ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.22 )
- 日時: 2013/03/27 01:28
- 名前: Towa (ID: JIRis42C)
「それじゃあ、本当にありがとう。どうぞ、貴殿方の旅に多くの幸せが訪れますように」
そう言って手を振り去っていくルーフェンの後ろ姿を見送りながら、フィオは小さくため息をついた。
妙な疲労感、とにかく自分は、あの男ととことん相性が悪いのだろう。
半日も時を共にしてなどいなかったが、フィオはそう感じた。
「ところで、どうしようか?カルダットに行く?」
次の行き先を決めようと、キートが再び旅支度を整えながら問う。
「モーゼルにしようぜ。カルダットはここから少し西だろう?北のサーフェリアに向かうんだったら、北にあるモーゼルからの船に乗った方が絶対近い。そうだよな、スレイン?」
「…………」
「……スレイン?」
返事かえってこないことを不思議に思い、フィオがスレインの目の前で手を振る。
すると、スレインははっと我に返ったように彼を見た。
「す、すみません。何でしょうか」
「モーゼルに行くか、カルダットに行くかってこと!」
放心状態となっていた彼女の見つめていた先が、先程ルーフェンの去っていった道だと気づき、フィオは顔をしかめ答えた。
「そう、ですね……当初の予定ではモーゼルに行くつもりだったのですが……ルーフェンさんの言っていたことも少し気になりますし……」
「あんな訳わからないやつの言うことなんか信じなくていいだろ」
「まあ、確かに不思議な方ではありましたが……ん?」
ふと、スレインの視線が道脇の一点で止まった。
その視線の先を、少年二人の目も追いかけると、そこには麻袋が一つ転がっていた。
「……あ……あれって……」
「うん、さっきルーフェンって人が持ってたやつだね」
「忘れてしまったんでしょうか……」
「…………」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙の末、フィオはどかどかと大股でその袋に近づくと、乱暴にそれを掴みあげた。
大きさにしては、かなり重量感がある。
「かっ、勝手に開けるのは……」
「いいんだよ!忘れてったあいつが悪いんだから……よっと」
他人の荷物を勝手に漁ることに抵抗を感じたらしく、スレインは制止の声をあげたが、フィオは構わず袋口の紐をほどき中身を地面にぶちまけた。
「これは……?」
まるで錘を落としたような音を立て袋から出てきたのは、6つの透き通った玉であった。
それぞれ赤、青、茶、黄、緑、黒に近い色をしており、その周りには繊細な金細工が施されている。
「これは……なんでしょう?ただの宝珠、というわけではなさそうですし……見たことがありません」
「うん、僕もだよ。……とりあえず、安いものじゃあなさそうだね」
「…………」
しばらく、三人は頭を抱えただ呆然とそれらを眺めた。
よく見ると所々傷や汚れがついており、そこからもただ鑑賞したり飾ったりする宝珠ではないことは明らかだった。
しかし、これを見つめているとまるで吸い込まれてしまいそうな、そんな不思議な感覚に陥る。
「はぁ……これ、あいつに届けるしかないよな」
「うん、そうだね」
「そうですね」
もううんざりだという雰囲気を醸し出しながら言ったフィオの言葉に、二人が頷く。
モーゼルまではあと二日もかからない。
こちらには馬があるのだから、徒歩で言ったあの青年にはすぐに追い付くだろう。
「……全く、あいつ、何も持たずに行ったのかよ」
「ルーフェンさんが持っていらしてたの、この荷物だけでしたものね」
「色々あって、とかなんとか言ってたけど、どうせ食料とかその辺もどっかに忘れてきたんだろ」
木に繋いでいた馬に荷物を括りつけ、三人は旅装を整え馬に跨がる。
「仕方ありませんね。行きましょう、モーゼルへ」
スレインは苦笑しそう言って、あの青年が行った道を辿る。
その背に続いて二人も馬を走らせ、三人はモーゼルへと向かった。