ダーク・ファンタジー小説
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】参照500ありがとうございます! ( No.36 )
- 日時: 2012/11/01 20:37
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: zphvk9oo)
- 参照: テスト期間終わったので更新再開です;
青空が太陽と上手い具合に見事な快晴を照らし出し、おかげでコンクリートの温度は上昇を延々と続けていた。セミの鳴き声が否応無くそこら中から聞こえてくる。木々の間を通り抜けて幾度となく"言霊"のようにセミの鳴き声は留まることはなかった。
「あぁ、暑い……立派に夏だな、畜生」
気だるさを隠そうともせず、元から低めの位置にあったネクタイを更に下へと下ろしながらぼやきながらもハンドルを握り締める橋本の姿を一瞬でも見ようとせず、優輝もまた隣で気だるさを露わにしていた。
「そうっすねぇ……もうそろそろ、例の自治区の方へと入りますよ」
二人は車でここまで辿り着いた。もうすぐ自治区の関所となる場所が見えてくる頃である。運転しているのは橋本で、優輝はまだ免許さえもとっていないから当然の配慮と思える。
窓を全開に開けて走る車であるが、風が気持ちいいというほど冷たいものはなく、全て温い風であった為、なおさら暑さを物語らせてしまっていた。
「この暑さをまず、どうにかしてくれ……」
再び橋本がぼやいたそこで他の車が一切見えない交差点を右折する。優輝は暑さに駆られるかのように開いた窓の傍に手を置いて外を眺めていた。
木々が道なりに続く。自治区前のこの道には、昔に人が住んでいたが能力者等の戦闘などによって今は誰もいない廃墟と化したと言っても過言ではない有様であった。
「綺麗なところだったのになぁ……ったく、昔に戻りたいこったな」
懐かしむのとはまた違う、様々な感情を含めた言葉を言った橋本は、今は住まわれていない住宅街を見張った。
昔——。その言葉で少し頭痛に似たものが優輝の頭を駆け巡った。過去の過ち、あの惨劇。全て所詮は過去のものであるが、今こうして自分がここにいる理由と、この寂れた町並みが同化しているように思えて皮肉なものだと優輝は思ってしまった。
そんな優輝の姿を見てか、橋本は少しの間黙りつつも、不意に優輝へと何かを差し出した。
「ガム、食うか?」
橋本の気遣いなのであろうか。そんな他愛のない言葉を添えられた橋本の左手にあるガムではあるが、優輝はそれを見て少しほっとしていた。
「……いただきます」
遠慮することなくそれを貰い受けた。吐息を爽快にするガムではなく、どうやらそれは風船ガムのようだった。噛むと、じんわりとコーラの味が舌の上に広がっていく。ガムを噛みながら、これからの任務に集中するべく、気合を入れる為の溜息を強く吐いた。
「もうそろそろ関所に着く頃——」
と、優輝が言いかけたその時、橋本が突然急ブレーキをかけた。
思わず前のめりに体が慣性の法則に従って揺れる。シートベルトのおかげで前のガラスへと激突せずに済んだわけだが、優輝は橋本に文句をぶつける前に前方を見つめた。
車から遠目に数十メートル先のそこには何人かの銃やらの装備を身につけた男達がいた。どうやら検問のようではあるが、装備が装備なだけに厳戒態勢のようである。
それにいち早く気付いた橋本は急ブレーキをかけたというわけであった。
「やっぱり検問か……っと。日上、大丈夫か?」
「まあ……はい。一応」
頭はよくとも、反動によってシートベルトが体に押さえつけられて多少ヒリヒリとした痛みを負っていたが、特にそれを言わず、ぶっきらぼうに言い放つと優輝は口にあったまだ味のあるガムを紙に吐き捨てた。
「で……どうします?」
「どうするもこうするもないだろう。政府から任意された武装警察の名がこんなところで廃らせるものか」
「もしかして……」
橋本は返事を返す代わりにアクセルを踏み込む。前進していく車の中で、想定内ではあったが出来る限り避けたかったことが今まさに起ころうとしていることを優輝は深い溜息として表した。
車はやがて、検問のすぐ傍まで訪れる。すると、検問の傍にいた武装民間人らしき者達が声を高らかに停止させることを伝えてくる。車はそれに応じて停止し、橋本と優輝は武装民間人らが近づくことに合わせるようにして車から出た。
「何者だ!」
すぐさま銃を構える武装民間人らであるが、慣れていない手つきの者もちらほらといることが分かる。声を荒げて命じているのは慣れた手つきで銃口を優輝らに見せる男だった。
「まあまあ、落ち着いてくれ。突然銃を構えるのは客人に失礼じゃないか?」
「黙れ! 今は厳戒態勢に入っている! 即刻名乗らなければ手段は選ばない!」
再度銃を握り締めて話す橋本に向けて銃口を定めた。その延長線上には丁度橋本の額がある。
そのような状況であるが、実に橋本は冷静な振る舞いを見せ、慣れたような口調で言葉を発した。
「あぁ、厳戒態勢中ご苦労さん。……で、ここを通してくれ。そして、それ以上銃口を向け続けていたら"良くない"。だから向けないで欲しい」
「何……? てめぇ——!」
「俺らは武装警察だ。慣れない手つきでない連中も混じっているようだが……戦闘はやめておいた方がいいと思うぞ」
武装警察の手帳を見せながら言い放った橋本に対して、武装警察と聞いたことにより、銃を握り締めていた手が若干緩み始めた。
武装警察というのはそもそも政府の認めた組織であり、その業務は普通の警察と同様のものとされている為、民間人の味方であるのは当然のことであるのだが、能力を使って生業をしていることで一般市民から疎遠に近い関係性を辿ることとなってしまっている。
よほどのことがない限りは能力者犯罪及び武装警察が動くことはそうない。警察内部の人間でさえも武装警察に配属している能力者のことを忌み嫌う者がいるぐらいである。
それは、武装警察でも上層部は普通の人間であるからだった。
とはいっても、政府より直々に能力の使用が認められている為、通常の警察よりも遥かに恐ろしい存在になっているのは確かである。
その為、反抗すれば能力の使用を許可させることになる。そういった大義名分がついてしまうのだ。
「一体何の用だ……!」
「何の用もクソも、厳戒態勢に至った原因を調べにきた以外にない。ということで通してくれ」
橋本の言い分を聞き、次第に検問を通すように指示が下った。橋本と優輝は最後まで警戒しつつ、車へと乗り込む。橋本がアクセルを踏み、開けた道を車で走った。
その際、優輝は小さく溜息を吐き、仕込んであった自らの太刀を手に持った。そして、橋本も手にした煙草を外へと投げ捨て、検問が後ろ彼方へと遠ざかっていくことをバックミラーで確認——の最中に、何かが見えた。
それはあまりに不自然かつ、見た目で一目瞭然のものだった。
一定のリズムを刻み、"それ"は赤いランプが点滅していた。タイマー設定は無いところを見ると、どこかにスイッチがあるのだろう。それは確かに後部座席に鎮座してあり、ご丁寧にガムテープでしっかりと留められていた。
そう、それは——爆弾であった。
「逃げろっ!!」
橋本のかけ声一つで、二人は両側のドアから一斉に飛び出したその瞬間、凄まじい爆音と共に巻き起こった爆風に覆われ、二人はそのまま投げ飛ばされるかのように地面へと転がり落ちる。
車は勿論炎上し、アスファルトの上を半回転してタイヤを仰向けにした状態へと瞬く間に変化していた。
しかし、これだけでは終わらない。車は既に炎上しているが、その様子を確かめにきたように先ほどの民間の兵士たちが集ってくる。丁度十字路のところだった為、その角で優輝と橋本はお互い両サイドに隠れていた。
生憎、まだここの辺りは厳戒態勢に入っていることもあり、誰もいない。虚しく十字路の真ん中で車が炎上していたとしても、何ら迷惑はかからないのである。
「やっぱりきやがったなっ!」
橋本がそんなことを言いながら胸ポケットから拳銃を取り出し、構えた。優輝は竹刀を入れるような袋に仕込んであった太刀を素早く出し、柄に手を握り締めたまま見張った。
お互いを見つめ合い、二人はだんだんと近づいてくる足音を待った。そして、アイコンタクトを送り、優輝が小さくその合図を数える。
「いち……にぃの……さんっ!!」
素早く転がり、二人は角から飛び出した。案の定、足音の数を聞いた結果おおよそ10名近くの者が既に近づいてきていた。炎上した車を中心として、そこから程なくすぐ傍まで近づいてきていた者に対して瞬時に手に持っていた銃を太刀で切り払う優輝。
それとほぼ同時に拳銃を構えた橋本が優輝の近くで銃を構えていた男達の足へと銃弾を3,4発命中させた。
「いたぞっ!! 殺せぇっ!!」
先ほどの検問で話していた手馴れた手つきの男が怒鳴り、それぞれに散らばりつつも銃で牽制を仕掛けてくる。
「あれだけ手を出すなって言ったのになっ!」
銃弾をかろうじて避けつつ、優輝は太刀を横にした構える。その前方には炎上し、タイヤが仰向けになっている車がそこに鎮座していた。
「——こぉんの野郎っ!」
足を踏ん張らせ、太刀を一閃、横に薙ぎ払った。真っ直ぐ、蒼い光のようなものが太刀と共に流れるように。それを見届けた後、既に車は真っ二つに一刀両断され、半分になった炎上した車はそのまま前のめりに倒れようとしていた。
「おいっ! 車は経費でおちねぇんだぞっ!」
「もう炎上してたじゃないすかっ!」
橋本が銃を撃ちながらもそう言ったが、優輝も反論する。それだけの余裕を保ちながらも、民間人の兵たちは既に焦りを見せていた。
先ほどの真っ二つに斬れた車はそのまま兵の元に襲いかかり、逃げ出す者もいれば、気を失った者もいる。所詮はただの民間人の集まりに過ぎず、プロと言える者はわずかであった。
「お前等っ! 何してんだ! 立て! 立てぇっ!!」
気を失っている者達などに声をかけるが、応答は勿論ない。そんな状況下ではあるが、まだ反抗の意思を示す者が4,5人いた。
「ったく……面倒臭いが、やるしかねぇか……」
橋本が傍に設置されていた巨大な鉄柱を片手一本で軽々と持ち上げた。
その太さといい、重さといい、到底人が持ち上げれそうにないものである。それも、アスファルトの中に埋められてあったものを無理矢理引きずり出していたのである。
握られたその手には、鉄柱が砕けた痕がある。
橋本の能力は、常人ではない握力と筋力であるらしく、ほとんどのものは片手一つで何でも持ち上がる。そして勿論、その筋力を使って投げることも可能。
「これで……終わりにしとけ」
力を込め、何時の間に咥えていたのか、煙草を口に咥えながら鉄柱を持った手を大きく振りかぶった。
その鉄柱は襲いかかってきていた銃弾に当たっても止まらずに、最終的には壁へと激突し、鉄柱が壁に刺さったような状態になっていた。
そんな有り得ない出来事を目の当たりにした一同は銃など捨ててその場を立ち去ってしまっていた。
その様子を見ていた優輝は太刀を鞘に納めてから溜息をまた一つ吐いた。
「最近溜息が多いな、日上」
「最近疲れることが多いもんで……。早くこの仕事を終わらせて、黒獅子の情報を——」
と、ここまで口に出したところで奥の方から銃声と爆音が鳴り響く音が聞こえてきた。煙が瞬く間にあがり、どうやら街は炎上しているようである。
「あれは……久樹市の方か?」
「行きましょう、橋本さん!」
優輝と橋本はその音の正体を確かめる為に唯一の自治都市"久樹市"へと向かって行った。
いつの間にか、セミのうるさい鳴き声が消えてしまっていたことにも気付かずに。