ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.32 )
- 日時: 2013/03/28 11:02
- 名前: Towa (ID: 6kBwDVDs)
少しの沈黙の後、リークがはぁ、と1つ息を吐いて口を開いた。
「……リベルテに宣戦布告されてたのは本当だ。だがルーフェンがリベルテに行ったのは、そんな理由じゃない。リベルテがここのところ音信不通で、明らかに様子がおかしかったから、その原因を突き止めに行っただけだ」
「……それで、なぜ焼き払うことに繋がるのですか?」
「それは知らん。こいつに聞け」
「リベルテの民が一人残らず、生ける屍(アンデッド)になっていたから」
返ってくるはずがないと思っていた声が返ってきて、リークとスレインは思わずぎょっとしてベッドの方を見た。
そんな二人の心境を余所に、「おはよう」と伸びをしてルーフェンが上半身を起こす。
「生ける屍(アンデッド)って……」
「文字通りだよ。一度死んだ人のその死体が、なぜか動くってやつね」
予想もしなかった単語が返ってきたため、部屋にいた全員が黙りこんだ。
「リベルテの様子がおかしいから見に行けって命令を受けて行ってみたら、なんとびっくりリベルテは生ける屍(アンデッド)の巣窟になってたんだよ。で、とりあえずそれをどうにかしないとと思ってね。……生ける屍(アンデッド)を唯一倒せる方法、何か知ってる?スレインさん」
「……!、炎で燃やす……!」
「その通り。だから僕はもういっそと思って国ごと焼き払ったんだ。本当に国全体腐った死体ばっかで、空気も吸えたもんじゃなかったよ。持ってた食料とか全部腐っちゃうし」
重苦しい話の割に、なんとも間の抜けたような声でルーフェンは言った。
「で、でもなぜ生ける屍(アンデッド)が……?そんな大量発生するなんて、聞いたことがありません」
「ああ、そうそう、僕もそれが謎でね。でもよーくリベルテを探ったら、ちょうど城壁に囲まれた領土全体が巨大な魔方陣になってたんだ、それも人間の憎悪から魔物を産み出すという禁忌魔術の魔方陣。……つまり、リベルテ政府がこそこそと何をやっていたのかというと、自国民を生け贄に使って、その国民達から生まれた憎悪の念を源に上位の魔物を産み出してたんだ。まあ、実力的に勝てなさそうなサーフェリアも含め、色んな国に宣戦布告してその国全てを魔物の力で滅ぼそうとでも考えたんだろうね」
あまりにも壮絶な話に、スレインだけでなくフィオやキートも絶句した。
戦争に勝ち、国の地位をあげることがそこまで大切なことなのか。
国民を犠牲にしてまでやるようなことなのか。
憎悪にまみれて死んでいった国民のことを考え、スレインは吐き気に襲われた。
「ただ、召還した魔物は別に操れる訳じゃない。それをリベルテ政府は認識してなかったんだ。だから禁忌を犯して魔物を召還したのはいいものの、その魔物はリベルテにいる人間全てを殺し始めた。上位の魔物に殺された人間は、肉体が滅んでも染み付いた憎悪の魂が永遠に生き続けるから、生ける屍(アンデッド)となる。その結果、まあ国全体が生ける屍(アンデッド)だらけになったってわけ。僕はそのことに気づいて、その魔物がまた別の国や街で殺戮始めないように止めるつもりだったんだけど……その気配を追ったら、どうやら魔物は北のここ、モーゼル街の方に既に向かっていたようでね、慌てて追いかけたんだ。まあただ僕もリベルテ全焼させたのでヘロヘロだったし、だからと言ってサーフェリアに戻る時間はなかったから道端で寝てたわけなんだけど」
「……では、貴方は魔物がモーゼル街に潜んでいた可能性を考え、私達にカルダットへ行くように言ったのですね?」
スレインの問いに、ルーフェンは頷いた。
「まあでも実際、君達がこのオーブ……あ、オーブっていうのは僕の魔法具で、この宝珠みたいなやつね。これ届けにモーゼルに来てくれて良かったよ。君達が劇場で魔物の足止めしてくれてなかったら、被害はもっとすごいことになってただろうから。……とまあ、こんな感じ。スレインさん、これでいいですか?」
ルーフェンの言葉に、スレインは肩を震わせた。
そして深々と頭を下げ、謝罪する。
「すみません……なんだか私混乱してしまって、とても失礼なことを……」
「いやいや全然。気にしないでよ」
穏やかな声でそう述べて、ルーフェンは勢いよくベッドから立ち上がる。
そしてまるで辺りの重苦しい雰囲気をかき消すかのように、明るくリークに声をかけた。
「さて……リーク、そろそろ帰ろう。こんなに城空けちゃったから、すっごい仕事溜まってるかも……。このこと王様に報告しなきゃいけないし」
「じゃあもう今日帰るか?」
「船ある?」
「モーゼルから出るのは明後日までなかったから、サーフェリアから呼んだ」
「仕事が早いねぇ、流石リーク!」
「ま、お前より早いのは確かだな」
「えぇ……ひどい」
「で?お前らはどうする?」
「はい!?」
突然話がこちらに飛んできて、スレインは慌てて返事をした。
しかし、彼女が何の話かいまいち理解できていないことをリークは感じ取って、もう一度同じ質問を繰り返した。
「お前らはどうする?って。今サーフェリアから船来てるから、俺達はもう今日出発する。だから一緒にその船乗ってもいいぞ。ただ明後日モーゼルからもサーフェリア行きの船は出るから、お前たちがもうちょいここで休んでいきたいならその明後日の船に乗ってもいい。どっちにする?」
「「「今日一緒に乗せてください」」」
「よし分かった。あ、ただしあれな。俺達はお前らを、上位の魔物と戦った重要参考人みたいな形で連れてくから、王宮についたらちゃんと協力してくれよ」
リークが凄まじい早さで話を進め、さっさと病院を出ていく手続きを始める。
「なんかリーク、カザルといないとしっかりするね」
「うるせぇ!」
その日、モーゼル街をクラーケン含め魔物達の手から救ったということで、ちょっとした有名人となっていたフィオ達は、足早に病院から出るとサーフェリア行きの船に飛び乗ったのだった。