ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】新年のご挨拶を……! ( No.53 )
日時: 2013/01/06 11:34
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: JzVAb9Bh)

右手の光が唸りをあげ、眩いそれは一斉に空間を引き裂く。亀裂の入った空間から光が溢れ出し、その亀裂の奥から円球の光が音を立てて作られる。一気にそれは引き伸び、轟音を響かせ、辺りを閃光の光が包みこんでいく。
それらの収縮した光は一気に爆発を生み出し、白夜の眼前にいるラプソディを巻き込んだ。

右手を振り下ろしきった白夜は煙の中に包まれたラプソディを見つめる。
凪とは随分距離が離れ、お互いにサポートが出来ない状況であった。しかし、その程度今の白夜にとって構うほどのことではない。むしろ、このような状況を望んでいた。単独の任務が一番手っ取り早いと感じ、チームの必要性が全く分からない白夜にとって、凪が離れてくれたことは多少の感謝さえも抱くほどである。

煙が徐々に消えていく。しかし、その中にラプソディの姿はない。それよりも右方にラプソディは悠然と地面に腰を下ろしていた。

「ふふ……どうした? 知りたくないのか。全てを。お前の知らないものを……」
「黙れ。……減らず口を叩くな」

高潮していく"感情"が止まらない。加減が出来ない。このままでは、自分というものが無くなってしまう。"あの時と同じようになってしまう"。
全て分かっていた。自分の中にある"薄汚れたもの"のことなど、とっくに理解しているつもりでいた。"あの日以来"、それのリミッターを自分自身で備え、出来る限り抑え込むように生きてきたのだ。
しかし、そんな白夜を嘲笑うかのように、ラプソディは告げる。

「ルトは、お前が来るのを待っていた。待っていたんだよ、白夜……。震えた声で! 絶望した声で! お前の名を叫んだんだよ!」
「……ッ!」

頭の中で何かが壊れそうな予感がする。だが、白夜は止まらない。止めれない。この感情は既にどうにも出来そうになかった。目の前にいる男は、"知っている"。自らが背負った罪を。断罪すべき自分のことを。

「お前が見捨てたんだろ! 愛すべき人を! お前が、殺したんだろ!」
「ぁ……ぁ、ぁあ……! ……だ、黙れええぇぇッ!!」

狂ったように叫びをあげる白夜に、ラプソディは高笑いをして空を仰いだ。曇り空がいつの間にか空を覆い始めていた。
そんな薄暗い中、白夜の両腕は唸りをあげて眩い光を放ち続ける。常に冷静であった表情を忘れ、まるで別人のような形相で右手を構えた。
光るその右手が二度、三度光を唸らせると、ラプソディの辺りを閃光を纏った爆発が襲い掛かっていく。その爆風の嵐から飛び出したラプソディへと間髪入れずに右手で細い光を帯びた棒状のものを作り上げ、それをラプソディへと目掛けて横へと薙ぎ払った。
熱風が巻き起こり、高温のそれは触れたもの全てを熱で真っ二つにしていく。ラプソディはそれをギリギリのタイミングで避けたが、その代わりにあたった炎上した車、木々、噴水は真っ二つに熔斬された。

爆発して空中へと舞い上がった車に、木々は真っ直ぐ触れた部分が斬れ、噴水は壊れた水道管のように水を溢れんばかりに噴出していく。
もはやセンター街の中心となる広場とは到底思えない惨状となっていた。

「ふふ……はははは、あはははは! いいねぇ、いいねぇ! 怒れ! 月影 白夜! お前の"真の狂気"を見せてみろ!」

両手を広げ、仮面の男は嗤う。怒る白夜にリミッターは既に消え去ってしまっていた。内に秘めたあの惨劇が目に浮かぶ。それが残影となって現れる。最後に言い残されるのは必ず一つ。それが何度も頭の中でリプレイされ、結局は何も出来なかった自分を悔やむ。
そんな過去の全てを、この男は知っている。自分の中で背負ってきた罪だからこそ、だからこそ白夜は独りでもがいてきた。誰に頼ることもなく、誰に助けてもらおうともせず、白夜はたった独りで、たった独りだけで、薄暗く、何も見えない光の中で必死に生きていたのだ。

「うああぁぁ!!」

白夜の何かが、音を立てて"再び"目覚めようとしていた。

——————————

息を切らしながら、それでも春は走っていた。
何か不吉な予感がする。曇り空が空を覆い始め、先ほどからそんな予感がどうしても拭いきれないのだ。
白夜と凪はきっと応戦しているだろう。しかし、気になるのはその相手。本当に断罪なのだろうか。秋生と話していた会話が妙に引っかかる。
陰謀。その二文字が春の頭の中で何度も反復していく。

春も実のところ疑問に思うところが多くあった。しかし、敢えてそれを口にはせず、今回の任務にあたったのだが、やはり何かおかしい。隠された何かがあるはずなのに、全くそれが分からないというのは気持ちが悪かった。けれど、春には一つだけ、否定したかったが予想出来ることがあったのだ。
それは一番平凡で、一番素朴な疑問。つまり、何もかも出来すぎているということ。
難攻不落のエルトールがまさかの侵入を許し、尚且つ宛てられたあのメッセージ。普通ではない事件を差し置いての断罪捕獲任務。エルトールが狙われているという認識も少なからず予想の一つして捉えることが出来る。だが、結局は何の対策もせぬまま今回の任務にあたることになってしまった。
そうした結果、春が一番考えたくなかった予測がたてられてしまう。それは——

(内通者の可能性……)

エルトール内部に、侵入者と結託したメンバーがいるという予測である。そうすると、辻褄が何となくだが合ってしまう。
エルトールの結界が内部から操作することが出来、それは難解ではあるが一部消失することが出来る。そうした方法をとれば侵入することが可能であるし、外へと逃がすことも可能。今回の断罪捕獲任務は邪魔者である春達を追い払う為の撒き餌としても考えられる。
しかし、なるべく考えたくなどなかった。何かが起こる前触れだったとしても、メンバーを疑うようなことはしたくない。それは春が一番に思っていたことだった。

(……その為にも、急がなければ)

白夜達の身に今何が起こっているのか。自分の目で確認しなければ安心できない。勿論、エルトール本部のことも気になるが、今は目先のことを達成するしか方法がなかった。どうかそれは自分の考えすぎであって欲しいと願う気持ちに急ぐ気持ちが重なり、額に浮かんだ汗を拭う暇もなく誰もいない町を走り抜けていく。

そうして、ちょうど広い場所へと出たその時。

「あはっ、みっつっけたー!」

トーンの高い声が聞こえ、その方へと振り向くと、中学生ぐらいの女の子が春を見つめてニヤニヤと笑みを浮かべていた。その女の子、千原 双は蒼い長髪を揺らし、特徴的な青色の瞳に、服は動きやすそうなどこかの学校の制服を着ている。更に一際目立っているものは、その背中に背負われた先端の尖った棒状のもの。それは、槍であった。

「……急いでいるので、失礼したいのですが……」
「あははっ、ダメに決まってるじゃん! 私、ずっと待ってたんだよ?」

双は背中に背負われた槍を抜き、構える。それを見た春は小さく溜息を吐き、仕方が無いですねと呟いた。

「急ぎなので、容赦はしませんが……それでも構いませんか?」
「あったり前じゃん! 抵抗してくれないと、つまんないしね! あはっ、いっぱい泣き叫んでくれるかなぁ? "おばさん"は!」
「……今なんと?」

一瞬、場が凍りついたような雰囲気になったが、春はその穏やかな姿勢を崩さない。しかし、それに気付かない双は先ほどよりも大きな声で言ってしまった。

「え? もう……だーかーらぁ、ちゃんと抵抗してね? "耳の遠いおばさん"!」

ぶちっ、と何かが切れたような気がした。急がなくてはならないという時に邪魔が入り、そのうえおばさん呼ばわりされる。とんでもない屈辱が春のストレスを一気に爆発させた。

「ふふ、いいでしょう……! 貴方を倒し、すぐにでもこの奥に行かせていただきます。それに私はまだ、20代ですから……!」
「あはっ、血祭りにしてあげる!」
「どうぞ、出来るものならしてみてください……ふふふふ」

血が見れる興奮によって笑う双と、ストレスが爆発したことによって怖い笑みを見せる春は互いに対峙し、曇り空の奥から轟音が小さく響き始めていた。

——————————

「……あぁ、俺だ。……分かっている。あぁ……約束は守れよ。……切るぞ」

携帯電話のボタンを押し、通話を終了させた。
一雨きそうだ、と思いながら空を眺める。夏の時期はまだ終わりそうにないが、雨が降れば一層ジメジメとして嫌気が差すだろう。
この町を歩くのも久々のことで、どういうわけもなくポケットに手を突っ込んだ。

「……この世界は本当に」

薄汚れた空を眺めて呟く。再びどういうわけもなく空に向かって独り言だということも気付かずにたった一つ。


「——嫌気が差す」



第5話:決められた使命(完)