ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.18 )
- 日時: 2013/03/25 22:27
- 名前: Towa (ID: EZ3wiCAd)
普段の穏やかな声音からは想像もできない驚嘆の声が、スレインから発せられた。
状況をいまいち飲み込めないフィオは、そっとキートに向かって囁く。
「リベルテって……確か最近までツインテルデを領地にしてた国だよな?」
「うん。それなりに大きな軍事国家だ。一晩で滅びるような国じゃない」
スレインの驚嘆の理由を知り、フィオはああ、と納得したように彼女を一瞥した。
「一夜でって……一体なぜ……?」
「今調べておる。リベルテは最近近くの国々に片っ端から宣戦布告をしていてな、ツインテルデも例外でなかったため定期的に偵察を潜り込ませていたのだが……今朝の知らせによれば、リベルテは跡形もなく焼き払われ、消し飛んでいたらしい。既にこの辺りの国々には知れ渡っていることだが」
「消し飛んで……魔力の、竜人によるものでしょうか?」
「その可能性が高いな。民も建物も跡形もなく焼かれている。普通の火事ではこのようにはならないはずだ」
スレインは、絶句した。
あの国土を、それも軍事国家を一晩で焼き払うなど……
できるとすれば——
「あの……リベルテが宣戦布告した国々というのは……?そのどれかの国の仕業ではないのでしょうか?」
いつになく真剣な表情を浮かべるスレインの問いに、侯爵はゆっくりと首を横に振った。
「その可能性も考えたが、最近リベルテに軍隊が送りこまれたという情報はないのだ。いくらなんでも、リベルテを滅ぼすほどの大規模の軍隊が動けば、気づかぬはずがない。それに、国ごと焼き払うなど、民も領土も捨てるようなもの。他国との争いならば、相手国はリベルテを支配するため必要最低限の破壊行為しか行わないはずだ。焼けた地を得ても、何の得にもならないからな」
「ですが——」
「それより、リベルテはここ一年ほど、どの国とも連絡をとっておらず、中の様子が伺えぬ状態だったのだ。偵察も城門の壁を見上げることしかできなかったという……それ故リベルテの内部で何かが起きていたという可能性の方が考えられる」
「た、例えそうだとしても、焼き払ったというのは確実に人為的なもの。それを成せる竜人など、おそらくリベルテにはおりません……なぜ、国ごと焼き払ったのかは分かりませんが、やはり他国によるものではないかと……!」
「しかし……先程言った通り争った痕跡がないのだ。魔物の襲撃も考えたが、それもやはり気づくはずだ。何の前触れもなく瞬時に焼き払うとは……やはりリベルテ国内で巨大な魔力の暴発など、何かが起きたとしか……」
弾けたように侯爵を見上げ、スレインは首を横に振った。
「い、いいえ——」
——可能なのです。
軍も送らず、誰にも気づかれることなく、国一つを一晩で滅ぼすことが……!
あの国ならば、あの——!
そう叫ぼうとして、スレインは我に返ったようにして言葉を飲み込んだ。
そして崩れるようにして跪くと、ゆっくりと頭を下げた。
「も、申し訳ありません。取り乱してしまいました……このような、私ごときが侯爵様の御前ではしたない真似を……」
「……いや……構わぬが」
全身を、汗が流れていくのを感じる。
異常なまでの喉の乾きと手足は震えを収めようと、スレインは一つ大きく息を吸った。
「お、おい、大丈夫か……?」
スレインの見たこともないような感情の昂りに、フィオが心配そうに声をかけた。
それに対し、声は出さずに大丈夫だと頷き返すと、スレインは額を拭い立ち上がる。
「侯爵様、大変なご無礼お許しください」
「気にせずともよい……まあ、真相はまだ分からぬが、とにかくあのリベルテが潰れたとなれば様々な影響がこちらにもこよう。ツインテルデのこの騒がしさと警戒ぶりは、それが原因だ」
侯爵の言葉を聞いてから頭を下げ、スレインは笑みを浮かべた。
しかしその笑顔もどこか疲れているようで、先程までのはきはきとした態度は全く見えない。
それを感じ取りつつも、フィオとキートはただ押し黙ったまま立ち尽くすことしかできなかった。
「このようなお忙しいところに、申し訳ございませんでした。お教え頂き、本当にありがとうございます。私達はそろそろ失礼いたします」
「いや、礼を言いたいのはこちらの方だ。大した待遇もできずすまなかったな、マルライラ殿。馬はもう外に用意してあるだろう、使ってくれ」
「ありがとうございます」
そう言って踵を返したスレインに、半ば放心状態となっていたフィオとキートも慌てて続く。
その背に向けて、侯爵が最後に一言放った。
「マルライラ殿、父君によろしく頼む」
「……はい」
それに対しもう一度頭を下げ、一行はアレスタス侯爵家を後にした。