ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.21 )
- 日時: 2013/03/28 09:01
- 名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)
「絶対怪しいだろ!」
乾いた小枝を拾い上げながら、フィオは口を尖らせ呟く様に言った。
「ん?何が?」
そんな彼と同じように、林を歩きながら薪となる枝を拾い、キートは問い返す。
「何が……って、あのルーフェンってやつだよ」
「そう?」
どうでもいい、といった風に答えるキートに、フィオは怒ったように言葉を荒げた。
「そう、だ!あんな丸腰状態で道端に寝るなんて、どう考えたって怪しいだろ!そもそも荷物だってほとんど持ってなかったし……俺らが通ってきたような処なら小国も並んでるし、まああの荷物量でも分かる。でもこの辺りには国どころか街もないんだぞ?」
「と、いうかさ、もしかしたらあの人リベルテの人じゃないかな?」
「え?」
「だって見たでしょ、あの服についた灰や煤。リベルテは国ごと燃えて滅びた……それが大体10日ほど前の話。僕らはゆっくり来たけど、ここからリベルテまでちょうど徒歩で10日くらいだし、彼がリベルテから避難してきた人だと考えたら辻褄が合うよ。荷物も用意できなかったんでしょ、火事になったらそんな用意はできないからね」
拾い集めた薪を示し、もう十分だろうとお互い判断すると、それから件の青年がいる方へと足を向けた。
スレインとルーフェンは今、道脇の木の傍で食事の用意をしているはずだ。
「まあ、確かに……でもそれって、住んでた国がなくなったってことだろ?そしたらあんな能天気でいられるはずない」
「それは……そうだね」
「だろ?……ってか、大丈夫かな、あんな得体の知れないやつとスレインを二人っきりにしてさ」
思い出したようにフィオが言うと、キートは苦笑した。
「フィオって結構心配性だよね。……そんなにスレインのことが心配なの?」
「なっ!?そういうことじゃあ……!!」
「大丈夫だよ。あのルーフェンって人、確かに怪しいけど、悪い感じはしなかったじゃない」
まるでフィオの意見を聞き入れようとせずに、キートは微笑む。
そして視界に入ったスレインに手を揚げた。
「……悪い感じはしないって、そんなのなんの理由にもならないだろ……」
呆れたように脱力して、フィオは呟いた。
そしてスレインの方へ歩き出すキートに、フィオは溜息を吐いて続いた。
火から取り出したパンに、干し肉と香辛料、とろけたチーズを挟んで食べると、なんとも言えないほど美味しかった。
非常食用の水を含ませて焼くだけのものではあったが、スレインの焼くパンをフィオは気に入っていた。
そしてルーフェンも同じくそれを気に入ったようで、美味しいとパンを頬張り噛み締めていた。
「ところで、ルーフェンさん。貴方にお聞きしたいことがあります」
まだ口をもごもごと動かす青年に、スレインが切り出た。
ルーフェンは口にはいったものを飲み込むと、疑問符を頭に浮かべ首を傾ける。
「これからどうなさるおつもりですか?」
「北に行きますよ」
まるで当然だとでも言うかのように、ルーフェンは答えた。
「北……ということはモーゼルへ?それともサーフェリアに……?」
「ひとまずは、モーゼルへ」
「モーゼルへって……そんな丸腰でいけるわけないだろ?あんたなんでちゃんと旅装整えないんだよ」
先程一度考えることを放棄した問題だが、フィオは怒りを含んだ口調で問うた。
確かに、先程キートの言ったようにルーフェンがリベルテからの避難民であれば、丸腰である理由を問うのは酷なことかもしれない。
しかし、フィオにはこの飄々とした青年が、国を失った人間には見えなかった。
「……整えたんだけどね、全部ダメになっちゃったんだ」
「なんでダメになるんだよ?」
「色々あって、ね」
「だからその色々ってなんなんだよ!!」
「それは秘密だよ」
「だからそういうところが怪し——」
「落ち着きなよ、フィオ」
声を張るフィオを、キートが制した。
「だって食べ物も水もなきゃ、俺らが一緒に次のモーゼルって街まで行くしかないだろ!俺はこんな怪しいやつと旅するのは嫌だ!」
この青年を完全なる悪人だと決めつけているわけではないが、やはり素性が全く分からない者と道中共にする気になれなかった。
しかしキートはあまりその辺りのことは気にしていないようだし、スレインも遠慮しているのか遠回しな聞き方しかしない。
そうなれば、自分が聞くしかないとフィオは思ったのだ。
だが、そんなフィオの怒りの原因であるルーフェン本人は、笑みをこぼす。
「そう、フィオ君は優しいね」
「なっ……!」
「でもごめんね。僕も本当に詳しくは言えないんだ」
ルーフェンの声音は、どこまでも穏やかだった。
フィオは、自分がこんなにも必死に言っているのに優しいねなどと間の抜けたことをいうこの男に、一瞬腹立たしさを覚えた。
しかし、この一種暖かさをも感じるような声音に思わず押し黙る。
「僕は別に、一緒にモーゼルまで行ってほしいなんて厚かましいことは言うつもりないよ」
「食べ物もないのにか?」
「うん、まあどうにかなるんじゃないかな」
「どうにかって……」
フィオはため息をついた。
なんだかこの男と話していると、ここまで必死になっていることが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「まあ、とにかく、本当にありがとう。ご馳走さま。僕のことはあまり気にしなくていいから、君達は君達の旅を続けてよ。……恩返し、したいところなんだけど、今は何も持ってないから。せめてこれ以上迷惑はかけないようにするよ」
ルーフェンは立ち上がり、そう言って微笑んだ。
「しかし、私達もサーフェリアへ向かっている途中です。サーフェリアへの船が出ているのはここより北のモーゼルか、あるいは西のカルダットの二つの街です。だから私達も——」
「だったら、カルダットにいった方がいいよ。モーゼルは少し危険、というか僕といると危険かもしれないから」
「なんでだよ?」
「色々あって、だよ」
またそれか、とフィオは小さく舌打ちする。
つくづくこの男とは気が合わない、そんな腹立たしさを感じながら、フィオはルーフェンから目をそらした。