ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.27 )
- 日時: 2013/03/28 09:44
- 名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)
* * *
「へぇ……これがモーゼルの大漁祭か。思ったより規模が大きいな」
モーゼル街の中心部まで進むと、船場の静かな雰囲気とは打って変わり非常に賑わっていた。
年に一度7日間、一年の大漁を喜んで催される『大漁祭』。
華やかで街全体が活気づくと謳われ、その祭りには毎年多くの観光客が訪れていた。
「で、船が出るのは明日の昼頃なんだよな?……ってことは、今日一日は暇なのか」
ぐっと伸びをして、フィオが呟く。
「それなら今日は、一日中お祭りを楽しめるね」
「ふふ、そうですね」
キートの言葉に、スレインも楽しそうに目を細めた。
彼女も祭といったような活気づく場所は好きだった。
幼い頃、収穫祭で賑わっている街を見たとき、なんと美しい光景なんだろうと思ったものだ。
しかし、不意にその笑みを消し、スレインは弾かれたように空を見上げた。
それは少年二人も同様で、それぞれ訝しげに眉を寄せて空を見る。
「今……何か……」
一瞬、妙な気配を感じた気がした。
誰か一人が、というわけではなく三人同時に反応したということは、気のせいである可能性は低い。
「……何もいないね」
しかし、先程の気配は既に跡形もなく消え去っている。
そのことに対してフィオが表情を歪める一方で、キートは軽く肩を竦めてみせた。
「もしかしたら、どこかを魔物が通ったのかもね。でももういないし、気にするのはやめよう」
キートの言葉に、フィオも同意する。
「ま、そうだな。……よし、食いもん食おうぜ、食いもん!」
そう叫びながら屋台めがけて走っていくフィオを、二人は苦笑しながら追いかけた。
* * *
「——ん?」
それは、視線を感じて下を見た。
ほんの一瞬だったが、人間がこちらを見ていた気がする。
「……忌々しい男め。まだ我を追ってくるとは……」
唇を歪ませ、それは黒い闇色の眼を光らせると、眼前の街へと方向を変えた。
* * *
——どこだ……どこにいる……?
眼を閉じ、街全体に意識を巡らせる。
——早く見つけなければ……でないと大惨事になってしまう。
そういって焦る気持ちの反面、もはや自分の中にほとんど魔力が残っていないことを、ルーフェンは悟った。
と、次の瞬間。
「おい、師長!」
ばしっ、と背中に衝撃が走る。
慌てて眼を開き声がした方を見やると、そこには見慣れた焦げ茶色の髪があった。
「あれ、リーク?」
予想もしなかった相手に、ルーフェンは眼を丸くした。
彼には、確か船場に現れたクラーケン退治を命じたはずだ。
それなのになぜこんなとこにいるのだろう、と頭に疑問符を浮かべる。
「……クラーケンは?まさかもう倒したの?」
「あぁ?あれはなんか俺が行く前に通りすがりの旅人とやらが倒したそうだぜ。ったく、とんだ無駄足だった……ってそんなんどうだっていいんだよ!!お前、オーブは?」
ただですら白い顔が、もはや青白くなっているルーフェンに、リークが猫のような眼を向ける。
それに対し、ルーフェンはだらしなく伸びきった薄茶の髪を掴みながら、柔らかな笑みを浮かべた。
「……どこかに忘れてきちゃった」
「忘れてきちゃった、だぁ!?」
リークは、はぁ、と大きくため息をつき頭を抱えた。
「お前、馬鹿じゃないのか?オーブもない状態でなにやってんだよ……自殺行為だろ。……あ〜全く、俺なんでこんなやつの部下なんだろ」
「えぇ……ひどいなぁ」
本気の呆れ顔を向けてくるリークに、ルーフェンは苦笑する。
それを笑ってる場合じゃない、とひっぱたくと、リークはルーフェンの胸ぐらを掴み引き寄せ、周囲に人がいないことを確認し小声で囁いた。
「とにかく、だ!リベルテで何があったのか説明しろ。国ごと焼き払ったって、どういうことだ?」
ルーフェンの表情が、ふっと真剣なものとなった。
* * *
「あ!」
突然声をあげたスレインに、隣にいたキートが思わず肩を震わせた。
「どうしたの?」
「これのこと、すっかり忘れていました……」
「あ……」
そういって取り出されたのは、宝珠の入った正体不明の麻袋。
モーゼル街につく前の道脇で出会った青年、ルーフェンが忘れていったものだった。
「そういえば、ルーフェンって人に会えてないね。あの場所からモーゼルへは一本道だったし、僕らは馬で彼は徒歩だったから絶対途中で会うと思ったんだけど……」
「ええ、そうですよね。……これ、どうしましょう……」
ふと前方を見ると、「よし、食べるぞー!」と出くわす屋台の食べ物を買いまくるフィオ。
そんな彼に、「今からルーフェンを探しに行こう!」と言ったところでまず聞かないだろう。
だからといって別れても、この人混みじゃあ再会は難しい。
「……まあ、あのフィオの様子だったら、街にある屋台全部巡りそうだし、その途中で会うんじゃないかな?あの人の行き先もモーゼルだったよね。ってことはこの街のどこかにはまだいるだろうし」
「ええ……それしか、ないですね」
少し納得の行かないような表情を浮かべたスレインだが、やはりどう考えてもそれしかないだろうと判断し、頷いた。