ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.49 )
日時: 2013/01/01 23:40
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: JzVAb9Bh)

「はぁぁっ!!」

短く、鋭い一閃を込めて剣を秋生へと振り下ろす。斬将こと黒槍 斬斗(こくそう ざんと)はその後に片方の剣を逃げる間もなく横に薙ぎ払った。
秋生はそれを自らの刀でそれを受け止め、姿勢を低くして刀を横に振るう。しかし、それはしっかりと見切られており、剣で受け止められた。

「言っただろう? ここは通さんとな!」
「言うのは自由だ。俺は必ず通るさ」
「……ふんっ、小癪な!」

両者が剣と刀を押し合い、一旦離れる。その隙に斬斗は何故かその風景の中に取り込まれていくかのように、闇の中へと姿を紛れさせた。
それと同じく、秋生も"零旁"を発動し、姿を晦ませる。
その直後、両者がいたその丁度真ん中で、突然激しい剣と刀の交じり合いが響いた。普通の人間ならば、何もないただの空間のはず。しかし、そこでは明らかに戦闘が繰り広げられていた。

程なくして剣と刀を交じり合わせた後、ゆっくりと両者の姿が空間から浮かび上がってきた。しかし、二人共疲労した様子は見えずに臨戦状態を保っていた。——しかし、その時。

凄まじい爆音が鳴り響いた。突然のことに、秋生と斬斗も驚きを露わにした。
冷静に考え、何かが起こったことは間違いない。断罪が引き起こしたものだという可能性も無くはないが、この爆発音は意図されて起こったものなのではないかと秋生は考えた。
だとするならば、どういう理由で爆破をしたのか。敵と応戦中に、もしくは何らかの能力によって爆破。他にも様々な理由が脳内へと駆け巡るが、実物を確かめなければこの奥にあるものは分からなかった。

「こんなところで……足止め喰ってる場合じゃないな……」

呟きながら、秋生は左手に持っていた刀を逆手に持ち替えた。足に力を込め、構える。
その様子を見た斬斗は先ほどの爆発の方から向き戻し、剣一つを両手で持って身構えていた。

「……"零旁"」

風景の中に溶け込むように姿を消していく。秋生はゆっくりとそこから駆け出していた。だんだんと速度を上げ、斬斗の方へと斬りかかる——と思われたが、それは杞憂に過ぎない。
身構えていた斬斗の隣を通り過ぎようと駆け出していたのである。

「な……ッ!」

斬斗がそれに気付き、誰もいない虚空に向けて剣を横に薙ぎ払った。秋生が近づいてきた時、小さく風を感じたおかげでそこに秋生がいると分かったのだ。
しかし、それは金属音と共に、剣が激突した部分から現出されていく。
陽炎がなくなり、秋生が姿を現した時、既に斬斗の半歩後方へと進んでいた。

「させんっ!」

斬斗はもう一つの剣を引き抜き、そのまま腰をくねらせて勢いをつける。剣は風を切って、秋生の腹部を捉えようとしていた。
が、それは空振りに終わる。秋生だと思っていたそれは、突然蜃気楼のように消えて空中で霧散。
気付けば、秋生はより後方の方へと走り去っていた。

「く……卑怯な!」
「悪いな! アンタとの勝負は一旦終了だ……っと!」
「貴様ッ!」

地面を踏み鳴らし、斬斗は秋生の方へと走って来ようとするが、秋生はその斬斗がいる後方へと振り返り、口元に円を作った手をあてた。そして、そこにゆっくりと息を吹きかけていく。その息は陽炎となり、また消えるのに一日はかかるほどの熱量を持った火を生み出し、斬斗の前を一面に炎の壁で覆った。
この壁により、斬斗はこれ以上前に進むことが出来ない。

「ぬ……ぐっ!」

秋生との戦闘中に斬られた傷から発生している炎はまだ消えず、斬斗の体を少しずつ蝕んでいた。思わずその痛みによって膝をついてしまう。
先ほどまで剣を振るっていたことが凄いほどその傷痕は酷くなっていた。

完全に秋生に逃げられた後、斬斗は懐からなにやら無線の端末のようなものを取り出した。口元近くへとそれを持っていき、荒い息遣いのまま怒りを込めた口調を露わにする。

「……貴様の予告通り、逃げられた」
『あぁ、君か。ご苦労様だったね?』
「何故俺と奴等を戦わせた? 殺す必要がなければ、戦わせる必要もないだろう!」
『いや、ちゃんと意味があるよ……。十分、君には働いてもらった。感謝する』
「何……? どういうことだ?」
『ふふ……まあまあ、そう怒り口調はやめてね? 糖分が足りないんじゃないかな?』
「黙れ! 質問に答えろ!」
『乱暴だなぁ……それじゃあ答えるよ。君はね……重大な時間稼ぎをしてくれたんだ』
「時間稼ぎだと……?」

端末越しの相手は嬉しそうに笑ったような声を出し、表情さえ分からないがその顔は恍惚に満ちたような表情をしていることだろう。


『あぁ、"計画"に必要な"柱"の覚醒の時間稼ぎを、ね』


——————————

凪は、既に白夜の異変を気付いていた。
何らかの接点があるかどうか分からないが、恐らく仮面の男の言葉によって白夜は取り乱したのだろう。両手の光は荒ぶり、表情は強張っている。体が能力を求め、全身のあらゆる力が立っているだけで感じられるほど、白夜は熱に帯びていた。
しかし、そんなことは凪にとって関係はない。
ただ任務を果たすだけ。それを遂行する為に必要な過程をこなすだけ。この男達は断罪の居所を知っている。凪にはそれが直感と共に確信していた。

素早くガンベルトにあるマガジンを装着した一般の女性や子供が扱えそうにない改造した自動拳銃を両手に持つ。その早業はどれも隙がなく、その最中でも凪は目の前の敵を逃すことなどしなかった。

「やっぱり、凄いんやなぁ……。君と戦うの、ゾクゾクするわぁ」
「断罪の居所を教えろ。さもなくば任務を遂行するうえで妨害対象とみなし、交戦する」

無感情、無表情の状態で凪は言葉を並べていく。しかし、両手に握られた銃は両方ともしっかりと男の方に銃口が向けられていた。
それを見て、何が面白いのか笑い声をあげる男の様子と同じくして、その男の腹部に直撃したはずの弾がいつの間にかどこにもなくなっていることに気付く。

「そんなこと言って、どうせもう妨害対象とみなしてるやろ? 戦いたくてウズウズしてるはずや……この——殺人狂が」
「妨害対象とみなし、交戦を始める」

その直後、一気に凪の手に持たれた銃が鳴り響いた。連射されるそれの威力は申し分なく、その結果として反動が強いはずだが、凪はもろともしない。撃つ最中も浮かべているその無表情がそれら全てを掌握している風にも見える。
凪が引き金を引くたびに男の体が何度か跳ねる。しかし、倒れることはなく、男はその場で立ち続けていた。顔をふせている為、表情は分からないが、ただ"異変"を感じる。どこか、"畏怖"さえも感じさせられるような"異変"を。

マガジンに入ってある弾が全てを吐き出し終わる。両手に持たれた銃を水平にして、凪は男を見つめて様子を見た。
程なくして、男の顔が上がってくる。全身が脱力したかのように、腕も垂れ、背筋もだらしなく垂れているが、"血は全く出ていなかった"。

「ひっどいなぁ……せっかくの服が台無しやで。ほんま、薄情なやっちゃなぁ……ッ!」

その顔は——笑っていた。
男は、狂気にも見えるその表情を歪ませ、狂った笑顔を見せていたのだ。その表情を見るや否や、凪は再び新しいマガジンを装着する。

「あぁ……銃は無駄やで」

男が呟き、体中に埋め込まれた銃弾を取り込むように体内へと吸収していく。その過程で、血の代わりに出てきたものは銀色の液体だった。
その液体は男の腕へと纏われ、次第に形を変えていく。鋭利に変わっていくそれは、最終的に槍状に変化していた。
銀色の液体によって塗れた腕がその槍を掴み、ゆっくりと水平に構えていく。その延長線上にいるのは、凪である。

「普通の銃弾では殺せへん……」

と、男が呟いた刹那、手に持たれていた槍がいつの間にか放たれていた。

「ッ!」

その速度に何とか自己の身体能力で乗り切る凪であったが、その槍は凪の後方にあった炎上した車体を寸分の狂いなく突き抜け、更に奥にあった木を真っ二つに一刀両断した。
とんでもない鋭さと強度を兼ね備えたそれは木を切断した後、ようやく勢いを失くし、その場で元の銀色の液体へと戻る。

「うーん、"元ネタが銃弾"やったさかいなぁ……こんなもんか」

どうやら男は自分の身に取り込んだものを基盤として得体の知れない銀色の液体と結合させ、何らかを作ることが出来る能力ということは凪にも何となく理解できたが、まだその全貌が明らかとなっていない以上、再び銃弾を浴びせることは出来ない。

「まあ、ちょっと嫌なんやけど……とりあえず放出させてもらおかな」

すると、直撃した銃弾の傷痕部分から銀色の液体が湧き出す。それらは男の体内の中で槍状へと変化し、その数は数十本となった。
先ほどの槍が何本も現出し、そのまま男は表情を狂気に満ちた笑顔で告げた。


「ほな、いくで?」


数十本となる銀色の槍は、男の体から一斉に凪へと向けて放たれていった。

——————————

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

息切れしながらも、迷路のような路地を走り抜ける。本当にあそこで橋本と分かれて正解だったのか優輝には判断しかねていた。
意味深な橋本の言葉が脳内に纏わりついている。それは、まさに死を予感したような、そんな言い草だった。

「くそっ、どこが出口なんだ……!」

と、そうして地団駄を踏んでは駆け出すことを続けていた優輝に、ふと何かが映り込んだ。
自分の後方に、何かがいる。そんな予感と共に優輝は振り向いた。

そこには、着物の女性がいた。妖艶な雰囲気を放ち、こちらを真っ直ぐ見つめている。見惚れてしまうほどの美しさを秘めたその女性。
しかし、直感的にだが、優輝はどこか異変を感じていた。

「あ、あの……どうしてこんなところに?」

聞いてしまっていた。聞いてはいけない。そんな気もしたその質問に、女性は——笑った。妖艶な笑みを浮かべて。また、どこか"おぞましい雰囲気"さえ放つ何かを醸し出しながら、

「君は……罪人が許せないと思うかい?」
「え……?」

突然の女性からの問いに、優輝は戸惑う。こちらの質問がどうであったか、というよりその意味深な質問に心を奪われてしまっていた。

「罪人は人それぞれなんだ。何を理由にしても、人が決めた法とやら人を裁く。裁く理由なんて簡単さ。悪いことをしたから。悪いこととやらは、いくら罪人であってもそうでなかろうと、都合が悪いからそれは悪いこと。存在しては、色々と面倒だから……」

女性は困惑する優輝を放っておきながら、一人で話を続けた。

「正義なんてものは存在しない。自惚れたかつての偽善者がこれからも偽善を働き、世の役にも立たない戦争を引き起こし、かつ人を殺していく。それは間接的に。……正義なんてものは人殺しの象徴だ。理由だ。権限だ。それを振りかざし、殺していく汚い虫共は駆逐すべきだと……君もそうは思わないかい?」

ぞくり、と優輝の背筋が反応した。この女性は、冗談でこんなことを言っているのではない。明らかな何かを持って話してきている。
それは、"殺気"。殺気は優輝へと確実に向けられている。ただの女性ではない。この女性は、普通じゃない。

「ふふ……君は武装警察だったね。能力者として迫害されながらも、政府にはいい駒として働かされている。……君はそこで何をしているんだい?」

女性は、優輝が武装警察だということを"知っていた"。驚きを同じくして、優輝はこの女性が、一体誰なのかをようやく認識する。

「ただの泥沼に浸かり、息絶えていく野良犬共になっていく。そんな結末が見えているに違いないというのに、君はこうして僕の前に現れた」
「もしかして……お前は……ッ」

どくり、と感情が高まる。心臓の音が大きく聞こえてくる。冷や汗が垂れていくのを感じ取りながら、優輝は殺気に満ちた路地で、この重圧の中で、目の前の"凶悪異能犯罪者"へと告げた。

「お前が……神楽 社……! 断罪か……ッ!」

優輝の言葉を聞いた直後、どこか冷めていたような表情は一気に変わり、口元を歪ませた。
美しいその女性の先ほどの妖艶な雰囲気は変わり、殺気が全身を包んでいく。時が止まったかのように、優輝と女性は見つめあい、そして——




「あぁ————まあね」