ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.4 )
日時: 2013/01/18 00:55
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)

 暗い部屋の中で目が覚めた。目がそこに慣れているのか、微かにではあるが薄暗い光が外から少し漏れている為、周りの様子が何となく把握できる。
 周りにあるものはほとんどダンボールの山だった。そこら中に積まれ、中に何が入っているかまでは分からない。ただ埃が表面についているものや、ついていないものもあるぐらいの違いだけである。
 そんな部屋の中で少年と少女がいた。

 言葉を発することもなく、少年は黙って目を覚ました。周りの様子を確かめ、そうして自分以外に少女の存在がいることに気がついたであった。
 気配と、微かに見える人物像を頼りにダンボールを押し退けて見る。手についた埃など気にすることはなかったが、自分の手足が双方結ばれていることを動かしてみてやっと気付いた。
 少し埃臭いのを我慢して、這いずりながら少年は少女へと近づいてみる。微かにではあるが、一定のリズムで聞こえてくる吐息を聞き取り、少女は生きていることを確認。どうやら寝ているようだった。

 どうしてこんなところに閉じ込められているのか。少年は何も思い出せない。思い出そうとしても、頭の中には何も無いのである。ただ人間として生きていく知識があるぐらいで、思い出やその他日常の記憶などが全く無くなっていた。
 そのことに気付くこともなく、どうしようかと少年はその場で少女を見つめるばかりで、辺りを見回すこともなく、ただそこに佇む。

(このまま、死ぬんだろうか)

 言葉が脳裏を過ぎっていく。少年は力が抜けたように床へと寝転がると、少女の背中を見つめた。自分と同じぐらいの歳の少女。この少女も、自分と同じように死ぬのだろうか、と考えてしまっていた。
 ——だがしかし、そんな考えは途中で強制終了される。それは、突然物音を立てて、開くはずのない扉が開いた為だった。

 眩しい光が目に差し込んでくる。思わず目を細めてしまうが、しっかりと光の差し込んでくる方を見た。 そこには、一つの人影がハッキリと映っていたのである。

「——大丈夫か?」

 子供の姿。白いパーカーを着た銀髪の少年がそこにいた。

「俺は月影 白夜。お前達を助けに来た」

 銀紙の少年の後方より差し込んでくる光は少年の目へ当たり、だんだんと人影に覆われて失っていく。気付けば、月影 白夜と名乗る銀髪の少年は目の前にまで来ていた。そして、白夜も、目の前にいる少年少女を見つめる。
 倒れている少年の目は虚ろ気に白夜を見つめており、少女は寝息をたてていた。どちらも、衰弱しているように見える。ゆっくりと近づき、白夜は二人に結ばれていた手足の縄を解いた。

「動けるか?」

 白夜が聞いても、少年は答えない。答えたくても答えられないようだった。声が出ない、というより自分の置かされた状況が把握できていないのか、呆然としている。
 しかし、白夜の声が耳に届いたのは確かなようで、少年はゆっくりと頷いた。
 そして、光が少し射し込む。少年の顔へと、ゆっくりと。

 ——少年の眼は、先ほどまで両目共に黒色だったが、何故か今は銀色の眼を左目から見せていた。


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第1話:白夜の光

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 世界は劇的な変化を遂げた。
 それは何時からのことだったかということはこの世界に住む者からしたら関係ない。ただ、世界がそう望み、そう変化しただけ。それがいかに必然的なことであろうとも、人間達にとってその過程のことなどどうでもいいことだった。

 世界は普通ではなくなったのは、突然のことだった。
 インターネットの無数飛び交う情報の中に一つの異次元が突拍子もなく現れたのである。その異次元の正体は不明で、解析しようともまるで分からない、まさに謎の情報物体だった。
 科学者達はそれを解明しようと試行錯誤を繰り返し、何度も実験を試みたが、一つのある事実が判明する。
 その事実は、この物体そのものがまさに異世界だということだった。この世界とは根本的に違う、科学的に存在する異次元世界。つまり、パラレルワールドのようなもので、電脳世界と呼ぶのに相応しいものだということである。
 電脳世界には未知の部分が多く、科学者の誰もがその存在を恐れる中、とある一人の科学者が人類で初めて電脳世界へと足を踏み入れた。その科学者がアクセスし終えると、見た目は何も変わらなかったが、とある変化が現実世界で起こる由縁となってしまったのである。

 それが、能力——キューヴの誕生だった。

 キューヴとは、電脳世界を通して得られる能力のことで、元々の能力が人間それぞれの体内に潜在しており、なおかつそれが覚醒された時、現実世界にてキューヴたる能力が発動できるようになるというものだった。
 電脳世界は、まさに人間に新たな力を加えた脅威の世界。しかし、それら多くの謎がある反面、それを有効活用出来れば世界は素晴らしい変化を遂げる。そんな電脳世界を、人々はいつしかこう呼んだ。

【エデン】と。

 初めて電脳世界へと足を踏み入れた科学者は、潜在能力が覚醒し、人類において初めての電脳能力者となったのである——

 今では、電脳能力者は政府機関を通して教育までもがされる時代でおり、能力者も居住を共に出来るように設定された専用都市までもが存在する。能力の使用は禁止されているが、警察側でも能力者を逮捕する為に電脳能力者を配備することとなり、能力の使用は黙認されるほどの影響を受けていた。

 そして、世界は次第に狂っていくことになった。
 ——数年前に起きた、世界中の悲劇となってしまった"あの戦争"をきっかけとして。

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 大きく円状に囲まれた膜のようなものが大空を旋回している都市に、月影 白夜と少年達の姿はあった。
 旋回しているのは流れ星のように煌く光が何度も膜の外側を行き来している。これも電脳世界、エデンの影響によるものであった。薄い膜のように、あらゆる物質などを防ぐ結界代わりになるバリアが張られているのだ。それは、この都市に住む能力者達の為であり、能力によって街が壊されるのをこの膜が内側外側関係なく防ぐ役目を担っている。内側は勿論だが、外側に関しては攻撃してくる外敵のみにしか反応はしないが、このバリアが破られたことは今までに一度も無い。

 白夜達は、そんな都市の中を歩き回り、巨大に聳え立つビルの前へと着いた。真上を見上げて階数を数えるだけでも一苦労しそうなこのビルの中へと連れ込む。淡々と入っていく白夜の後ろを、少年はいそいそと着いて行き、少女は相変わらず白夜の背中の上で眠っていた。
 ビルの中に入ると、忙しそうに人が行き交う平凡な会社風景がそこに広がっていた。広いホールフロアに、受付が配備され、エスカレーターが上り下り両方が3つ完備されている。エスカレーターの上には、エレベーターが4つほど見え、色んな人が上へ下へ左右へと移動を繰り返しては忙しなく働いていく。

 少年の姿はあんなホコリ臭い場所に放り込まれていたこともあって、とても薄汚れていた。それは白夜の背中で眠っている少女も同じこと。行き交う人々は、そんな少年の姿と、背中に少女を背負っている白夜の姿を見て見ぬフリを繰り返していた。
 ゆっくりと白夜は受付の方へと向かい、受付で営業顔をしている20代前半の女性へ、

「"アンダー"に用がある」

と、白夜が言った。
 それに対し、ピクリとも表情を変えず、女性はゆっくり頷くと、手元にあるパソコンの画面を見つめ、数十秒時間が経過した後、ようやく女性の口が開く。

「……了承しました。お名前をどうぞ」

 女性の無機質な声に応答するように、白夜もそれを淡々と返答する。

「月影 白夜だ」
「……確認しました。どうぞ、奥へとお進みください」

 無線機のようなものが急にピーっと音を鳴らした。その音を聞くや否や、白夜は奥の方にあるエレベーターへと乗り込む。4つある内の一つではなく、受付のより奥の方にある隠されたエレベーターにである。
 少年もそこへ乗り込み、白夜は閉と書かれてあるボタンを押す。ドアはゆっくりと閉まり、エレベーターは重音を響かせて動き出す。そのエレベーターには階数を表すボタンが一つもない。ただ扉の上に地下を示す表示だけがあり、もの凄い勢いでエレベーターは降下する。地下へ、地下へと辿り着いたその先には——

 能力者達が集う都市。いや、世界というのだろうか。能力を自由に行使し、マナーもルールもまるでない。
 そんな無法地帯が地下に都市として大きく広がっていた。