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ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.2 )
- 日時: 2013/01/05 22:01
- 名前: Towa (ID: HBvApUx3)
私は今でも、ずっと考え続けている。
あの時私は、再び人々の心に希望をもたらそうと行動した。
しかしあれは、本当に正しいことだったのだろうか。
河は渇れ大地は割れ、世界中に魔物が跋扈したあの時代……。
いつ終わるともしれぬ世界の中で、ただ狂ったように争い続けた人という生き物は、やはり気疎く弱いものだったのだ。
しかしだからこそ、人々には希望をもたらす強大な何かが必要だった。
河を潤し、大地に草木を生やし、魔物を一掃する……そんな強大な何かが……。
私はその強大な何かを探し続けた。
何年も何年も、終焉への一途をたどるこの世界の中で。
そうして見つけた——私達人間が存在するより遥かに昔から世界に住む、竜族という存在を。
そしてその美しく偉大な竜族達の持つ、魔力という力の存在を。
しかし、この力は人間が使うべきものではない……私はその時点でそう気づくべきだったのかもしれない。
魔力を我が力とするために、白き竜に剣を突き立てたあの時、竜は自ら生き血を差し出し、悲しげに言ったのだ。
『愚かな人間よ……そなたに力を与えよう。我ら竜族しか持たぬ、強大な強大な力を。
その力で世界の崩壊を止めるがいい……。』
それからずっと、私はこの出来事の意味を考え続けている。
手に入れた魔力を使い、河を潤し大地を再生させたその後も。
跳梁する魔物を払い、人々の心に再び希望をもたらしたその後も。
こうしてずっと、考え続けている。
人々は私を英雄と称した。
しかし私は今でも思うのだ。
私は、人々をたどるべき道からはずしてしまったのではないだろうか……と。
気疎く弱い、そんな人間のたどる道は、どこに通じているのだろう……。
英雄ジュエンの手記より。
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