ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.17 )
- 日時: 2013/03/25 22:25
- 名前: Towa (ID: EZ3wiCAd)
* * *
まるで、生き物がのたうち回っているような、そんな炎を見ていた。
大地は燃え、地は割れ、至る所に血が散っている。
人々は皆、もう燃えてしまっただろうか。
否、ここにいたのは、もはや人ではなく——。
リベルテ王国——。
どうか、この地に再び花が咲きますように。
* * *
翌朝、肌を撫でる冷気に、フィオは目を覚ました。
半分寝ぼけた状態で辺りを見回し、すでにこの寝室にはキートとスレインの姿がないことを確認する。
(…………)
いつ眠ったのか、いまいち覚えていない。
どうやら、キートにおやすみと言われ、そのあと素直に眠ってしまったようだ。
朝の冷えた空気をいっぱいに吸い込み伸びをすると、フィオはベッドから飛び出し寝室から出る扉を開けた。
すると、そこには既に朝食を食べ終えたであろう、キートとスレインの姿がある。
しかし、ちゃんと木机の上に一人分のスープが用意されているところを見ると、フィオの分も作っておいてくれたらしい。
「あ、おはようございます」
「おはよう、フィオ」
「おはよう、すまん、寝過ごした」
苦笑しながら水場で顔を洗い、スレインに示されたスープを飲む。
「いえ、寝過ごしたというほどではありませんよ。それより、傷の具合はどうですか?」
「もう治った!」
「そうですか、それは良かったです」
スープをすごい勢いで飲み干すフィオを見ながら、スレインはにこりと微笑む。
この食べっぷりからして、本当にもう傷は大丈夫なようだと判断したのだろう。
「ところで、スレイン。これからどうすんだ?」
「一度、アレスタス侯爵の元に戻ります。雪虎を討伐したことを報告に行かなければなりませんから……キート、貴方も行きますよね?」
「うん、行くよ。……あ、というか、僕これからサーフェリアまで、君達について行きたいのだけど、いいかな?」
思い出したようにそう言って、キートはスレインに問う。
それに対してスレインは頷くと、一瞬申し訳なさそうな表情で言った。
「ええ、もちろんです。昨晩、貴方達の会話を聞いてしまっていたので」
スレインのその言葉に、キートは特に驚きを示す様子もなくありがとうと礼を言うと、今度はフィオの方に視線を向ける。
「そういうことだから、フィオ、よろしくね」
「おう、よろしく」
食べ終えたスープの皿を片付けながらフィオも頷き、その様子を見てからスレインは口を開いた。
「……さて、それではそろそろ出掛ける準備をしましょうか」
* * *
——おい、そっちはどうなった!
——情報は入ったか!
フィオ一行がツインテルデの町へと入った時、アレスタス侯爵家前は昨日に比べ非常に騒がしかった。
軍の人間と思われる人々が頻繁に行き交い、町人達もざわつきひそひそと何かを囁きあっている。
「……なんだか、随分と騒がしいですね」
「うん、何か起きたのかな……」
「とにかく、アレスタスんとこ行って聞いてみようぜ」
フィオが促し、三人は辺りの様子を伺いながらアレスタス侯爵家の塀に向かって歩き出した。
「止まれっ!」
すると、門に立つ騎士二人が、一行を見て長槍を交差させた。
「何者だ!!ツインテルデ国民ではないだろう!!」
「私達は街道の魔物討伐を依頼されていた者です。アレスタス侯爵にお目通り願いたいのですが……」
「証拠を示してもらおうか!!」
スレインは、無言で懐から既に封の切られた手紙を取り出して、騎士に手渡した。
どうやら、件の正式な依頼状のようだ。
すると、それを受け取った騎士は二人で顔を合わせ、しばらく何か囁き合うと一人がこちらに視線を戻す。
「しばらく待——」
「その必要はない」
声は、門の奥から聞こえた。
重い音を立てて、鉄の門が内側から開かれていく。
その先に現れたのは、アレスタス侯爵その人であった。
「申し訳ない、マルライラ殿。どうぞ入られよ」
三人が通されたのは、昨日と同じ一室であった。
相変わらずきらびやかな調度品類が並んでおり、フィオは思わず目を細める。
「して、無事に帰ってこられたということは、討伐は成功したと考えて良いのかな?」
「ええ、雪虎2頭、討伐いたしました。帰り道でも散策いたしましたが、魔物とは遭遇しませんでしたのでもう心配はいらないかと」
「そうか、ご苦労であった。これで街道もまた使えるようになろう。さて、報酬は何が良い。言ってみよ」
言葉では感嘆の意を示しながらも、侯爵の心ここにあらずといった心中を、三人は感じ取っていた。
雪虎を倒したのはもちろん事実なのだが、場合によっては討伐が成功したなどと出任せを言っている可能性もあるというのに、この侯爵は確かめようとしない。
倒した虎の頭でも持ってきていればまた別だが、証拠もないのに報酬の話など切り出しているあたり、街道の方の件はもはやどうでもいい、といった様子だった。
「そう……ですね。では、馬を三頭、頂けますか」
「ふむ、よかろう」
侯爵は頷くと、手近にいた老年の従者を呼び馬の手配をする。
その様子を見ながら、スレインはふっと息を吐くと一歩前へと進み出た。
「侯爵様、一体何の騒ぎなのでしょう?」
その問いに、侯爵はぴくりと反応し、スレインを見つめた。
「この騒ぎ様、ただごとではないように存じますが……。私達はこれから旅立つ身、外界で何か起きたならば把握しとうございます。よろしければ訳をお聞かせください」
「…………」
スレインの凛とした態度に、侯爵は唸った。
言いづらいことなのだろうか、渋々と言った様子で口を開く。
「……リベルテが、一夜にして滅んだのだよ、マルライラ殿」
「リベルテが!?」
その瞬間、スレインの瞳は大きく見開かれた。