ダーク・ファンタジー小説

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.33 )
日時: 2013/03/29 23:04
名前: Towa (ID: a4Z8mItP)

†第三章†
『竜と固執』

 冷たい海に突き出した世界最大の国、サーフェリア王国。
初代国王バジレット・ハースが治めるこの国は、竜人と魔術を象徴として掲げる単一国家である。
近年急速に発展したため歴史こそ浅いものの、広大な土地、豊かな資源、そして小規模だが圧倒的強さを誇る軍事力により、サーフェリア王国は今やどの国からも一目置かれる存在となっていた。

「うぅ……寒いですね」
「国に入れば、結界が張ってあるから暖かくなるよ」
 肌を切り裂くような寒風に、スレインが震えて外套を頭までかぶった。
それを見て苦笑しながら、ルーフェンが答える。
サーフェリア王国は、場所によっては雪も見られるはずの北国であるが、領土全体を結界で覆うことで寒さから国を守っているのである。

 モーゼル街から出発して早5日。
冷たい潮風に耐えながらの船旅は、間もなく終わりを迎えようとしていた。
「あ、見えた。あれだよな?」
「うん、そうみたいだね」
目の前の水平線から、緑に覆われた大地が見えてくる。
甲板でキートと海を眺めていたフィオは、それを見ると興奮した面持ちで指差した。
すると、後ろで帆を畳始めた船員達の内一人から、声が飛んでくる。
「あと少ししたら、結界の中に入ります!揺れますので手近なところに掴まってください!」
いよいよ、船がサーフェリア王国の王都アメルファの船着き場に停まろうとしているのだ。
「ところで、結界って俺らも入れるのか?」
ふと疑問に思ってルーフェンに問うと、彼は微笑み深く頷く。
「サーフェリアの船に乗ってるから大丈夫、リークや僕もいるしね。この結界は、寒さや外敵から国を守るものだから、僕らがついていれば入れるんだよ」
そう聞いて、フィオは目の前に迫る船着き場と自分達の乗る船の間を見る。
(なんも見えないけど……この間に結界があるのか……)
そんなことを考えていると、船は早速結界に差し掛かったようで、ぐっと一時的に減速した。
しかしそれを自覚した頃には、船は再び勢いを取り戻しており、まるで突進するかのようにドンッと盛大な音を立てて、船着き場に止まったのだった。

 船員達に軽く礼を言ってから船を降り、一行は久方ぶりに陸地に下り立った。
その時彼らの頬を撫でた風には、もう肌を切り裂くような冷たさはなく、スレインはいそいそと外套を脱ぐ。
それから三人は、ルーフェンとリークの二人に先導され船着き場から少し歩くと、王宮へ繋がる大通りに出た。
魔術国家、竜人国家などと呼ばれるだけあって、空中にまで庭園や家が浮かんでおり、それはなんとも異様な光景だった。
一般の外国人が先程の結界を越えるには色々と手続きを行わねばならずかなり面倒なようだが、それでも観光客の足は絶えず、治安の良さもあって移住を望む者 も多いらしい。
それは、この不思議な光景を一度は見たいという好奇心からくるものもあるのだろうと、フィオは思った。

 通りには様々な店がずらりと並んでおり、溢れる人々はルーフェンとリークを見た瞬間次々と店から飛び出してきた。
「お、やっと帰ってきたぞ!」
「おかえりなさいませ、お二人とも」
「ぶっ、ルーフェン様、どうしたんです、その格好!また陛下に怒られてしまいますよ」
次々とかけられる声に、ルーフェンとリークは軽く手を振って答える。
そんな二人に先導されながら、フィオ、キート、スレインの三人は王宮の方へと進んでいった。

 そうして城門をくぐり、いよいよ城内に入ろうとした時、「——あ」と不意にリークが声をあげた。
「どうしたんだ?」
その声を不思議に思い、フィオが問いかける。
「ルーフェン、俺ら着替えないと。城内入るし」
「あ、そっか」
そう言って顔を見合わせ、ついで二人はフィオ達に視線を移した。
「俺達はローブに着替えないといけないから、ちょっと先に行っててくれ。客間は最上階の一番奥だからな」
「王様とか警備兵が来たらすぐに、さっき渡した僕の赤い耳飾りを見せるんだよ」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
軽く頷き、スレインは掌でルーフェンの赤い耳飾りを転がした。
それに対し二人は笑みを返すと、そのまま駆け足で城とは反対の塔の方へと消えていった。