ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.46 )
日時: 2013/01/01 23:43
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: JzVAb9Bh)
参照: かなり悩んだ展開です;なので遅れました、すみませんorz

「お前は……」

仮面の男と対峙し、白夜は言葉を漏らした。
エルトール襲撃の際に遭遇した仮面の男。それが今、目の前に再び現れたのである。
爆発音の原因はあちこちに炎上して転倒した車がある為、恐らくそれらを爆破したのだろうと推測することが出来る。仮面の男がそれを行ったのか、もしくはもう一人の男がそれを行ったのかは定かではないが、爆破を行った理由は不明であった。

「ふふ、また会ったねぇ?」

不気味な笑みを浮かべているのであろうが、それが仮面の下に隠されて確認できない。その代わりのように、仮面の男の傍にいる男が笑みを浮かべた。

「君の救出劇、なかなか良かったで? 一部始終見させてもらいましたけど、大半の連中は爆風で吹き飛ばして気絶させる程度。一番手っ取り早い方法やろうけど……甘いわ、白夜クン」

調子に乗ったような口調で白夜を挑発するかのように流暢と言葉を並べていく。
言っている内容は既に想像がついていた。恐らく、昨日の事件のことだろうと。これまで幾度と任務をこなしてきたが、人質事件は滅多にない。それも、人質がいる状況なら能力者集団のエルトールではなく、警察に届出をするのが普通である。エルトールは警察のような義務に命じて任務を執行するのではなく、あくまで能力者個人として悪人を断罪するという名目上で行っている為、人質などがいるという把握はそもそも必要性がない。

しかし、白夜はあの人質事件に少なからず疑問を抱いていたことによって、この男がその場で自分の行動を見ていたということ自体に不信感を漂わせた。
最初に疑問を抱く点として、依頼者が明確でないこと。それはディストの口からも告げられていない。極秘のことらしく、聞き流してはいたが、よく考えると敵が散々窃盗や人殺しまで罪を重ねてきた極悪集団である。それらが人質にとるということは、それだけの"価値"があったということ。考えられるとしたら、依頼者はこの事件を隠したがっているか、あるいは別の理由が考えられる。

しかし、連中の規模はあれだけではない。他にも大勢に派閥が分かれており、各地に散らばっている。だとしたら、人質がなくとも簡単に逃げることが出来たのではないか、と考えていた。

「……何が言いたい?」

謎ばかりが闊歩していく中、白夜は開いての反応を確かめつつ、口を開いた。
真意をここで問いただしたとしても、恐らく何も得ることは出来ないだろう。それが分かっているからこそ、聞いたということもある。答えないならば、この真意は何か意味があるのだろう。
言葉を待つ間がとても長く感じられる。しかし、その始まりは男の不愉快な笑い声だった。

「あははっ! 白夜クン、やっぱり君は面白いなぁ……。いや、特に意味はないねん。たまたま君を見かけたから、つい見てみたくなってなぁ」
「たまたま? あの場所は人が住む場所から遠く離れた廃墟だ。そんな言い訳が通用すると思ったのか?」
「ふふ、こりゃ失敬したわぁ。たまたまやなくて……君が本当に"月影 白夜"なんか確認しただけやねん」
「何……?」

男の言葉がどこか意味深な雰囲気を匂わせていた。しかし、白夜にはその正体が掴めない。何かを隠しているということは分かるが、それは実体のない何かであるがうえにこそ分からずとも感じられたのだ。
ただの言い回しなのか、それとも別の陰謀か。その二つのどちらを選択するにしても、まだ十分な確証は得られていない。

「白夜光。お前は……あの男と知り合いなのか?」

不意に、今まで口を開かなかった凪が白夜に問いただした。しかし、目線は真っ直ぐと男、ではない。その奥におり、どういう表情を浮かべているのか分からない仮面の者に向けられているような、そんな遠くを見つめる瞳であった。
しかし、言葉と瞳とは裏腹に、手はしっかりと腰にある二丁拳銃へと伸びていた。

「いや……前の男は見ていない。奥の、仮面の男は見たことがある」
「どこでだ?」
「エルトールの門前だ。絶撃が戻る前に事件が起きたことは……聞いているか?」
「あぁ……あれか」

その時、どこか不自然な、凪にしては間の抜けた返事をしたような気がした。しかし、白夜は言葉を続ける。

「その発端らしき男が、仮面の男だ。あの時は問いただすことも出来ずに逃げられた」
「なら、決定だな」

白夜が返事をする前に、凪はとてつもない速さで拳銃を抜き、それがようやく確認できた頃には既に二、三回の破裂音がセンター街に鳴り響いた。

「ごっつう速いなぁ。噂通りやね、その身体能力?」

男は平然と、弾を腹部に直撃させていた。しかし、血は全く出ていない。それどころか、直撃したというのに未だ銃弾は男の腹部、直撃点で回転を続けていた。

「にしても短気やなぁ……。もうちょい待たれへんのかい?」
「何を待つ必要がある? 我々の任務は断罪の連行だ。邪魔な者は——排除するのみ」

途端、即座に凪はその場から飛び出した。ナイフを右手に、左手には拳銃へと変更させており、男へと難なく近づく。そして、素早い動きでナイフを男へと振り下ろす。

「はっやいわー。"ラプソディ"さん、どないしましょ」

ナイフを振り下ろした速度はとてつもなく速く、通常の人間では捉えるのは難しいほどの速度をそれは保っていたが、男は避けるどころか、手でナイフを持つ手首へと当てて止めた。凪はそこから蹴りを繰り出すが、男は手でそれを防ぎ、一旦両者は離れた。
ラプソディは変わらず、足を組み、手を組んだ態勢で動かず、黙っていたが、遂に口を開いた。

「構わないよ。僕は話があるからね。……ねぇ? 月影 白夜」
「……お前には、聞きたいことがある。素直に答えなければ、容赦はしない」

白夜の言葉に、ラプソディは高笑いをした。肩を小刻みに上下させ、笑いを堪えながらようやく立ち上がった。

「答えたら、容赦してくれるのかな? ……ふふ、あはははは! 偽善者にでもなったつもりかなぁ? そんなもの、君の中の"狂気"を飼い殺しにしているに過ぎない。君は元々そんな面をしていい人間じゃない。分かっているんだろう?」
「俺の、何を知っている……?」

白夜の両腕に光が灯る。お互いに真逆の色合いを魅せながら、しかしラプソディは続ける。そして、その言葉は白夜の核心を突くものであった。


「己の使命とすることで、現実から逃げている君は何だい? "自らの狂気"によって、生きる理由の全てを無くしたというのに」


「——ッ!!」

その瞬間、白夜の両腕が先ほど以上の輝きを灯らせた。その目は既に通常ではない。怒りに満ちた白夜の表情だった。

「どうして、そのことを知っている、貴様が……ッ!」
「ほら、暴れて見せてよ。そうしたら、教えてあげるよ。君の探している黒獅子のことも。そして——ルトのことも、ね」
「な……ッ!?」

白夜にとって、それは己の使命としてきた。
黒獅子が唯一の情報。しかし、ルトのことを知っている人間が、目の前にいる。全てを知っているらしいこの男に全てを聞き、その後から背負ってきた全てがやり直せるかもしれない。そんな、淡い、抱きも出来なかった感情がだんだんと奥の方から膨らんでいることを感じた。

「必ず……話してもらうぞ……ッ!」

決意を込めた白夜の言葉に、決められた使命は果たしてあるのか。
変わりようのない過去が、白夜の荒ぶる心を煽り始めたのであった。

——————————

一方その頃、優輝と橋本は爆発音の聞こえた場所へと向かっていた。しかし、方向がよく分からず、何より先ほどから住民の姿が一向に見えない為場所も特定できずにいた。

「くっそ、どっち行ったらいいんだ?」
「結構広いんですよね、自治都市は。6番街まで分かれてますから」

走る二人の元に耳元から音が聞こえてきた。通信用のイヤホンが装着されていたことを思い出し、耳を傾けた。

「聞こえる?」

千晴の声が優輝と橋本の耳元から聞こえた。

「あぁ、聞こえるよ。何か分かったことがあるのか?」
「まあね。自治都市の情報なんだけど、不可解なことがここ最近いくつも起きているらしいのよ。だけど、それを表に出したことは一度もなくて……断罪には関係ないと思うんだけど、失踪者について関係あるかもしれないって思って」
「教えてくれ」

話している間にも優輝と橋本は誰もいない路地を走り抜けていく。

「何だか、住民の失踪事件が相次いでいるらしいのよ。でも、町の外に出た形跡はないみたいだし、失踪届けも出されてない。まるで、神隠しにあっているかのような……存在が消えていくっていうのかな。住民が忽然と消していくっていう事件が起きているみたい」
「確かに……警備には人が大勢いたけど、中はまるでゴーストタウンみたいだ。誰もいない……人気さえもないよ。警備の中には、銃に慣れてない人間もいたから、住民だとは思ったんだけど……」
「……もしかすると、知られたくないものが、その町にはあるのかもしれない。それに特殊部隊も巻き込まれて、謎の失踪をした……?」
「まさか、住民はともかく、どうして特殊部隊まで? あんな銃もロクに扱えないような連中に殺されるとも思わないし……」
「……あ、そういえば、久樹市には自治都市として完成する……今から丁度一年前かな? それ以前の時に研究所があったはず。それも極秘の研究所が」
「……怪しいな。ベイグランドの連中か? それとも……」

と、そこで言葉が一旦途切れる。丁度そこは分岐点になっていた。真っ直ぐか、左右に分かれる道がある。

「どうする? 二手に分かれるか?」

一度止まり、橋本が左右、そして直線の道を確認した後に言った。奥を覗いても、その先には何があるわけでもなく、ただ道が続いている。

「危険だとは思うけど……爆発音の在り処が気になりますね。何かが起こっているのは間違いない……センター街を目指して別々のルートで、後から合流するのもありだと思います」
「よし……分かった。必ず通信は繋いでおけよ? 絶対油断はするな」
「分かってますよ。橋本さんこそ、油断しないでくださいね?」

冗談を言うような口調で優輝は言った。その冗談に対して、橋本はいつものしかめっ面をしなかった。何故か深刻な顔をして橋本は口を開いた。

「……優輝」
「ん? 何ですか?」

一瞬の間が開き、真っ直ぐ優輝の瞳を見て橋本は呟くように言った。

「死ぬなよ」
「え……?」

その言葉がどうしてか、優輝にとって変な感触がした。
橋本は真面目な顔で、そう、それは"いつもとは違う真面目な顔"で。だからこそ変な感触がしたのである。
優輝が返答する前に、橋本は右の道へと走り去っていった。
壁に囲まれて爆発によって引き起こされたであろう煙さえもよく見えない。つまりゴールもまた分からない。そんな迷路のような路地に一人でいると、先ほどの橋本の言葉がより意味深に感じ取れるのであった。

「……まあいいか。早く急がないと……!」

橋本に続いて、優輝も真っ直ぐの道を駆け出していく。
どこに辿り着くか分からない、迷路のような道を。