ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.59 )
日時: 2013/01/15 01:55
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)
参照: 何か分からんけどこんな時間に目が冴えたので更新します;

【前書き】
どうも、遮犬ですっ。
ずっと書きたかった番外編シリーズで、本編はまだ一段落ついていませんが、予告編っぽいのを書かせていただきます。
このお話は、白夜達の暮らす世界が普通みたいになってますが、勿論普通に暮らしている人達もいるわけで……そんな中、日常を望む非日常になるを得ざるなかった少年少女達の物語です。
プロローグからこの番外編を書いていくのは本編が一段落ついてから、になりそうです;
もしこの予告編で気になっていただければ楽しみにしていてくださいっ。



番外編『OVER AGAIN〜Fire Work〜』予告



——隠し通さなくてはならない。

「今日からこのクラスで皆と一緒に勉強していくことになる、小日向 葵(こひなた あおい)だ。皆よろしくしてやってくれ! ……ほら、小日向」

40人程度のクラスの中、私は再び隠さなくてはならない。自分だけの秘密。人には言えない秘密。私は再び、悲しまなくてはならない。自分しか分からない苦悩、感情。

「……小日向 葵ですっ、よろしくお願いします!」

作り笑顔で精一杯の挨拶。何度もしてきた、ミスなどしない。
出来るだけ明るく、自分に嘘を吐いていこう。世界もどうせ、嘘を吐いているのだから、私にだって一つぐらい、いいでしょう?

「よし、小日向は……冴木 俊一(さえき しゅんいち)の隣だ。いってこいっ」

後ろの方にある新しい席。そこには真新しく誰も座ってはいない。
周りから見られる視線を気にしないように歩き、出来るだけ朗らかな少女だと思わせんばかりに振舞う。
そして、自分の席に到着したところでふと、隣にいた少年と目が合った。その少年は私を見て微笑み、

「よろしくね、小日向さん」

とても自然な、彼の純粋さに踊らされるかのように、私は笑いかける。
私もそれに合わせて、作り笑いだと分からないぐらいの満面の笑みで言った。

「うん、よろしくっ」

——まさか、こんなことになるなんて、この時は思いもしなかった。
思えば既に始まっていたのかもしれない。少年と出会ったこの日から、ここへ転校してきたことから、私は"もう一度"と願うようになったのだ。

——————————

『現在、能力犯罪者が逃亡中です。繰り返します。現在、能力犯罪者が逃亡中です。速やかに避難してください。繰り返します——……」

幾度も流れるアナウンスが町中に響き渡る。巨大な都市ではベイグランドの出現が多発していた。
ベイグランドは己の行き場を失くし、自らの能力を誇示して能力犯罪者となり、こうした町や都市を襲うのである。
人々が大パニックとなり、車も通行止めとなって逃げ惑う人々の中、突然ビルの何階かが雷のような轟音と共に爆発した。
たった一人の男がそのビルを爆発させたと共に、その上空から飛び降り、また地面にも手から雷を生み出した衝撃と共に着地する。

「こんな腐れきった世界はなァ、俺が滅ぼしてやるよォォッ!」

逃げる人々の群れの中へと駆け込もうと雄叫びをあげながら突進していく。だが、その道中に一人の男がそれを遮った。
男は他の人間同様に逃げもせず、隠れもしない。むしろ、立ち向かって右手には棒状の何かを持っていた。

「何だァ……? てめぇ、武装警察か? それとも、エルトールか?」

能力者の男がそう言うと、反対に棒状の何かを持った男は笑みを浮かべる。

「何がおかしい!」
「おかしいも何もねぇよ。俺をそんな"クソ共"と一緒にすんな」

少し長めの黒髪に、少し垂れ目であった。綺麗な顔立ちをしているその男は黒い瞳で能力者を見つめ、ニヤリと今度は口を歪ませる。

「てめーをぶっ倒すだけで100万……。軽い商売だろ? そういうこった」
「……はははっ、ははははっ! 笑わせてくれる! お前は……武装警察でもエルトールでもねぇくせに、この俺様を殺すだと? なめてくれたもんだ……俺は世界を変える! その為に、まずこの都市を滅ぼす……その前座をお前としてやろう!」
「はっ、何が世界を変えるだ……言ってくれるなぁ、おむつ野郎。ガキみてぇにションベン漏らすんじゃねぇぞ」

突如、能力者の男の手が光る。轟音を響かせるそれはまさに雷だった。雷を全身に帯びて笑い声をあげる。その刹那、能力者の男は走り出した。
槍を持った男へと突っ込み、その雷を与えんとした——が、しかし。

「おせぇし、低脳だし、何より……うぜぇ」
「なァ……ッ!」

いつの間にか、棒が振るわれ、男の胸部をしっかりと捉えていた。その棒は雷を通さない特殊な合金で出来ている為、男は悠然と能力者の体を打ったのである。
そのままもの凄い速さのまま、能力者の男は後ろへと吹き飛ぶ。しかし、それだけで終わるはずもない。何が起こったかさえも曖昧ではあったが、この程度致命傷にもならない。
そうして起き上がったのは束の間、既に起き上がると男は——目の前で棒を突き出していた。再び直撃し、後ろへと吹き飛ばされ、その瞬間、また胸部に痛みが走る。

「まだまだ、休ませねぇよ」

男が棒で再び胸部を打ち上げていた。そして更に、棒を振るい、上空へとあがった男を凄まじい速度で突きを繰り出していく。常人では考えることも出来ない芸当である。人を打ち上げることさえ、一つの棒で叶う者はそういない。その秘めた腕力と、技量によってそれは行われているのだ。

「ぐぁ、ぁ……」

それから何十発と棒による攻撃を受け、男は既に意識を失いながら、自分が今どうなっているのかさえも判別つかなくなっていた。

「トドメな」

最後に男は棒を倒れた能力者の腹部に撃ちつけ、能力者の男は完全に意識を失う。それを確認すると、男は棒を回転させ、地面へと突く。

「手を挙げろ!」

そうして気付くと、男の後方には武装警察が並んでおり、男の方へに向けて拳銃を向けていた。
それに応じて手を挙げると、棒が音を立てて地面へと転がる。男は表情を見せない。その"赤い瞳"が"黒い瞳"に変わるまでは。

「俺を能力者のような"クソ"と一緒にするな。俺は——"能力者狩り"だ」

男がそれを告げると、武装警察の方からまた奴か、と声が漏れた。
暴走するベイグランドを止める善良な者に見えるが、その反面——

「これから報酬を貰いに行かねぇといけねぇから。職務質問は後にしてくれ」

そのまま男は手を振って後方の警察たちから遠ざかっていく。その様子は掴み所がまるでない、飄々としたものであった。
武装警察達はそんな男の後姿を見つめた後、能力者を捕獲に取り掛かる。その中で、新米の武装警察官が怪訝な表情を浮かべてベテランの男へと声をかけた。

「先輩、あいつは何者なんですか……?」
「あぁ……お前知らねぇのか。あいつは能力者を狩る……さかきという男だ。別名"魔女狩り"といって、金さえ払えばどんな能力者でも狩るが、殺すことは滅多にしない。余程の凶悪犯罪者でないと、な……。義賊を気取っているようだが、それがたとえそれが武装警察の能力者だったとしても変わりはない、ただの輩だよ」
「へぇ……。"魔女狩り"の……榊、か」

既に武装警察官達の前から榊は姿を消し、そこにはそんな男がいたかさえも分からない静けさのみが漂っていた。

—————————

乱立する運命。

「私は、守りたい。この場所を。皆を」

少女は決断する。己の運命に抗うことを。

「お前は守りたいものがある。で、俺は金が欲しい。これが俺らの目的なわけだ。分かるか?」

男は迷走する。矛盾した己の運命に従うことを。


「——何を、してるの?」


知られてしまった少女の秘密。転校の理由。そして、

「関わらないで! 私は……!」

訴える少女。蘇る過去の記憶。追想する誓い。

「怖がらないよ。僕はただ……君の力になりたいんだ」

少年は介入する。他人によって支配された運命を。

「ヒヒヒッ! スケアクローゥがやってくるぅー♪」

異形が帰還する。呪われた己の身を振りかざしながら。


「ただ、願えるのなら。たった一つだけ、願えるのなら。"もう一度"——






 普通に、生きたい」






OVER AGAIN〜Fier Work〜予告(完)