ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.37 )
- 日時: 2013/03/30 21:52
- 名前: Towa (ID: 6Bgu9cRk)
そんな雰囲気を感じながらも、バジレットはふんっと鼻をならすとフィオ達を一瞥した。
「そこの鼻垂れども、お前たちは戦った時のことを話せ」
自分達のことだと気づいて、フィオとキートは顔をあげると、お互い気まずそうに顔を見合わせてから答えた。
「俺達は、2人いても歯が立たなかった。攻撃を防ぐので精一杯っていうか……」
「そうか。ではサーフェリア国内の他の竜人を大量に送り込んでも無駄だな」
「…………」
はっきりと無駄だと言われて、2人は微妙な顔つきでいたが、否定もできなかったためただ沈黙を守る。
しかしその横で、ルーフェンがこの重苦しい雰囲気を払拭するような声音で言った。
「まあ、でもこれはそこまで心配する必要ないと思いますよ」
その声に、バジレットは目を細め半ば睨むようにしてそちらを見やる。
「なぜそう言える?」
「だって、あれを産み出すには必要なものが多すぎますから。まず沢山の生け贄、それなりの軍事力、まあこの場合は魔力ですね。あと巨大な魔方陣を描くための領土、そして魔導書。リベルテはもう全焼させたのであそこから情報が漏れることはまずないでしょう。それにもし何者かが意図的に情報を漏らしていたとしても、もう次に怪しげな動きをする国があったら私達が即気づいて対応できます。ね?ですから僕らは、とりあえずモーゼル街への守りを強化すればそれで問題ないでしょう」
「だが、最近魔物の動向がおかしいのは確かだぞ。モーゼル街にばかり気をとられていると、足元をすくわれかねん。特に南だ」
ふいに聞こえたどすの聞いた声の主に、全員の視線が集まる。
この中で最も目立つ宮廷魔導師——ラドニスだった。
先程部屋に入ってきたとき、フィオ達は彼を見て驚愕したのだ。
宮廷魔導師のローブは他と同じものの、フードを深くかぶり顔には鳥を象ったような面をかぶっている。
そして何よりも注目すべきはその異常な体格だった。
エルダーも十分がたいがいいのだが、それとは比較にならないくらい巨大だったのだ。
もはや椅子には座っていない——いや、座れない。
おそらく、フィオの4倍はあるだろうというくらいの巨漢ぶりだ。
「それはもう知っている。魔物が凶暴化しているという話だろう?」
「それだけじゃない。見たことのないような魔物が出現したり、大量の死骸が目撃されたりもしている」
「…………」
その話を聞きながら、グレイスは黙ったままルーフェンを見上げた。
それに気づき、ルーフェンは人差し指を口にあて何も言うなという合図を送る。
「ま、今回の件に関しては関係ないかもしれん」
「ああ、それについてはまた追々検討する。そもそも今は南の話なんぞどうでもいい」
ばっさりと言い切ったバジレットに苦笑しつつも、全員が軽く頷く。
「では、とりあえず話し合いは終わりに——」
「ちょっと待ってください」
と、ようやく話し合いが終結しようとしたその時、スレインの凛とした声が響いた。
ついでスレインは椅子から立ち上がり、バジレットの前に立つと恭しく跪く。
「ご無礼をお許しください、陛下。その、別の用件、についてなのですが……」
「それは後でと言ったはずだが?」
「ですが、今のことと、関連することなのです」
そういって彼女を見上げたスレインの表情は、真剣そのものだった。
これまでとは違う態度に、バジレットも目を細め、しばらくスレインを見つめる。
そして肘おきを土台に肘をつくと、鋭くはっきりとした声音で言う。
「良かろう。聞いてやる」