ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.13 )
- 日時: 2013/02/16 07:42
- 名前: Towa (ID: CejVezoo)
「で、俺結局状況がよく分かんないんだけど」
屋敷で用意された夕食を終えたあと、フィオはスレインの部屋におしかけ、そう言って口を尖らせた。
「申し訳ありません、突然連れてきてしまって……」
「いや、別にいいんだけどさ……」
思いの外真剣に謝罪するスレインをみて、フィオは慌てて首を振った。
「……でもなんでこんな依頼引き受けるんだ?俺はまあ、もちろん早くヤムラ達の記憶を取り戻す手がかりを見つけたいのはあるけど……とりあえずそこまで急ぎの旅ってわけじゃない。けどスレインは仕事でサーフェリアに行かないといけないんだろ?こんなとこ寄り道してる暇ないんじゃないのか?」
不平、というよりは心配そうな表情で聞いてくるフィオに、スレインは微笑んだ。
「ええ、確かにサーフェリアにはなるべく早く行かねばなりません。しかしサーフェリアに行くためには、このツインテルデの街道を通らねばならないのです」
「ツインテルデの街道って……ああ、今回魔物が住み着いたってとこか」
「そうです。数ヵ月前、魔物が巣食ったせいで街道が通れなくなったため、魔物討伐に協力してくれないかとアレスタス侯爵に依頼されました。街道は様々な商人達が利用していますし、通行可能でないと物資の輸出入は困難……それにシュベルテとツインテルデも頻繁にやり取りをしていますから、私達にとってもこれは迅速に解決せねばならない問題なのです。そこで、どちらにせよその街道は通らなければならないわけですし、通るついでに魔物討伐もしてしまえば、サーフェリアへの道は開け報酬も頂けるので一石二鳥……ということで、依頼を引き受けたのです。ただの魔物討伐にしては、かなりの額が頂けるのですよ」
ふふ、と微笑むスレインに「報酬目当てなのか……」と呆れたようにぼやいて、フィオは窓の外を見遣った。
いつの間にか外は暗闇に包まれており、窓には自分の姿が映るだけで外の様子など分からなかった。
「て、いうかさ……スレインってもしかして結構偉い人なの?」
突然呟くように言ったその言葉に、スレインは首を傾げた。
「はい?」
「だってなんかここの侯爵はスレインのこと知ってたし、心強いとかも言ってたし……そもそも屋敷にスレインが顔覗かせただけでこの待遇だろう?もしかしてスレインって実は偉い人なのかなって……竜人に仕えてるって前に言ってたし」
フィオの言葉の意味を理解し、スレインは答えた。
「私はそんな大層な人間ではありません。ただシュベルテの王宮に仕える前、魔物討伐を生業にしていたのです。ですから魔物討伐によく人を雇っていらっしゃる方々の間では、少しばかり名が知られてるのですよ。決して地位が高いから、とかそういうわけではありません。私など、ただの下働きです」
「へぇ……」
フィオは、スレインをまじまじと見た。
女性らしい綺麗な顔立ちに、華奢な身体、決して戦えるようには見えない。
確かに出会った当初から拳銃を二丁腰に携えてはいたが、フィオはただの護身用だと考えていた。
(まあ……今のご時世、確かに戦えなきゃ旅なんてできないけど……)
それでも、スレインが魔物討伐を生業にしていたなど想像もできなかった。
先程も騎士が剣を振り上げた時、真っ先に反応したのもフィオであったし、その携えられた拳銃も使い込まれている形跡が全くない。
まだ出会って数日なのだから当然と言えば当然だが、スレインの素性というものには謎が多かった。
「まあ、実際私はそこまで戦力にはならないと思います。正直今回の討伐も不安だったのです。だからフィオが来てくれて助かりました」
「え、ああ、うん」
思考を巡らせていた頭を引き戻し、フィオは慌てて返事をした。
「なあ、ところで、その魔物っていうのはどういうのなんだ?」
「知りません」
「…………」
笑顔できっぱりと答えたスレインに、速答することじゃないだろうとフィオは思った。
「あ、でも手強いのは手強いようですよ。既に何人か討伐に向かわれた方々がいるようですが、悉くお亡くなりになったそうです」
「…………」
「もともと山にすんでいた魔物のようですが、侯爵様曰く街道を通る旅人を襲うようになった、と」
「…………」
「まあ大丈夫ですよ。竜より手強い魔物なんていませんもの」
「…………」
つくづく、彼女は強かだ。
先程から涼しい顔をして随分と恐ろしい発言を繰り返している。
フィオはそんな彼女の様子に息を吐いて、スレインに言った。
「……ま、いいや。明日の朝、いつどこに来ればいい?」
「そうですね……日の出前にまた私の部屋に、というのはどうでしょう?ここから街道まではそれなりに距離がありますし、なるべく早く出発しましょう」
「分かった」
そう言って頷くと、伸びをしてから部屋の扉へと向かう。
「それじゃ、また明日」
「ええ、おやすみなさい」
スレインの落ち着いた声を背に、フィオは部屋を後にした。