ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.5 )
- 日時: 2013/01/19 15:19
- 名前: Towa (ID: 0/Gr9X75)
「リケール山脈に竜が棲んでるっていうのは、昔から噂されていたことだ。でも別に問題はなかった。リケール山脈は鉱物がとれるような山でもないから登る必要もないし、竜だって本当にいるのかいないのかすら分からないくらい、なにもしてこなかったからな」
「でもそれが最近暴れてるのか……」
「ああ、そういうことだ」
一人残らず縄で縛り上げた状態で、フィオはリケール山脈に棲むという竜のことを聞き出していた。
もちろんテオ達は不機嫌そうに顔を歪め、さも教えたくないといったような風だったが、何気にナイフを首元に突きつけられているので仕方がない。
「まあ竜が大暴れしてるっていうのは最近よく聞くしな。……他にはあるか?
この時間帯によく竜が目撃される、とか」
「さあな、そんなもん誰も知らないさ。
竜のいる山脈に近づこうなんて考える奴はいない。俺達だってここより上は行ったことがないんだ」
「ふ〜ん」
「あ、でも——」
すると、今度はテオの隣で縛られている男から声が飛んできた。
「でも?」
「朝になるとよく咆哮が聞こえんだ、頂上の方から。」
「へえ……じゃあ朝に山頂に行けば、遭遇する確率が高いってことか……」
フィオは顎に手をあて、なるほどと納得したように頷くと、その後はっと顔をあげた。
「よし、分かった!ありがとな。あ、あとこれもらってく!」
「えっ、おい、こらっ」
フィオはテオの持っていた長剣を鞘ごと取り上げると、そのまま洞窟から走り出た。
「じゃあな!竜のこと、教えてくれて助かった!」
「待てお前!せめて縄を解いてからいけぇぇえええ!!」
テオ達の悲痛な叫び声は、洞窟中で反響したのだった。
翌早朝、フィオはまだ日も昇っていない、朝靄に包まれた森の中で目を覚ました。
野宿などほとんどしたことがなかったため、立ち上がり伸びをしただけでも身体中から骨の軋むような音がした。
「さて、と……」
フィオは持ってきた硬いパンを頬張り、昨日テオから強奪した長剣を腰に差すと、山頂の方向を見据え歩き出した。
ほとんど普段着ともいえるほど簡易な旅装ではあったが、幸いこの山を登るくらいならばどうにかなるようだった。
が——。
(問題は……竜と戦う時だよなぁ……)
フィオは深々とため息をついた。
(ナイフくらいは集落から持ってきたし……まあ剣はたまたま調達できたけど、鎧とかなくて大丈夫なんかな……)
貧しい故郷の人々の負担を少しでも軽くするため、フィオは度々王都に出稼ぎに行っていた。
そしてそれに加え、年に2、3回開催される武道会に毎回のように出場し、優勝しては賞金を手に入れていたのだ。
そのため、武術に——特に剣術に関してはかなりの自信があった。
しかし、今回は相手が人ではないのだ。
世界中を探しても、数十人しか成功した者がいないと言われる竜殺し——。
ヤムラ達には強気な態度で言い放ちここまで来たか、やはり不安がないわけではなかった。
(……竜人になれたら、金も手に入るしそれなりの地位にも就ける。でもやっぱり、そう簡単にはいかないよな……)
そんな漠然とした不安を抱えながら歩いていると、ちょうど横合いから柔らかな光が差し込んだ。
「……朝か」
白い光に、思わず目を細める。
「そういえば、もうすぐ頂上……」
と、その呟きとほぼ同時、地が割れるような咆哮と凄まじい稲妻が、前方の木々をなぎ払ってフィオに襲いかかってきた。
「———っ!?」
咄嗟に地を蹴って横に飛び、うずくまる。
そして閉じていた目を恐る恐る開けて、フィオは絶句した。
後ろに延びていたはずの森が、焼け野原になっている。
先程の稲妻が走った部分の木々が、炭化し燻って煙を上げているのだ。
ぞっと背筋が泡立つ感覚に、フィオは立ち竦んだ。
「うそ、だろ……こんなすぐに出くわすなんて……」
はっと我に返ったように腰の剣を引き抜き、木々がなぎ倒された前方を睨んだ。
するとその時、ざあ、と強い風が吹き抜け、その視界が開けた先に黒い塊ようなものが現れた。
鋭い牙に鋭い爪、フィオの身長の5倍はあるであろう黒い巨体、まるで水牛のような角が生えた頭部。
そしてその巨体の背からは、蝙蝠の翼を巨大にしたような翼が生えており、その体表は微かに電気を帯びているのが見てとれた。
(——雷竜……!)