ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【夢幻を喰らう者】 ( No.11 )
- 日時: 2013/01/30 17:15
- 名前: だいこん大魔法 (ID: b5YHse7e)
「やつは「夢幻」特有の闘争本能がない。だから、早いうちに対処しようと思って三十名の遠征を向かわせたのだが・・・生き残ったのはわずか五名だった」
・・・俺は今まで少し勘違いしていたようだった。
勝てる保証ではなく・・・それは、生きて帰れる保証が、ものすごく低いという、そういう意味だった。
「そのうちの一人がやつの「牙」の欠片と、「皮膚」を持ち帰ってきた」
そうして、そこから「アマテラス」と呼ばれている最強の「キメラ」の「夢幻喰」を作ることができるようになった・・・ということらしい。
けれども、それは簡単な話ではなかったという。
「夢幻」と「アマテラス」の細胞をくっつける行程まではまだ簡単なことだったが・・・その「夢幻」と、適合する人間が、なかなかあらわれなかったという。
でもそれは、しょうがないこととも言える。「最強」と謳われるものの「夢幻」は、相当に強い力を持っているはずだから。人を簡単に狂わせることなど造作でもないだろう。強制進化をするように、理性を、志向を誘導して、自ら発動させてしまうことも、防げないだろう。それにより、何人もの犠牲者が生まれ・・・「夢幻」ではなく、「アマテラス」の細胞も、底をつき始めた。
「そして、何人もの犠牲の上に・・・君は、適合した」
犠牲・・・という言葉が重く、のしかかる。一体、俺がこの力を得るまでに、何人が・・・「キメラ」を自分の手で倒せる、絶対に世界を救ってみせる、と志をもち、半場で死んでいったものが、何人いたのだろうか。それを考えるとぞっとする。なにせ、俺もその一員になっていたのかもしれないのだから。
ただの偶然か、あるいは・・・信じちゃいないが、運命か。それはわからない。だがしかし、俺はその「夢幻」と適合し、「夢幻喰」を得ることができた。
「何度かここに通ってもらっているのは、君が「強制進化」の症状を出しているか、狂ってはいまいか、それを確かめるためだったのは、もう理解しているな?」
あくまで事務的にいうルリだったが、彼女は、一体どれだけその一連の出来事で、心を蝕まれたのだろう。
自身の判断で遠征をむかわせたが、ほぼ壊滅。そこから「夢幻喰」を完成させるまでに、何人もの犠牲者をだし・・・彼女は一体、どれだけの重荷を背負ったのだろう。
もうそれは、過去の出来事なのかもしれない。彼女も、前にこのことをいったら犠牲が出るのは当たり前のことだと割り切っていた。・・・まあ、支部長という立場上、そう言うしかないのはわかるが・・・このことを、というか、誰かが死んだ、という話をするたびに震える手を見ると・・・心が痛む。
俺がもう少し早くでてきていれば、犠牲者が増えずに済み、痛みをちょっとでも和らげられたかもしれない。そんな罪悪感が、芽生えてしまう。
まあ、そんなのは俺のただの独りよがりってことはわかるのだが・・・まあ、知り合って間もない人に対して、こんなふうに考えてしまうのは、やはりおかしいか。
「君のその力はまさに『異常』そのものだ。君がその気になれば、一人で大型の「キメラ」を倒せるぐらいに」
「そりゃすごいな」
「まさに前代未聞の力といっても過言じゃない。だからこそ・・・わかるな?」
そういいながら、上目遣いで俺のことを見る。それに俺は、
「ちゃんと力を制御しろってことだろ?」
うむ、と頷かれる。
「君の力はあまりに強すぎる・・・だから、その力を使いすぎると君の体が耐えられなくなってしまう可能性が高い。だから、そのあたりをしっかりとわきまえるように」
「ああ」
そう頷くと、ルリは満足したように頷く。と思いきや、今までの手の震えやらなにやらはどこへいったのか、少しだけ怒った表情をして、俺のことを睨む
「・・・前々から言おう言おうとは思ってたのだが、その喋り方はどうなんだい?」
「・・・ん?」
「その舐めきった口の利き方・・・、上の立場の、それも、この場所でもっとも上の立場の人間に大しての口の利き方じゃないだりょ」
ガリッ・・・という音がふさわしいのだろうか、思い切り、噛んでいた。
とっさのできごとに目から涙がにじみ、肩が震えるが・・・何事もなかったかのような顔で、向き直る。
「・・・というわけで、君のその口の利き方は直したまへ」
それは無理な相談だろう。
見た目年下、明らかに大人ぶっている態度、そして、間抜けなところ。たしかに彼女は、この場所、つまり日本というこの場所で、もっとも頂点に立つ存在なのかもしれない。けれども、見た目相応の失敗とかを見ていると、どうしても彼女を敬うような態度はとれないのだ。
・・・まあ、とらなければならないところでとらないといった非常識人間ではないはずだから、そのあたりはちゃんとわきまえているけど
「そんくらい親しみやすいってことなんだ、俺もこっちのほうがいいんだけど・・・だめか?」
さっきの話の流れ上、彼女の重荷を考えるだけでも、吐き気がしてしまうぐらい苦しいし、彼女自身、その話題にはあまり触れて欲しくはないんだろう。そうでもしないと、割り切れないから。だから、俺はあえて、この話題に乗っかかることにした。
「む・・・そういわれると、弱いな」
と、彼女はそう呟く。