ダーク・ファンタジー小説

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.19 )
日時: 2013/03/28 12:22
名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)


†第二章†
『路と標識』



  *  *  *


 遥か太古の昔、後に崩壊の期間とも呼ばれたこの時代。
世界には魔物がはびこり情勢は崩れ、人々はまるで狂ったように争いを始めた。

 そんな中、ジュエンという男が争いを修めようと一人立ち上がった。
彼は、竜の中でもその頂点に立つ光竜の身体に傷をつけ、そこから流れ出た血を飲み、 強大な魔力を手に入れた。
そしてその魔力を使い、草木を生やし河川を潤し、世界を再生させた。

 これにより崩壊の期間は終焉を迎え、人々は再び希望を取り戻す。

 これが、世界を救った英雄ジュエンの物語である。



「っていうのが、英雄ジュエンの物語だ」
 フィオは胸を張ってそう言うと、ちらと二人へ目を向ける。
「……うん、やっぱり聞いたことないかな」
「私も、聞いたことないですね」
そんな二人の反応に、フィオは信じられないと言ったような表情を浮かべた。
これまで知らない者などいないと思っていたが、どうやらこの英雄ジュエンの物語は、ミストリア王国のみに伝わるものだったようだ。
「そっか、知らないのか。ミストリアじゃあ知らないやつなんていないような伝説の物語なのにな。……世界で初めて竜殺しを成功させた英雄ジュエン!!しかも光竜!!かっこいいよな!!俺は昔からジュエンに憧れてたんだ」
目をきらきらと輝かせながら興奮するフィオに、思わず二人は苦笑した。
竜人に絡んだ伝説だということで、なんとなく興味が湧きフィオに話してほしいと頼んだわけだが、フィオはその物語を話終えてからずっとこの様子だった。
もちろん、大体の内容は理解できたのだから目的は果たせたわけだが、それでも二人は、フィオの興奮ぶりにまるで着いていけず、もはや苦笑する他なかったのだ。



 ツインテルデの街道を抜けて10日、フィオ、スレイン、キートの3人は、サーフェリア行きの船が出ているモーゼル街へと向かっていた。
ここ一帯は争いが多いため、どの土地をどの国が統治しているか曖昧な状態で、あまり治安も良いところとは言えない。
そのため、アレスタス侯爵から馬をもらい、三人は早くこの土地を抜けてしまおうと考えていたのだ。
ちなみに、フィオはミストリアで王都まで行く際に馬を利用していたし、スレインやキートも旅途中に何度も乗ったことがあるため、三人とも馬の扱いには慣れていた。
そして、馬を手に入れたことにより、徒歩よりもずっと早く旅を進めることができているのだった。

 道中、フィオはキートに魔力の操作を学んでいた。
竜人になったのはいいが、その力を戦闘に生かせないのでは意味がない。
そう感じ、フィオ自らキートに魔術を教えてほしいと頼んだのだった。

 スレインは治療や料理といった生活面での能力に長けていたし、夜間もフィオとキートを中心に3人交代で見張りをすれば全く問題がなかった。
また、ミストリア王国からほとんど出たことのないフィオにとって、スレインやキートのこれまで巡った異国の話や、出会った出来事や人々の話は、興味を引くものばかりだった。



 徐々に強くなり出した日差しは、だがまだ暑いというほどでもなく心地よい。
ここは北国のため、日差しは強くとも気温自体が低いためだ。

「しかし、そのジュエンさんという方が使った光竜の魔力とは、一体どのようなものだったのでしょうね。竜人が一般的に認識され始めた現在ですら、光竜と闇竜だけは目撃情報が全くありませんし……」
「川を潤す、は水竜の力、草木の再生は土竜の力でできそうだけど……光竜の魔力は、火竜、雷竜、水竜、土竜、風竜、全ての属性を使える、とか?あ、でもそうすると闇竜の存在に説明がつかないか……」
二人の推理を聞きながら、フィオは言葉を続ける。
「一説によると、光竜が司るのは再生の魔力、闇竜が司るのは破壊の魔力、みたいだけどな。ただこれには色んな説がありすぎて、よく分かってないらしいよ——……あれ?」
ふと、フィオは言葉を切って遠くを見つめた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんか……」
「…………?」
す、と腕を持ち上げ、その指で示したのは、道脇にある1本の木の根元。
「……人が落ちてる」