ダーク・ファンタジー小説
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】更新せず絵をあげる駄犬 ( No.85 )
- 日時: 2013/05/29 00:35
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 2mcH.5bJ)
- 参照: 久々更新です……; 生存しています! これからも宜しくお願いします!
人を救うということが、どれだけ難しいことなのか。どこまで到達すれば、それは人を救えたことになるのか。永遠に守り続けるのは無理だ。そんなことは分かっている。だから、今を必死に守ってきたのだ。未来のことはどうであれ、この先にどんな世界が待っていようとも。
大切な人を、たった一人だけ。この数十億にもなる人口の中で、ただ一人だけを守ろうとしただけだ。たった、それだけのことなのに。
どうして、叶わない。どうして、果たせない。どうして、守れない。
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目の前の光景に全てを奪われていた。
「そんな……」
思わず、言葉が詰まる。
春の目の前に、確かにそこに存在するのは銀髪の少年ではなかった。そこに佇み、異常とさえも思えてしまう雰囲気を漂わせた"銀髪の青年"。何度も見たことのある、記憶に残る顔が浮かび、それと瓜二つの青年がそこにいた。
「白夜……光……?」
震えた声で、確かにその名を告げる。
認めたくはない。しかし、どうしてもそう思わざるを得ない。何故ならば目の前にいるこの青年の顔は、見知った銀髪の少年そのものなのだから。
青年と姿を変化しつつも、本質は変わらない。感覚で分かってしまったのだ。目の前に佇む銀髪の青年は、月影 白夜なのだと。
確証は、無い。だが、根拠のない自信が春には芽生えていた。それは目の前にいる少年の虚ろな瞳を覚えていたからである。
「あの時と、一緒の……」
危惧していたのかもしれない。あの頃、初めて白夜という少年と出会ったその日から。
春は、いつしか昔の自分と白夜を重ねていた。エルトールとして活動する前、悲惨だった生活、生きる気力も無かったあの日々。自らを通して白夜を見つめ、いつかは壊れてしまうかもしれない、と心のどこかで気にかけていた。
そして今、危惧していたことが現実となっているのかもしれなかった。
春の目の前で虚ろな瞳を下に向け、そこに立ち尽くす銀髪の青年の姿。いつも見慣れているはずのサイズの合わないパーカーが今では窮屈に体を覆っている。
冷静に考え、春は辺りを見回す。一様に街に住民の姿はない。この広場でさえも白夜と春を除いて誰も存在していなかった。
しかし、その割に辺りは瓦礫や炎上してもはや原型を留めていない横転した車、無惨に切り裂かれた木々の数々が散乱している。恐らく、争った形跡だと思われるが、この場には白夜一人しか確認できない。同行動していたはずの凪の姿さえもその場にいない不思議な状況だった。
考えるべきことは、今の白夜の状況を作り出した張本人がまだ近くにいるかもしれないということ。凪は何らかのトラブルに巻き込まれ、今も敵と交戦中の可能性があるということ。どちらにせよ、目の前にいる白夜は普通ではない。少なくとも、青年の姿となっているのだから明らかに異常が起きているのだと判断した。
(何があったのか分からないですが……とにかく、白夜光の意識をハッキリさせなければ何も始まらない……)
右手を握り締める。汗ばんだ感触が伝わりつつも、春は決心した。未だに意識のハッキリしていない様子の白夜に触れ、フラッシュバックを起こさせる。そうして意識を取り戻そうと考えたのだ。
「白夜光……」
小さく呟き、ようやく歩みを進める。虚ろな目を未だに地面へ向けたままの白夜に近づいていく。星屑の粒子が右手に纏わり、光を帯びる。それをゆっくり、白夜に差し伸ばし——触れる、後一歩の寸前。
「——っ!?」
突然、白夜の姿が"消えた"。
春の右手が虚空に伸ばされる。そこに、勿論白夜の姿はない。それに気付いたその直後、
「ぅぁぁあああ゛あ゛!!」
春の後方より唸り声に似た叫び声が聞こえた。春は後ろを振り返るよりも先に体を倒して横転する。瞬間、元より春がいた場所に白夜の右手が駆け抜けた。
神々しい光を右腕全体に帯びたその巨大な"光の手"は駆け抜けた直後、炸裂する。光の粒子がそれぞれに交じり合い、白いそれらは誘発的に爆発を巻き起こしていく。
寸前で避けた為、距離が近かった春もその爆風に巻き込まれて軽々と飛ばされた。地面に転がり、幸いにもそれほどのダメージは負わなかったが、直撃していたものならば重傷は避けられなかっただろう。
「そんな……」
小さく呟く。それは覚悟していたものの、苦しい現実だった。
白夜が攻撃を仕掛けてきたのである。意識が朦朧としているのか定かではないが、それは春を敵として認識し、排除すべく襲い掛かってきた証拠だった。
呆然と白夜を見つめるのも束の間、既に白夜は春の方に顔を向けていた。
「ッ!」
再び白夜の右手が振るわれ、その刹那白い光が球体の群を作り上げていき、炸裂する。
何とか間一髪距離を取り、避けることに成功はしたものの、白夜の動きは尋常ではなく、速い。通常の人間ならば避けることさえも不可能なほどに。
それでも春が避けられているのは、春の能力である"記憶再生能力"にある。
この能力を用いる際に脳の一時的な活性化が起こる。その活性化とは脳の働きを速めること。それに伴って星屑の粒子により相手の脳とシンクロさせることによって相手の記憶を読み取り、記憶再生させるのである。
その副作用によって引き起こされる内の一つに相手の行動パターンを脳が普通よりも遥かに速い速度で読み取り、体に反応させる。結果的にそれは人よりも速い判断力を持つこととなり、また行動の速さも一般人と比べると格段に速くなっているのだ。
だが、しかし。
「う……ッ!」
突然、春の頭に痛みが奔る。一瞬ではあるが、無意識の内に頭を手でおさえてしまうほどだった。
副作用は決して良いことばかりではない。良い面もあれば、悪い面もあるものである。
先ほど同様に判断能力を駆使して体を動かしていると、能力の副作用としては反応するが、元々ある春の"一般人の脳"では過労すぎる行為だった。このまま幾度も続けて使用すると、ただの頭痛だけでは済まなくなってしまう。最悪、脳死も有り得るほど危険な能力なのである。
だが、春が意識的に体を動かして行動しているわけではなく、この副作用は"春本人が断固として拒否しない限り勝手に発動してしまう"。
その為、本来ならば戦闘行為をすべきではない。が、いざ戦闘を行えば相手の行動を無意識の内に読み、超人の域を優に入るほどの身体能力を持ち合わすことが可能だった。
(……長期戦は、出来ない。相手は月影 白夜。決して敵ではない……私がすべきことは、既に判断している)
低いままの姿勢であった己の身を起こす。白夜は先ほどまでの横暴な態度を見せず、当初のような虚ろな瞳でどこか虚空を見つめていた。
だが、その間も白夜の右手は次々と白い光を吸収し、雷のように光は荒々しく蠢いている。本来ならばあるはずの"もう一つの能力"は左手に込められていない。それが何を意味するのか、春には想像もつかないが、ただ目の前の白夜にある右手の力は凄まじい破壊力を持つものだということは既に理解していた。
今現在ではまだ右手を振るった結果だけに過ぎないが、使い方を変えれば未知の事態が起きるかもしれない。まだ把握しきれていないのが現状である今、下手に近づくことは出来なかった。
(せめて、もう一人助けがいれば……)
ふと、秋生の姿が浮かんだ。だが、瞬時にその姿を消し去る。秋生は私を先に行かせる為にあの場に残ったのだ。
助けなどいらない。心の中で決心する。この場で今やるべきことは、目の前の白夜を止めることだと己の中で自己解決させた。
首謀者は必ずいる。白夜がこのように姿を変えた理由がそこにある。だがそれは、今白夜を止めてからでなければどうすることも出来ない。このまま自分を逃がすということを今の白夜はしてくれそうに無い。それどころか、敵意を向けている。
風月 春が、何とかするしかなかった。
「少々、手荒ですが……緊急事態です。仕方ありません」
虚ろな瞳を相変わらず虚空に向けたままの白夜に向けて——いや、"自分自身"に向けて言い放つ。
そして、解除する。"能力を100%引き出す"ために、自らにかけられてリミットを。
「——"人体覚醒"」
それは能力者に与えられた、悲痛なまでに"普通"と遠ざける"異常"な手段。
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日上 優輝は託された任務を全うする為にひたすら走り続けていた。
しかし、その最中にだんだんと状況を不思議に思い始めていた。
「……あれ、さっきまで雨って降ってたっけ?」
汗と混じりながら、雨かどうかの区別は見た目では分からない。だが、視覚として雨が降っている——ように見えていた。
「でも……当たって、ない?」
雨は、当たっていなかった。優輝の体に、一粒も。
しかし、視覚としてはちゃんと雨を捉えている。捉えていながらも、それは"動いていなかった"。
「何だ……これ……。どうして、今まで気付かなかったんだ……?」
立ち止まり、手のひらを見つめてみた。すると、一滴の水が手のひらの上に落ちる。それは次第に二つ、三つと増え、空を見上げると雨が降り始めていた。
「もしかして、これって……」
普通ならば、有り得ない。有り得ないはずだが、有り得てしまう。それが電脳世界エデンによって引き起こされた世界の異常なのだから。
しかし、これが考えられるとしたら——
「俺が今目にしていることと、実際に起きていることは、違う……!?」
雨は、再び音を無くした。
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『お詫びも兼ねて、生存確認』
……申し訳ございませんでしたッ!
本当、すみません……。なんやかんや言って、結局これだけの規模での最新話です。
この後の展開は非常に分岐点になっちゃうところなので……ぶっちゃけ、謎とか伏線が多すぎてそれの回収に必死になってます(ぇ
そんなわけでございまして、ちゃんと生きてます。波乱万丈というわけでもなく……えぇ、本当に。
更新が遅れたのは、話の展開に凄く悩んでしまい、今回のお話だけで10回以上書き直しました……。なので、総計4万文字は書き直した感じになります、えぇ……。自分でも若干引いてます(ぁ
そんなわけで、普通にバトる方向でいっちゃったわけですが……急に消えたラプソディとか、白夜の能力の覚醒って何それ意味不明って感じで、最後に何か春ちゃんとか、優輝とかが意味不明な感じで締めちゃいまして……。
優輝の最後のあれは、本当にその場凌ぎな感じがして自分でも気持ち悪いです、はい。
でもでも、結構今回の一連の時間軸の謎的なものの根本になりますので、ご理解いただけたらな……っていうか、完結版なのに何でこんな未熟なんでしょうかといわれたら、作者自体が未熟過ぎました、すみません。
そんなわけで、全体の修正は終わっていないわ、久々に更新したらグダグダな展開やら、色々と迷走している感じが漂いまくっていますが、やっと最新話が書けて実はホッとしています。挿絵で延ばしたりして、本当ごめんなさい……。
それでは、生存しています! これからやっと話の方向が決まりましたので更新を円滑していけたらと思います!
長くなりましたが、これからもどうか宜しくお願いいたします!