ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.6 )
日時: 2013/01/19 11:55
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)

 ——エルトール
 それは能力を使った凶悪犯罪者による犯罪を取り締まる、いわばキューヴを使った警察組織のようなものと役割はほぼ同等のように思えるが、根本的には警察と比べても全く違う。
 国からエルトールを設立しろと命令されたわけではない。能力者が次第に増え、それを用いた犯罪が増え、こうしてアンダーが作られたことからエルトールはいつしか設立していたのだ。
 そして、その存在が世に広く認められるようになったのは、世界を狂わせたといっても過言ではない、とある戦争がきっかけだった。
 エルトールはその戦績と共に、戦争等を引き起こす凶悪能力犯罪者を断罪するという目的を掲げて認められたのである。

 その結果、エルトール本拠地はこの地下都市と呼ばれるアンダーへと設置されるようになった。地上ではキューヴを覚醒していない通常の人間も沢山いる。キューヴの力を利用することを反対している派もいた。 その理由として、力は戦争の根源であり、また未知の力であるがうえに信用が出来ないことが主である。

 電脳世界は突然発見され、そこからキューヴという能力が覚醒していった歴史の中で、その得体はまだ知れない。いわば、人類を脅かしかねない未知の力なのだ。安全の保障はまるでない。
 それでも、能力者は未だ増え続けている。きっとどこかで増え続け、次第にそれは誰の責任でもなくなり、それが分かっていて能力者達は迫害されていく。
 世界は今もなお、人々に異変をもたらそうとしていた。

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 白夜と少年、そして白夜の背中で未だ眠ったままの少女と共に城内へと入っていった。
 中は白を基調とした外観で、シャンデリアやレッドカーペットなどの洋風の振る舞いを見せている。しかし、外から見た城の圧倒感とはまた違い、どこかそれよりも控えめな感じさえするほどだ。
 広間には真ん中に大きな階段があり、その奥の方には広場が見えている。中には大きな公園にありそうな噴水が中央にあり、その周りには色とりどりの花々が植えられてあった。
 そして何よりも入り口より続くレッドカーペットの一直線上に緩やかな階段が続いており、それはまるで御伽噺の世界のような別世界である。

「あら? 白夜光……ですか?」

 その階段の上には、日光の光が当てられ、眩しく光が輝いているのを背景にして女性が一人立っていた。
 日光のせいでよく顔が見えにくいが、その声は白夜の記憶の中で確かに存在している。

大和撫子やまとなでしこか」

 白夜がそう呟くと、丁寧に腰を曲げてそこにいる女性は頭を下げた。
 女性の見た目はアジア系の女性で、とても若く見える。白夜の外見こそ子供だが、その女性は10代と言っても充分にまかり通る。しかし、その雰囲気は若さとは別の色気があり、気品に満ちていた。
 程なくしてから頭を上げた大和撫子こと風月 春(ふうげつ はる)は、嘘がないと思わせるような純粋さのある笑顔で白夜を見つめる。
 白夜の隣にいた少年は黙って春の顔を見ていた。それに気付いた春は、白夜から少年の方へと目線を向き直す。

「その子は……人質の?」
「あぁ、そうだ」

 春の質問に白夜は即答した。
 少年はその様子を春の顔と白夜の顔を交互に見て伺う。それを見た後、春は急に控えめな笑い声をあげ始めた。

「何がおかしい?」
「いえ……ふふっ、白夜光には悪いと思うけれど、二人共、並んだらそこまで身長差がないですね」

 春の言葉を聞き、白夜は思わず少年の顔を横目で見た。少年も白夜の方へと向く。その二人の似ている仕草からか、春は再び笑い声を小さくあげてしまった。

「……悪かったな」

 白夜は小さく、少し不機嫌そうに呟いた。春は、その様子を見て嬉しそうな顔をすると、また笑みを浮かべた。

「お疲れ様でした、白夜光。……団長室でディストさんが待ってますよ」
「分かった。……すまないが、この二人を見ててもらえないか?」
「構わないですが……人質救出の確認として、ディストさんに見せるべきではないですか?」

 不思議そうな表情で春は白夜に訪ねた。白夜はゆっくりとレッドカーペットの上を歩き、春の元へと近づいていく。それに少年もついていき、背中に眠っている少女は未だに白夜の背中の上で揺られていた。

「気になることがある」

 白夜の言葉に、再び何かを尋ねようとした春だったが、不意に飛び込んできた少年の顔を見た瞬間に言葉を飲み込んだ。

 春の後方から照らされた光が、少年の顔へと差し込む。
 そしてその少年の目には、それぞれ違う色が映えていた。

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 カタカタ、と音が小刻みに鳴り響いていく。
 暗い部屋の中、様々なモニターが立ち並ぶ。それらを凝視しながら手元にある様々な機械を弄繰り回している男がいた。

 男の年代は50を過ぎているように見えるその外見の姿が印象的だった。
 角ばった眼鏡をつけ、茶色く適度に手入れを入れていないように見えるボサボサの髪の毛を無理矢理に一つに輪ゴムのようなもので留めている。留めた後の部分の髪は乱れて少し黒ずんでいる部分もあった。
 顔はまるで生気がこめられていないかのように、青白い色をしていた。目の下には隈が出来ており、あまり寝ていないことが分かる。額にも黒ずんだ炭のようなものがついていたり、所々汚さが表れていた。
 まるで学者のような服装を着てはいるが、その自慢の白衣もいまや黒ずんだり黄ばんでいたりと、様々に汚れが逆に目立ち、台無しである。

「ふふ、ふふふ……」

 その時、機械を動かす手を止め、突然笑い声をあげ始めた。

「ようやくだ……ようやく、完成するぞぉ……!」

 男は、モニター画面を見つめ、そう呟く。

「私の……最高傑作が!」

 画面の中には、三つの巨大なカプセルが置いていた。人の形をしたものが三つ閉じ込められ、中に込められた液体よって浮かび上がっている。


「神の……完成だ!」


 薄暗い部屋の中、歓喜に満ちた男の笑い声が満ち溢れていった。