ダーク・ファンタジー小説

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.36 )
日時: 2013/05/03 10:13
名前: Towa (ID: xPtJmUl6)

 グレイス、カザルによって連れてこられた3人は、これまた特徴的な3人だった。
彼らが加わったことによって、警備兵を除き客室には合計11人が存在することになり、流石に立ったままはどうなんだろうということで室内には椅子が用意された。

「ほう、禁忌魔術による魔物の召還、か。で、その禁忌魔術とやらの始末も含め全部済ませたんだろうな?」
「はい、多分大丈夫だと思いますよ」
バジレットの威圧的な目に、にこりと微笑んでルーフェンが答えた。
「でも、禁忌魔術なんて公には知られていないはずの魔術ですよね?なぜリベルテがそんなことを知ってたんでしょう?」
グレイスが問う。
「それは分からないんだよねぇ。誰かが古代の魔導書をリベルテの人間に渡したか……それくらいしか考えられないけれど。ただ困るのが、禁忌魔術っていうだけに僕も詳しいことは知らないから、実際のところどういった魔術なのか分からないんだ。現に例の上位の魔物が出現した辺り、なぜか普通の魔物が大量発生したりしてない?ね、騎士団長さん」
ふっと目を細め、隣に座る金髪の青年に声をかける。
すると、その騎士団長と呼ばれた青年——先程連れてこられたアルディンは、すっと席を立ち上がった。
「ええ、確かにそうですね。まあその上位の魔物とやらが具体的にいつどこをどう通過していったのかが分からないのではっきりとは言えませんが、ここ数日でリベルテからの街道沿い及びモーゼル街付近で魔物が頻繁に目撃されています」
「そういや、モーゼルにはその上位の魔物だけじゃなくてクラーケンも出ただろ。……俺は見てないけど」
しっかりとした口調で報告を済ませたアルディンに続いて、ふてくされたようにリークが言う。
それを聞いたカザルが、隣で不思議そうな顔をして口を開いた。
「なに、お前クラーケン退治しに行ったんじゃないの?」
「行ったさ。行ったけど、その頃には通りすがりの旅人とやらがもう退治した後だったらしい——って、ん?」
ちょうどその時、ふとリークの目にスレイン、フィオ、キートの3人が映る。
そしてモーゼル町長の言っていたその旅人3人組の特徴を思いだし、あっと声をあげた。
「黒髪の女に青髪と銀髪のガキって……あっ!お前らか!」
「は、はい!?」
突然指を差され、スレインが慌てて返事をすると、ついでリークが苛立ったかのように自分の髪をかき回した。
「あぁ〜っ、ったく、お前らかよ〜。俺はわざわざそのためだけに——」
「黙れリーク」
「はい」
しかし、それはバジレットの一喝により呆気なく収まった。
この場にいるものは大抵この王には逆らえないようだが、リークとカザルはその中でも特にバジレットに弱いようだ。
それから、バジレットはフィオ達に視線を移し、ゆっくりと足を組み直すと言った。
「で?」
「…………」
「貴様らが倒したのか?」
突如として向けられたバジレットの目に、スレインがフィオとキートの方を見る。
クラーケンを倒したのはこの2人だ、と言いたいのだろう。
その視線に、フィオが仕方ないと言ったような様子で口を開く。
「……ああ、クラーケンは俺らが倒したよ」
「どうやって?」
「どうやってって言われても……普通に戦って、だけど……」
「魔術を使って、だよ」
どう答えていいか分からず口ごもったフィオに、キートが助け船を出した。
だがその言葉に驚いたようで、バジレットは軽く目を見開いた。
「魔術?貴様ら竜人か?」
「うん、フィオはそうだよ。僕もまあ、そんな感じかな」
「ほう……」
バジレットが目を細める。
竜人と聞いて興味を持ったらしかった。
しかし、それを知ってか知らずか、話はアルディンによって遮られる——否進められる。
「話を戻します。それで、クラーケンの様子で何か変わったところはありましたか?」
そう問われて、フィオ達はアルディンに目をやった。
「いや、特には……というか、クラーケンに遭遇したのはあれが初めてだったし……な?」
「うん。あ、でも……クラーケンの周りの海水だけ異常に濁ってなかった?」
「そうだったか?」
「魔物自体には異常はなかったということですね」
「「…………」」
そうして話をばっさりと切られ、フィオとキートは押し黙る。
「まあ考えられる原因としては、その魔物の邪気に他の魔物も引き付けられてるとか、そういうことでしょうけど……問題はモーゼル街ですよね。今の話だといつまた襲われるか分かりませんし……」
「ああ、モーゼル街の町長にはもうサーフェリアの正式な領土になったこと言ってきたから、ほっとくわけにいかないしな」
真剣な眼差しで言ったグレイスに、リークが付け足す。
それには、この場にいる宮廷魔導師全員が頷いた。
そんな中で、唯一宮廷魔導師ではないアルディンが口を開く。
「……私には魔術のことはよく分かりませんが、モーゼル街にもここと同じような結界を張ることは不可能なのでしょうか?」
それに対し、ルーフェンがあごに手をあて、少し考え込むような仕草をしてから答えた。
「う〜ん、ちょっときついかなぁ。今張ってある結界は頑丈だし、張り続けても現在進行形で魔力が消費されないものなんだけど、その代わり2、3か月かけて、薄い結界を何層も何層も重ねる必要があるんだよ。モーゼル街にも即席で張れないことはないけど、それだと張った人はずっと魔力消費しっぱなしだし、強度も保てない」
「じゃあもうモーゼル街の人達全員こっちに引っ越してきてもらえばいいんじゃないの?そしたら俺らの守備範囲だろ?」
緊迫した空気の中で、おちゃらけた雰囲気をまとったカザルが言った。
するとその横で、リークが呆れたような表情を浮かべる。
「お前は相変わらず馬鹿だな、カザル。モーゼル街から人がいなくなったら、交易滞りまくるだろうが!!」
「なっ、馬鹿って言ったか今!!クラーケン退治しに行ってのこのこ手ぶらで帰ってきたやつに言われたくないね!!」
「なんだとてめぇ!!それは仕方ねぇだろうが!!」
「黙れ」
「「すみません」」
再び喧嘩を始めようとした双子を一喝し、バジレットはついで奥のほうに座る若草色の髪をした巨漢を見た。
先程、グレイスとカザルに連れてこられた内の一人である。
「エルダー、騎士団何人か連れて、あんたがモーゼル街に行きな」
「……今からですか?」
「この話し合いが終わって、準備ができたらすぐにだ。海辺の魔物ならお前の雷魔法が一番効くだろうからね」
「……分かりました」
エルダーと呼ばれた巨漢は、ぼそぼそと低い声で返事をした。
その鍛えられた逞しい肉体は、もはや魔導師というより軍人のようだった。
「ルーフェン、結界は死ぬ気で張ってどれくらいかかる?」
「皆が協力してくれるなら、1か月半くらいですかね」
「じゃあ1か月でモーゼル街に結界を張りな」
「ぷっ、また無茶言いますねぇ王様は……徹夜で頑張りますけど」
「ふん、できるだろ、お前たちなら。とりあえずその1か月間はエルダーに街を守らせる。ま、エルダーが街に着くまでの数日間で街が滅ぶようなことはないだろうしね」
「……けど」
ちょうど話がまとまろうとしていた時、ふとエルダーが口を開いた。
彼は元来無口なのだろう、話すことになれていないようなその声音は、実に聞き取りづらい。
「……その上位の魔物っていうのがまた出てきたとき、どうすればいいですか?……リベルテがその禁忌魔術を知ってたってことは、他国も知ってる可能性もありますよね」
それを聞いた途端、全員の視線がルーフェンとリークに集まる。
するとリークはお手上げだと言った風に手をあげて、ふっとため息をついた。
「言っとくが、ルーフェンは別としてありゃあ俺達でも一人じゃつらいぜ。しかも街中となるとそれなりに魔力を抑えなきゃいかんしな。……あれに弱点とかないのか?」
背もたれに寄りかかり、脱力したような声でリークが問う。
「さあ、それは分からないなぁ。そもそもあれは僕らが勝手に魔物と呼んでるだけで、本当は人間の憎悪から生まれた念の集合体みたいなものだから、生き物みたいに弱点とかはないと思うよ。ごめん、僕の説明が悪かったのかな。あの禁忌魔術は人から発せられた念を集めて、形にするって言うものだから」
「では例えばですが、憎悪だけでなく幸福や快楽の念も可能なのですか?」
「理論上はね。でも強い念っていうのは、基本的に憎悪とか嫉妬とか、そういう負の感情のほうが多いからそれは出来るか分からないよ。まあ僕も魔方陣にあった術式から読み取っただけだから、断言はできないけれどね」
重い沈黙が部屋を包む。
もし再びあの魔物が現れたとき、やはり2人は宮廷魔導師が必要なのだ。
しかしこの広大なサーフェリア王国全体ですら宮廷魔導師は6人しかいないというのに、モーゼル街に2人も回すのは危険な行為だった。