ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.24 )
- 日時: 2013/03/28 09:21
- 名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)
「嫌だ。あのうねうね野郎ともう一度会うなんて、絶対嫌だ」
酒場を後にした三人は、嫌がるフィオを引きずり再びあのクラーケンのいる砂浜へと向かっていた。
「でもフィオ、この街の人達はものすごく困っていらっしゃいます。助けてあげたいとは思いませんか?」
「そ、そりゃ思うよ……相手があいつじゃなきゃな」
「フィオ……竜を倒した貴方が、あんなクラーケンに臆する必要などありません」
「…………」
いつになく力説するスレインに、フィオははぁ、とため息をついた。
なんだかんだでやはり彼女は強かだ。
フィオも気が強い方ではあったが、彼女の言うことを覆せたことは、これまで一度もない気がする。
「……じゃあキート、お前がやれよ」
「僕のは水魔法だから、海の生物に致命傷は与えられないよ。とどめは君しかさせない。だからフィオ、一緒に頑張ろう!」
「フィオ、お願いします……!」
自分を見つめてくる二人の目に、フィオは思わず黙りこんだ。
キートの目に至っては、確実に面白がっているというかこの状況を楽しんでいる非常に胡散臭い目だが、スレインのに関しては懇願の目だ。
フィオは、スレインのこの目に弱い。
そもそも勝手に「退治しましょう」とか言い出したのはスレインであるし、フィオに一切責任はない。
それなのに、これを断ると何故か自分が悪者になったような罪悪感に襲われるのだ。
フィオは、本日何度目か知れぬ大きなため息をついた。
それから吹っ切れたようにずんずんと前に歩いていく。
「だぁっ!!もう、分かったよ!!やりゃいいんだろ!!」
「ありがとうございます!」
後ろから、スレインが礼を言う声が聞こえたが、フィオは振り向きもせず例の砂浜へと向かった。
* * *
黒髪の女性、青髪の少年、銀髪の少年、この三人が酒場から去ってからも、男はぼんやりと昼食を食べていた。
なんとなく声をかけただけだったのだが、まさか退治しますなどと言われるとは思っていなかった。
(……なんか、申し訳ないことしちまったかなぁ)
実際、彼らは一度クラーケンから逃れてきたと言っていた。
子供と女性、という組み合わせからしてあまり強そうには見えなかったが、もしかしたら本当は……などという淡い期待を寄せて、退治するという申し出に思わず頷いてしまった。
しかしそのせいで彼らがクラーケンの餌食になったら——そう考えると、ふつふつと頷いてしまったことへの後悔が湧き上がってくる。
すると、ふと後ろの席に座っていた男が声を掛けてきた。
「おい、あんた。さっきの話、ちょっと聞こえちまったんだけどよ。もしかしてあの三人組、本当にクラーケン倒しに行くのか?」
「あ、ああ」
「なんでそんなこと言ったんだよ!どうせ明日には、サーフェリアから竜人様がクラーケン退治に来てくださるんだぜ?」
「なっ、えっ!?そうなのか!?」
驚きのあまり、思わず立ち上がる。
サーフェリアの竜人ならば、あんなクラーケン瞬殺だろう。
それも明日来てくれるなら、クラーケン退治など今更誰かに頼む必要もなかったのだ。
「はぁ、やっぱあの三人がいるときに声かけとけばよかったなぁ……てっきり冗談かと思ってたからよ。お前、昨日の町長の話聞いてなかっただろ?」
「す、すまん……寝てたかもしれん」
「ったく……昨日街に寄ってったなんか陰薄い感じの兄ちゃんがサーフェリアの人だったらしくてな、その伝で竜人様に依頼したんだよ」
「でも、なんでサーフェリアが……?ここは一応リベルテ領だろう?ほとんど独立状態だけど」
「馬鹿っ!!リベルテは消し飛んだばっかだろ!!」
その言葉に、男ははっとして口をつぐむ。
「じゃ、じゃあやっぱり……リベルテは……」
「さあ、詳しいことは分からん。とにかく!!あの三人止めるぞ!!あいつらまでクラーケンの犠牲になったら洒落にならん」
「あ、ああ、そうだな、すまない」
「二人で行くのは危険だ。そこら辺の漁師連中かき集めろ」
二人の男は立ち上がり、金を机の上に叩きつけるようにして置くと、酒場の外へと走り出た。