そんなことが起きたのか。毎日一緒に遊んでいたりもすれば、そう忘れることはないはずである。那祈の性格的にも、話していないという子はいないようだった。それなのに何故忘れられているのか、白夜は疑問が高まるにつれ、先ほど言っていた孤児院の大人達。
何故そんな嘘を吐く必要があったのか。誘拐などを言わない方が安心という意味もあり黙っていたのだろうか。しかし、そう何度も同じ孤児院で誘拐が起きるものなのだろうか。一度起きるだけでも大事だというのに、頻繁に起こっているという。中には本当に親が見つかったのかもしれないが、そのほとんどは研究所で那祈が発見しているのだ。百聞は一見にしかずとはこのことである。

更に、最大の疑問点によって白夜は目的地を定めた。

研究所は能力者を集めている。それなら能力者の街で、能力者を誘拐する方が効率が高い。孤児など、身元が分かりにくい上に能力者かどうかの判断もつけにくいはず。しかし、実際に孤児院から誘拐が多発した。ということは、つまり——

「行くぞ」
「え? どこへ、ですか?」
「——お前のいた、孤児院だ」

那祈のいた孤児院は"能力者がわざと集められている"ということになる。

——————————

孤児院というより、そこは教会だった。教会と同じように隣接されて出来ていた。"アルファード教会"という名の下の孤児院である。
久樹市とアルファード教会は、ほぼ目と鼻の先程度の近さといっていいほどの距離で、その距離も怪しく思えてくる。
那祈に道中、一番に何故この教会へと帰らなかったのか聞くと"怖かった"と答えた。自分も養子やらと他の皆に言われているのではないか、という気がしたのだ。そうでないように祈りながら、でもそれでも、戻る勇気はなかった。そうして迷っている間に、黒服達に捕まってしまい、そんな絶望の中に突然現れたのが白夜だったのだ。

白夜は自分が能力者だということを隠している為か、普通の住宅地で生活を送っている。そういった隠れ能力者もおり、見つかると事情次第である程度処罰されることになる。
理由は様々だが、那祈はそのことについて白夜に聞けなかった。何か、触れてはいけないようなものを白夜の中に那祈は感じていた。それに触れて傷つけてしまわないか不安で、白夜のことが心配だった。

そんな裏腹、孤児院ことアルフォード教会へ到着した。そこで、異変を感じ取ったのは——那祈だった。

「あれ……? いつもなら、皆が遊んでる声が聞こえるはずなのに……」
「寝ていたりしないのか?」
「今って、朝の10:00だよ? そんな時間に寝ないし、多分外で遊んでる頃だと思うんだけど……」

那祈の言い分もそうだが、白夜自身も異変は感じ取っていた。この奥には、何か隠された秘密がある。それと同時に、嫌な予感もしていた。

「話を聞きに行くぞ」
「うん、勿論そのつもりだよっ」

那祈は白夜が行くよりも先に中へと入っていった。それを止めることが出来ず、白夜もそれを追いかけて中へと入っていった。

——————————

教会の扉を開けたその先には、巨大なステンドガラスが張り巡らされていた。まさに想像した通りの教会のイメージがそのままそこにあるような感じである。巨大な天使が飛び交い、その中心にはキリストの絵が描かれている。その迫力に圧倒されるのも束の間、その奥には、教壇の前で書物を手にしているシスターの姿が見えた。たった一人、そこで何かを呟いているようである。
その姿を那祈がまず確認し、それから白夜も続けて入った。その途端、シスターの呟きが止まり、聖書を閉じる音が微かに聞こえた。

「おやおや……そんなに慌ててどうしたのです? 神を前にして、罰が当たりますよ?」

神、というのはどうやらステンドグラスに映っているキリストの絵のことを言っているらしく、白夜と那祈からは背中姿からしか見えないが、その頭部がゆっくりとステンドグラスをまるで仰ぎ見るように傾いた。

「あぁ、神よ……。何て神々しいのでしょうか。もし世界が狂ったとしても、貴方がいる限り……世界は終わらないのです」

そしてゆっくりと、そのシスターは白夜と那祈の方へと振り返った。綺麗な金髪の髪がそこでやっと分かった。日本人離れしたその雰囲気は髪の色と目の色が青色ということだけで分かる。シスターという印象を誰もが受ける服装、十字架を首にかけ、その女性は艶美に笑った。

「ユリア……さん?」

那祈が突然呟いたその宛先は、勿論艶美に笑う女性にであろう。
ユリアと呼ばれたその瞬間、その金髪の女性は淑女のような微笑を浮かべ、わざとらしい声を出した。

「あら? 禾咲さんですか? お久しぶりですね……検査入院、とっても長かったようですね?」
「検査入院なんて……してないです。私、誘拐されてたんです」
「誘拐? ……そんな大変なことになってるなんて。どうやってここに——」
「あの、ユリアさん。皆は……ここにいた皆はどこに行ったんですか?」

ユリアの言葉を遮り、那祈は言い放った。これまでにない、強い口調だった。しかし、その言葉とは裏腹に手が震えている。それは何の感情がこめられているのか、那祈は感情のままに声を何とか絞り出していた。そうしなければ、恐怖に負けてしまいそうだったから。

ユリアは、口元は微笑のまま、しかし目は笑っておらず、先ほどとは違う雰囲気で口を開いた。

「……人の話を遮るというのは、淑女たるものいけませんよ? ふふ……皆さんなら、お散歩に行かれましたが?」
「そんなの……!」

那祈は震える。声も震える。けど、それを必死に搾り出して言った。


「そんなの、嘘だよ!! 私、見たよ!? 誘拐されたところで、見た! 私、皆を見た! それだけじゃない! 私は——ユリアさん、貴方も見たよ!!」


白夜も聞かされていないことだった。それは間違いなく、孤児院と研究所が結んでいる証拠である。しかし、認めたくなかった。それは彼女なりの精一杯の反抗だったのだろう。
認めたら、何もかも、自分が生きてきた今までが嘘だったように思えたのだ。那祈にとって、彼女にとってはこれまでの人生は孤独だったに違いなかった。
早くに親を亡くし、家族といえる人間が誰一人おらず、路頭に迷っていた中に出会った孤児院での"家族"。その家族の思い出は、これまでの人生の中で一番自分が守ってきた大切なものだったから。

『それでも、守りたいから。私は、私にとっては、とても大事な"家族"だから』

この言葉は、気休めの言葉ではなかった。彼女なりの本心の"願い"だった。
気付けば、彼女は涙を零していた。必死に耐えていた、その涙を。彼女は見ていた。逃げ出した時に、そこにはユリアがいた。ユリアはその場にいて、必死で逃げる那祈を——"笑って見過ごした"。
彼女は知っていたのだろう、何もかもを。そうして逃げた足の傷よりも深い傷が那祈の心にはあった。
それを聞いていたユリアは、目が笑っていなかったが先ほど同様に口元を歪ませて笑みを作ったまま、再び天使のような微笑を作り、ユリアは首を傾げて言った。

「それで?」

「……え?」

那祈はユリアを見つめる。そのユリアは、笑顔を崩すことなく、淡々と口を開いた。

「それで、私を誘拐先で見たからどうしたのですか? 貴方は何をしにここに来たのかしら? 皆に会いに来る為に? それとも、私に? ふふ、私だったら嬉しいの、かな? まあ……見逃したっていう言い方は酷いかなぁ。犬にもね? 帰省本能っていうのがありまして、また家に戻って来る習性がある。餌とかただでもらえるし、何から何まで世話まで焼いてくれる。そんな何の不自由もないところに帰ろうって犬は賢いですよね。……禾崎さん、貴方も同じですよ。賢いですね、よく戻ってきました。さぁ——皆のところに戻りましょうか」

手を差し伸ばすユリア。それを見て、手足を震わせる那祈。悔しいよりも、悲しさの方が勝っていた。いや、那祈に悔しさという感情は元からなかったのかもしれない。どうしようもない感情が一気に込み上げてくる。それをぶつける先がどこにもなくて、混乱していた。
それを見て、ユリアはおかしそうに嗤う。神を前にして嗤っていた。そうしながら、ゆっくりとユリアは近づき、そして那祈へと言った。


「ここにいる皆ね? 全員、ここから"向こう"に行っちゃった。向こうといっても、分かるでしょう? 研究所にいた貴方なら。必要のない子は——"いなくなっちゃった"」


その言葉を聞いた途端、那祈の何かが壊れたように、膝から崩れ落ちた。どうすることも出来ない感情だけが溢れ、那祈はそこで声を殺して泣き叫んだ。
それを嘲笑い、ユリアは表情はそのまま、冷徹な声で、

「禾崎さん、残念ね」

そうしてユリアが崩れ落ちている那祈へと触れようとしたその時だった。
突然、ユリアの前に何かが立ちふさがり、そして——物凄い速さで突然ユリアは吹き飛ばされた。その速度を何とか反応することが出来たユリアだが、不気味な笑みを浮かべて那祈の前に立ちふさがる者へと言った。

「なぁに? 貴方」

ユリアの代わりに、白夜が那祈の頭に手を触れていた。ゆっくりと、少しぎこちないその手は、それでも優しくその頭を撫でた。
思わず那祈は見上げ、白夜を見るが、その後ろ姿には畏怖を感じるような感覚が途端に起こった。


「……いい加減黙れ」


白夜の両手に、白と黒の光が灯る。それを見たユリアは、嬉しそうに笑い、教会の椅子の下から黒いメイスを二つ取り出した。

「たす、けて……」

その時、微かに聞こえた声。しかし、次にハッキリと言い放ったその声は——


「皆を、私を……! 助けて、白夜君!!」


泣きながら、様々な思いがこもったその言葉は、悲痛にも那祈にとって生涯初めて言った"自分を助けて欲しい"という願いだった。