ダーク・ファンタジー小説

Re: 白夜のトワイライト【完結版】久々更新&第6話完結しました! ( No.89 )
日時: 2013/07/24 18:34
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)

「復讐……か」

 思わず、呟いた。
 降り続ける雨の中、子供と女が座り込んでいる。それも、木々が薙ぎ倒され、車が横転したり木っ端微塵となっていたり、地面が抉れていたり、惨状と呼ぶに相応しいこの光景の中に、たった二人を残して。
 この二人が怪しいのは全く変わらない。だがしかし、この少年の言う復讐という言葉が自分と無意識に重ね合わせていた。
 母親を殺され、姉を殺され、弟を殺された。三人を殺したのは実の父親であるが、父親も被害者だった。
 無理心中を図ろうとした父親の無念。黒獅子と最期にもらった"どうしようもない感情を押し付ける相手"の名前。ただそれだけを、それだけを生き甲斐としなければ普通でいられなかった自分がここにいる。臆病な自分が、こうして人に拳銃を向けていたのだと。そう思えば思うほど、何故か自然と拳銃を下ろしていた。

「そうか、復讐者か……」

 小さく呟いて、銀髪の少年に目を向けた。

「奇遇だな。俺も同じだ。俺も……殺したいほど、憎い奴がいる」

 殺したいと願わなければ、追いかけなければ自分の存在意義が無くなってしまう。自分は父親を殺した。殺してしまった。正当防衛だったとはいえ、実の父親を。あんなに優しかった父親を、バッドで、何度も何度も、なんども。
 脳裏に浮かぶあの光景。血の海。全てが血で染められたあの光景。自分の血が全て流れていったかのような喪失感。何もかもがやりきれない、やり場のない悲しみが常に付き纏う、そんな世界の中で、一人もがいていた。

「何が何でも、やり遂げなきゃいけないんだ……俺が"ここにいる為に"」

 自分は今どんな顔をしているのだろう。どうしてこんな偶然会ったばかりの、それもこんな場所で、こんな——悲しい顔をした銀髪の子供に言ったのだろう。そう、ふと思った。
 優輝の表情を見て、どこかで見たような懐かしさがあった。それは、隣にいる銀髪の少年と最初に出会った時のこと。あの時、確かにこのような表情をしていたと、春は記憶の中で思い返していた。
 この日上 優輝という人物にもあるのかもしれない。心に抱えた、大切で、残酷なものが。

「……どうでもいいことを話した。気にしないでくれ。それで、君たちは何でこんなところにいる?」

 我の返ったように優輝は話を戻した。勿論、復讐者と聞いたところで何がどう変わるわけでもない。この場所にいる理由にもならない。

「私たちは……」

 そこで初めて春が口を開いた。今まで黙っていたのは何かわけがあるのか、どうなのかと優輝は言葉を待つ。

「この街の汚染状態を確かめにきた調査員です」
「何……? 汚染状態ということは、ここは……」
「はい。死の風によって侵食されています。住民は既に避難しています」
「なるほど……それで住民が誰も……」

 もっともらしい素性に多少納得するが、それでこの惨状の言い訳がつけたとは思えない。だが、住民が誰もいない理由は確かに辻褄が合う。けれど、この街に入る前に襲ってきた人間達は能力者ではない。つまり、普通の人間だ。なら彼らはどうして死の風が蔓延した土地にいたのか。

「……ところで、貴方は……?」

 春からの突然の質問によって思考が途切れた。優輝は言い忘れていたかといわんばかりに表情を変えて名乗る。

「あぁ、申し遅れた。武装警察第三部隊所属、日上 優輝だ」
「第三部隊……?」

 武装警察だということは想像は出来ていたが、第三部隊の肩書きに春は引っかかった。
 確か、どこかで聞いたことがあるような気がする。第三部隊には、そう、"絶対に相手にしてはいけない者"がいたはずだ、と。
 そこで優輝の後方から光が少々煌めいた気がした。それが何か分かるまで数秒、またそれが分かった頃には遅い——


「伏せろ!!」


 どこかで聞いたことのある声と共に何物かが春と白夜を押し出し、一瞬にして透明となって周りの風景と一体化する。その一瞬の間に元に二人がいた場所には氷の槍が激突していた。

「な……ッ!」

 爆音と共に氷が弾け、驚きを表した優輝は思わず仰け反る。
 氷の槍が刺さった状態を見て、優輝が真っ先に辿り着く人物は——

「八雲部長!」

 優輝の後方には八雲 涼風がいた。特に外傷は見られない様子で平然と尻餅をついた優輝に近づいて行く。

「また部長って呼んだね、優輝君?」
「あ……いや、ですから、仕事中ですし! それに、もう少しで俺に当たるところだったんですから! 許してくださいよ、それぐらい!」
「あはは、ごめんね? いいよ、許してあげる。……それにしても、逃げられちゃったね。気配が完全に消えてるよ。なかなかの能力者みたいだね」
「そう、みたいですね……」

 まだ聞きたいことがあったが、逃げられてしまったのならば仕方が無い。ここで追うとしても、まだ武装警察としてやらなければならない重要な任務。失踪した特殊部隊の捜索が残っているのだから、下手に自分勝手な行動は出来なかった。

「あ、そういえば……橋本さんは?」
「いえ……そういえば、分かれてからまだ合流してないですね……連絡いれましょうか?」
「んー、千晴ちゃん達に連絡とってもらうことにするよ」
「あ……二人共、大丈夫なんですか? 突然連絡が途絶えて……」
「本部から連絡が来たから大丈夫。ちょっと色々あったみたいだけど、二人共無事に戻ってるみたいだよ」
「そうですか……良かった」

 と、連絡を送る為に八雲が用意し始めた。
 橋本とは合流する手筈だったが、優輝は少しの違和感を感じていた。言ったことは守るはずの橋本らしくない行動だったというのもあるが、もっと他に何かあるような気がする。
 とは言っても、ここで考え込んでも仕方ない為に橋本と連絡が取れ次第に事を聞けば良いと思うことにした。
 
「そういえば、さっきの二人組だけど」
「あぁ、調査員って言ってましたけど……」

 突然の八雲の問いかけに優輝は相槌を打って対応する。

「調査員は調査員でも、エルトールだからね。この惨状とか、色々聞きたかったんだけど、さ……」
「やっぱり、エルトールだったんですか?」
「ん、女と子供でも関係ないからね。それに、あの中の子供の方は……」

 子供の方、と呼ばれて優輝が思い返すのは復讐者と口にしたあの表情。見た目は子供でも、そうではないような、不思議な感覚を覚えたあの銀髪の少年。

「あの子がどうか……したんですか?」
「んー……この一連のことに関わってる気がしてね。それに、最近噂になってるあの"銀髪の子供"かもしれないと思って」
「噂?」

 そこで涼風は少し考えた様子をとると、数秒後に小さく溜息を吐いて言葉を続けた。

「何年か前に騒動起こしてたみたいなんだけど、ベイグランドとして活動している中で銀髪の少年単体で凶悪能力犯罪者を倒し、その都度あることを必ず質問している」
「……もしかして」

 優輝の中に浮かぶのは、一つ。何故か、何の接点もないように思えていたはずなのに、

「……"黒獅子"と呼ばれている者を質問しているらしいよ」

 ぴったり、重なった。

「あの子供が……?」

 ——復讐者だ。

「一年前ぐらいにエルトールに所属したって聞いてるよ」

 ——復讐だ。

「ただ……あの銀髪の子供は何か、雰囲気が違う」

 ——すべて、全てを断罪する。

「関わらない方が私は良いと思うよ、優輝君」

 ——俺の……この手で、必ず……!

「あの少年からじゃなくても、もっと他に——
「少しでも。……少しでも、手がかりがそこにあるのなら。あの少年が何かを知っているのなら……」

 あぁ、そうだ。俺も——


「すみません、八雲部長。俺は、"復讐者"です」


 必ず、掴んでやる。"自らの罪"を"断罪する為に"。


——————————


 元にいた場所から遠くまで逃げ延びてきたところで、一体化した陽炎が解けて三人の姿が空間から飛び出した。

「はぁ、はぁ、はぁ……ったく、二人共何してんだよっ」

 まず最初に口を開いたのは秋生だった。
 春と白夜を間一髪で助け、秋生の能力の一つである"零旁"を使い、ここまで逃げ延びることが出来た。

「ええ、少し……。とは言っても、月蝕侍こそ傷塗れではないですか」

 春の指摘した通り、秋生の傷は馬鹿に出来ないほど無数の傷を負っていた。切り傷や擦り傷、様々な傷によって身体は満身創痍と言っても過言ではない。

「あ……あぁ、これはちょっと、な。……ところで、白夜光は大丈夫か?」

 話を逸らすかのように白夜に話を切り替えた。だが、それに深く追求せずに春は秋生に合わせて白夜を見やる。

「あぁ……心配ない」

 と、ただ一言だけ小さく呟いた。
 その様子に春は少々何も言えないように口を深く閉ざしている姿を見て、秋生も何らかのものを二人から感じ取った。

「何があったか分からないけど……とにかく無事で——」
「無事では良かったかもしれないが、断罪はどうした?」

 秋生の言葉を遮った声は白夜と春の者ではない。全く別の人物からの声だった。

「凪さん……ッ!」

 秋生が喉を詰まらせるようなリアクションをしてその無表情を極めた凪へと顔を向けた。

「完全に逃げられたようだ。八雲涼風と交戦中している最中を見つけ、乱入を考えたが勘付かれたのか突然逃げ去った」
「ということは……任務失敗、ということですか」
「あぁ。私がいながら不甲斐無いが、この街が閉鎖状態だったということが先ほど分かった。ここにはまだ何かあるかもしれない。それが分かっただけでもディスト様は構わないと言うだろう」
「え、もう報告書、書いたんですか?」
「当たり前だ」

 実に普通のことだと言わんばかりに何行も字が並ばれた用紙が何十枚も凪の手元にはあった。それを見て絶句する者は秋生ただ一人だけであるが。

「帰ったら任務失敗による報告書等をみっちり書いてもらう」
「そ、そんな……! 結構頑張ったつもりなんですけど……」
「月蝕侍、諦めなさい」
「あ、ああぁぁ……!」

 アンダー直通となっている隠しエレベーターのドアを開き、凪を先頭に中に促す。

「帰りましょうか……エルトールに」

 誰に言ったわけでもなく、春はそう呟いた。
 隣にいる銀髪の少年にもそれは届くように、と。





【あとがき】
 お久しぶりです、遮犬ですっ。
 特別にあとがきとして書かせていただくというのは、参照1500突破も重ね、やっと第6話完結した喜びのあまりです;
 本当にありがとうございます!

 そんなわけで、第7話は何か色々ごちゃごちゃして急展開続きだったわけですけど、より世界観といいますか、普段の日常が詰まったお話です。
 いわゆる休憩です。生暖かい目で見守っていてください(ぇ

 とか、7話のことを話しましたが、番外編もスタートしていきますので、どうかそちらの方も応援いただけると嬉しいです。
 文章力、及び物語の進行が未だにスムーズといかず、更には亀更新という……もうオワッテル駄犬ですが、どうぞこれからよろしくお願いいたします。