ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】テスト期間中ですが、ぼちぼち再開 ( No.7 )
日時: 2013/01/19 11:58
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)

 白夜の申し出通り、春が二人を預かることを確認すると、白夜は階段を登っていった。現団長であるディストに会う為にである。

 団長といっても全権限があるわけではなく、この本拠地を取り締まっている。団長とは別にオーナーは存在し、そのオーナーたるものは本拠地にはいない。オーナーいわく、地上の空気は美味いからという理由で地上に住んでいるらしいが、実際のところは詳細不明である。
 各地にエルトールの団員が散らばり、それぞれに個人で地上などで活動している中、エルトール本拠地には少人数しか残っていないが精鋭もまた多い為特に苦ではない。

 階段を登っていくと、奥に待ち構えていたのは先ほどとは世界観の異なるエレベーターが横に一列、5つ設置されていた。
 そのエレベーターを挟むようにしてある左右にはそれぞれ階段が存在し、その幅もまた広大である。この場所を中心としてエルトール本拠地は成り立っているのだ。

 先ほど白夜が出会ったのは風月 春のみであったが、他のメンバーは任務で出て行っているか、一般人に紛れて生活をしている者が多数である。
 原則として、通常の人間には犯罪者でなければ能力を使用してはならないことを条件として地上での生活を一応了承されている。しかし、その結果裏切り者も多く、ルールを破って能力を使用する団員もいた。
 そうした中、エルトールに反発を覚える者が多いのは納得出来る。治安維持の為、能力犯罪を減らす為だとはいえ、能力者を地上に住まわせる行為そのものは矛盾しているのだ。エルトールの存在はそんな反発もあるが、そうは言っても必要不可欠な存在であり、その存在に賛否両論の意見が住民達の中では存在している。

 白夜は即座にエレベーターへと乗り込んだ。このエレベーターのある二階フロアを基準として様々な部屋に分かれている。そして何より、一番最上階までの10階の間、つまり2〜9階では用途が別々の部屋に分かれ、それぞれに意味を持つ役割があった。しかし、今では従業員も少なくなり、それらの部屋が使われることは特に無い。

 10階のボタンを押すと、エレベーターは重音を響かせて動き出す。急速で上階へと向かっていき、あっという間に団長室のある最上階、10階へと到達した。

 エレベーターが開くのを見届けると、白夜はエレベーターから降りた。そこにもまたレッドカーペットやらが広がり、広大なフロアがある。そしてその奥には、材質の良さそうな大きな木の扉が待ち構えていた。
 扉へと向かうと、白夜はドアノブを握り締め、その重い扉を開く。

 すると、中から甘い匂いが突然漂ってきた。

「うーん……角砂糖はやっぱりいいね。何個入れても足りやしない」

 その声は部屋の奥の方、入り口の方へ向いていない大きな椅子の向こう側から聞こえて来た。その左右には古い本棚が並べられている。更にその奥に大きなガラスが張ってあり、そこから外の風景が一望することが可能。重厚な作りをした机が椅子の途中を挟み、その上には角砂糖が大量に入った透明な瓶が置かれていた。
 大きな椅子が座っている人物を隠し、見えているものはそこから横に伸びた手と、それに握られているティーカップのみである。

 手はゆっくりと椅子に隠れ、少しの沈黙が訪れた。紅茶を飲んでいるようだったが、啜る音は一向に聞こえない。エルトール本拠地の現団長であるディストは紅茶などを飲む時、啜り音が鳴ることを嫌っている為、その癖だろうと白夜は容易に想像することが出来た。

「ふむ……さすが、地上から取り寄せただけあるよ。この紅茶は美味だ。角砂糖もとても甘くて……あ、白夜君もどうかな?」

 その時、大きな椅子がゆっくりと半回転する。まるで白夜がこの場所を訪れることが分かっていたような言い草で、ようやく白夜と向き合った。
 中性的な顔立ちをしているディストは、天然のものと思わしきウェーブのかかった白髪の前髪をティーカップを持っていない手で触れると、組んでいた足を逆に組み替える。

「美味しいよ? この紅茶」
「……任務を完了してきた」
「ふぅ、僕のオススメの紅茶より任務かい? なかなか仕事熱心なのはとてもいいことだけど、紅茶は——」
「気になることがある」
「本当に、君は僕の話を聞く気はないんだね……。……まあいいや。それで、気になることとは? 任務は完了してきたんだろう?」

 ディストは少々悲しそうな顔をして一息吐き、音を立てずに紅茶を口にする。それから何が気に食わなかったのか、ディストは透明な瓶から角砂糖を二つほど指で摘むとそれらをティーカップの中へ入れた。

「今回の人質のことだが——あれは何だ?」
「あれ? 角砂糖足りなかったかな……? ……あ、聞いてるよ。あれって?」

 ディストはいつもの調子で話す。この調子は白夜が苦手であり、ディストとの会話を毛嫌いしていた。
 相手の調子を崩すような話し方。どこかで聞いたような気もするが、白夜は思い出せずにそのまま話を続ける。

「子供が二人人質として発見されたが、見た感じ貴族の子供でもなく、政府関係者の子供とも思えない。孤児院にいたような、そんな子供だ。その子供を人質とするメリットがない。……だが、一つだけ人質になり得る理由が分かった」
「へぇ、それは?」
「これはまだ男の方しか確認していないが——両目の色が違う。光が当たると、反応して二つの目が違う色を見せる。通常では黒目同士、それはカラーコンタクトというわけでもない」

 白夜の話を黙って耳にしながら、ディストは度々紅茶を飲んでいた。しかし、音が聞こえない為、実際にちゃんと飲んでいるのかさえも見た目では分からない。
 透き通っているディストの目は真っ直ぐ、好奇と共に白夜を見つめていた。

「なかなか面白そうだね、その子。それに、まだもう一人人質がいるんだよね?」
「あぁ。そっちは女だった。歳は見た目は男と同じ歳だろう」
「そっちも気になるね……。ふふ、それで、その子達はどこに?」
「大和撫子に預けて分析を頼んでいる」
「さすがだね、白夜君。じゃあ引き続きその子達を——」
「それと、まだ話がある」

 言葉を遮った白夜に対し、ディストは少しだけ眉を上げて反応する。しかし、白夜の表情は先ほどまでとは明らかにどこか違った声色と表情で言葉を繰り出していた。

「黒獅子の情報は?」

 一瞬、ディストの紅茶を飲む手が止まった。そして真っ直ぐ、白夜の顔を見つめてどこかわざとらしく、嘲るように小さく笑い、

「あぁ……まだそれは入っていないよ。依然、捜査中ってところかな」
「……これ以上情報が掴めないのなら、契約は破棄させてもらう。いいな?」
「ふふ、まあまあ……。分かっているよ、白夜君。せっかく一年も一緒にやってきたというのに、今更お別れなんて酷い結末じゃないか」

 ディストはおどけたように言うが、白夜はその言葉に何も返さず、そのまま背を向けて部屋から出て行った。
 その様子をディストは見つめ、ゆっくりとコーヒーを机に置き、角砂糖をまた一つ手にとる。


「黒獅子、ねぇ……」


 ポチャンッ、と普段ならば音が鳴らないはずの角砂糖が音を立てた。