ダーク・ファンタジー小説

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.3 )
日時: 2013/03/28 11:07
名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)

†序章†
『竜王の鉄槌』



 戸の開いた音で、ヤムラは目を覚ました。
夜が明けるにはまだ早い時刻で、鈴の音に似た虫達の声がまだ闇の中で絶え間なく響いている。

 ふと目をやると、戸口のほうに見慣れた友人の姿がぼんやりと見えた。
ヤムラは吐息を漏らすと静かに布団から立ち上がり、足音を忍ばせて戸口へと向かった。

「おい、フィオ」
「……あ、すまん。起こしたか」
闇には溶けぬその淡い青髪が、ゆっくりとこちらに振り向く。
その表情を見て、ヤムラはすっと眉を潜めた。
「まさかお前、本当に行くのか?」
驚いたようにそう問うてきたヤムラを見上げ、フィオは深く頷いた。
「行くさ。俺が竜を殺して竜人になれば、金だって名声だって得られる。そうすれば皆を貧しさから救えるんだ」
そう言って着々と旅装を整えていくフィオを見て、ヤムラは今日二度目のため息をついた。
「そんなこと言ったって、竜族なんてそうそう出くわせるもんじゃないんだろう?出くわせたとしてもあんな化け物みたいなの、殺せるわけない」
「大丈夫さ。俺、王都じゃちょっとばかし有名なんだぜ?『フィオ・アネロイドは最強だ。あいつの出場する武道会で優勝するのはまず不可能だ』ってな。前の武道会でなんか、俺より一回りも二回りもでっかい大男達を一瞬でぶっ飛ばしたんだ!」
曇った表情を浮かべるヤムラとは対照的に、フィオは瞳を輝かせながら言う。
「あの英雄ジュエンだって、竜の生き血を飲んで世界を救うほどの力を手に入れたんだろ?それと同じことを俺がしたら、俺はミストリア王国中の有名人だ」
「お前、あんなお伽噺信じてるのかよ?……いいんだよ、お前はこの集落のために十分尽くしてくれてるさ。だから——」
言いかけた言葉を遮って、フィオは手早く側にあった荷物を背負い込むと勢いよく立ち上がった。
「心配すんな、リケール山脈のほうに竜が棲んでるっていう噂もあるし。竜なんかちゃちゃっと殺してすぐに帰ってくる。だから待っててくれ!」
「あっ、おい!」
とっさに伸びてきたヤムラの腕を振り切って、フィオは外へと駆け出した。

 フィオの背中はあっという間に消え去り、目の前には暗闇が果てしなく広がっていた。