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ダーク・ファンタジー小説
- Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.7 )
- 日時: 2013/03/28 12:18
- 名前: 御砂垣 赤 ◆BqLj5kPa5. (ID: 6kBwDVDs)
†第一章†
『導と手段』
地獄と言う言葉が何を意味するかなんて分からない。生まれて十何年の少年に聞いても尚更だ。けど、今分かった。何となく、分かった。
あのあとどうなったのか、実はほとんどよく覚えてない。夢現を往き来しながら、それでも故郷への道順は覚えていた。どっかの偉い国への報告より、まずさきに皆に知らせたかったし、安心させたかった。あの幼馴染みに会って、実在の事実を教えてやりたかった。
後悔割きに立たずとは良く言ったものだ。けど、今は後に立てる余裕もない。そのくらいに打ちのめされていた。
何時ものアーチが見える。あれを潜れば皆に会える。意気揚々と入っていった後、聞かされた言葉に耳を疑った。
「おっ? 旅人さんかい? こんな辺境の町へようこそ」
野菜を売るおじさん。暴れる度に怒られた筈。
「あら。旅人なんて久し振りね〜」
刺し子屋のおばさん。たまにパンをくれた筈。
「外から来たの? ねぇ、外ってどんなところ?」
親友の弟。あいつに会うたびに遊びをせがまれた筈。
「あんまり旅人さんを困らすなよ」
親友。何かと気が会って、竜を倒しに行くと決めたときも止めてくれた、筈。
なんだよこれ。冗談きついって。全員グルで騙すなよ。
「……ヤムラ?」
小さい声は掠れた。誰も、皆誰もフィオの事を覚えていない。町長、役場長、肉屋、酒屋、そしてヤムラ。
『しかし私は今でも思うのだ。私は、人々を辿るべき道から外してしまったのでは無いだろうか……と』
『あんなお伽噺』
物語の不幸話だってこうはいかないだろう。
「どうした? 旅人さん。何か気になるのか?」
ヤムラのその一言にとどめを刺された。半反射的に身を翻して、もと来た道を走った。
逃げた。親友から、逃げた。
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