ダーク・ファンタジー小説
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.5 )
- 日時: 2013/01/19 12:27
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)
地下街は何番街にも分かれており、それらごとに雰囲気や治安も全く違う。まるで一つ一つの違った街がまとまったように、この壮大な地下街は作り出されていた。
上空では地面に放たれた太陽の光を吸収し、それらを地下街に降り注がせてはいるが、やはり直射日光とは根本的に違う。擬似太陽光はどこか薄暗く、それは全体的に注いでいる為に、地上よりもだいぶ薄暗い印象を受けてしまうのだ。
環境的には何番街か分かれているぐらいであり、地上と同様に学校などもある。だが、基本的にアンダーで暮らす子供や夫婦は地上の住民から遠ざけられた存在であることは間違いなかった。どうしてこのような格差社会が作られたのか。その原因は昔に起きた"ある大規模な戦争"がきっかけとなっている。
白夜達は05番街と呼ばれる場所へと足を踏み入れた。関所のような場所があり、大きく壁で覆われている。そんな境界線自体がない番街も多いが、ここは別格だった。
05番街は通称、化け物の巣窟と呼ばれるほどに普通の人間は勿論、極悪犯罪者から恐れられる場所だからである。
そんな05番街にある巨大な要塞のような建物へと通じる大きな扉の隣には、不機嫌そうな男と、それを宥める気弱そうな少年がいた。
「何で俺らが守り番なんだよ!」
「まあまあ……落ち着いて? だって、じゃんけんで負けちゃったんだし、仕方ないよ」
「じゃんけんで守る側か狩る側かを決めるってのがそもそもおかしいだろ! 実力で決めやがれ!」
「そうかもしれないけど……ディストさんがそれでいこうって言っちゃったんだから、仕方ないよ」
「仕方なくねぇよ! ディストもな、何であいつが団長なのか、俺には全く理解できねぇな! じゃんけんで決めるなよ! じゃんけんで!」
その二人は見たところ何かを言い争っているようだ。
不機嫌そうな男の名前は、和泉 憐(いずみ れん)。短気な性格で、標的が目の前にいると、それが罠だとも考えずに突っ走っていく。能力者、及びに政府などに称されるアバターコードという呼称は、嵐桜と称されていた。性格の割には、綺麗な呼称であるが、その名の通り、能力もそれを表現したかのようなものである。
物腰の柔らかそうな男の名前は、宮辺 葵(みやべ まもる)。見た感じ通り、穏やかな性格である。性格通り、争い事は嫌っているが、相手が凶悪能力犯罪者であるならば話は別。性格などからかけ離れた行動を見せる場合もある。アバターコードは、鷹ノ眼と称されており、その呼称に相応しく遥か遠くの敵を発見出来る眼と、少しの音でも聞き分けることが出来るなどといった探知能力も発動することが出来る。その能力を用いて背中にあるスナイパーライフルを含めた銃器を専門に扱う。
「そんな怒らなくても……あ! 白夜君っ!」
宮辺が白夜の存在に気付き、指を差して言い放つ。白夜は自分の名前が呼ばれても気にせずに、無表情で歩みを進めた。その白夜の背中をよそよそと着いて行く少年の姿もそこにある。
「白夜? あいつは人質の救出込みの面倒臭い仕事をやってたんじゃ……って、うぉ! 本物じゃねぇか!」
「そりゃ本物だよ! 僕が視認してるのに」
宮辺の能力が間違いを生じたことは今まで一度もない。その能力を抜きにしても、宮辺の眼はかなり良く、すぐに相手が誰か認識することなど容易に可能である。
「そのガキ共が人質か?」
「……あぁ」
「へぇ……なんでもなさそうなガキ共だけどな……」
和泉が少年を見つめてそう呟くと、数秒経った後に白夜へともう一度口を開いた。
「なぁ、白夜——」
「白夜君! 今回も活躍したってことですよね? さすがですっ!」
すると突然、隣にいた宮辺が和泉の言葉を遮って介入する。それによって和泉はその短気な性格を思い切り爆発させた。
「てめぇ……葵! 人の声を遮ってんじゃねぇよ!」
「和泉君はどうでもいいから、門を開いてあげなよ」
「な……! お前な!」
「早く! 子供達も衰弱してるから!」
「……後で覚えとけよ」
こんな会話が二人で交わされた後、悔しげに和泉は門の操作を解いた。仕掛けは暗証番号と合言葉式となっており、更に門前のみ見える監視カメラを作動させ、メンバーの誰か確認できるようなシステムも備わっている。
それならば何故暗証番号と合言葉が必要なのかと言うと、姿形や声までも同じくさせる能力が存在することを予測している為だった。もしくは違った能力でそれらが突破されることを恐れ、こうした二つのセキリュリティを行っているのである。
「あー、えーと……あぁ、そうだこれだった」
和泉は暗証番号の代わりとなるキーボードを出現させ、慣れた手つきでキーワードの文字を打ち込んだ。
すると、大きな門が盛大に開くのかと思いきや、左端のところが一部外れ、スライド式に開いた。
「この門、まやかしにしては大きすぎるように思うんだが……」
和泉が言ったように、その大きな門は優に15mを到達している。それほどの大きさを誇る壁はどこを見てもこの門ぐらいしかなかった。
門を超えた後には地上にある街と同様に結界が張り巡らされている為、空を飛んで入るという手段も不可能である。ただし、中から外に出る際にはそれは関係無くなってしまうわけだが。
「飛行系の能力持った奴等的には相当この結界は鬱陶しいだろうな。俺には分からんが」
「何を和泉君はぶつぶつ呟いてるの? 早く白夜君達を中に入れてあげなよ!」
「……マジで、葵。後で覚えてろ」
スライド式の扉を力強く開くと、和泉は入れと言い残すと再びムスッとした表情で巨大な門にもたれかかる。
白夜達は何も言わず、その奥へと入っていく。
門の奥に待ち構えていたのは、白と黒色のみで作られた外壁に、真正面から見ただけでは計りきれないほどの大きさを持つまるで要塞のような城だった。
「お帰り、白夜君。——"エルトール"へ」