ダーク・ファンタジー小説

Re: 【夢幻を喰らう者】※ネタ不足につき一部修正 ( No.13 )
日時: 2013/02/13 06:49
名前: だいこん大魔法 (ID: XTwzLzPc)


「まあ・・・そうだな。至って普通の話なんだが・・・俺は、孤児院のでなんだ」

その言葉にルリは、若干驚いたかのような顔をして、

「へぇ・・・そうか、ご両親は———」

・・・その言葉の続きはない。ルリもなんとなく察しているのだろう。けれども、そのさきを言わないのは、雰囲気的に良くないからだ。
さきほども、人の死という話題をそらしているのだ。そこにもう一度戻してしまうのは酷というものだ。別に俺も不幸自慢がしたいってわけでもないし、そうだな

「まぁ俺の親のことはおいといて、孤児院での俺がどんなんだったか、知りたいか?」

少しそう、悪戯にいう。
察したのだろう。ルリは俺のノリに付き合い

「きかせてもらおうか」

とふんぞり返りながら言う。・・・ふんぞり返っても真っ平らなんだなとは思っても絶対に言わないでおこうと心に誓いながら、俺は口を開く。

「まあそこでの暮らしっていったら、大家族・・・って言えばいいのかな、とにかく、子供がたくさんいてさ」

孤児院には・・・わけあって、預けられた、それとも捨てられた・・・はたまた拾われた子供が集まってくる。その孤児院はシェルターの隅っこの方にあり、もっとも危険な区域に指定されているということから、捨てられた子供や、拾われた子供たちだけがそこに集まっていた。
俺は昔のことをあまり覚えてないから、どうして俺がそこにいたのか、そんなことはわからないが、集められた子供たちは次第に打ち解け合い、本当の家族のように、過ごしたのを今でも思い出せる。

「そこの孤児院運営してたのがさ、この世界ではなかなかめずらしい・・・70過ぎたばあちゃんなんだ」

その老婆の姿を思い出しながら、俺はいう。
この世界での平均寿命は男性が51、女性が58と、非常に短い。それは、やはり「キメラ」の存在と、環境のせいでもあるんだろうが、とにかく、そこの孤児院の経営者・・・俺の、唯一といってもいい『母親』は、76歳というこの世界では非常に長生きな人だった。
そこの孤児院は、最初は俺一人だった。
拾われたのか、捨てられたのか、それすらわからない餓鬼のころから、俺はばあちゃんに拾われて、そして、そこに捨てられる子供、ばあちゃんが拾ってくる子供たちの、めんどうを見て、いつしか俺は、みんなの兄貴、という位置になっていた。

「んでもって、俺の下にガキどもが十六人・・・その全員の頼れる兄貴が、俺ってことさ」

本当の家族とは言わない、だけど、たしかに俺たちは家族以上の絆で結ばれているはずだと俺は思っている。
そんな恥ずかしいことを言うと、ルリはくすりと笑い。

「そうだね・・・君のその話かたから、ほんとに幸せな場所なんだろうね」

「ああ、あそこは、俺にとって唯一といっていい・・・家だからな」

「でも、君がここにいるっていうことは、その子たちはどうしたんだい?」

若干暗い話を想像したのか、ルリが顔を伏せながら、申し訳なさそうに聞く。
・・・まあ、その質問はある程度くるってのはわかっていた。あらかじめ言うと、俺はその手の類でこの場所に来ているわけではない。けれども、たしかにこの世界には、【家族を殺されたことによる恨み】で入隊するものも少なくない。醜悪なこの世界は、恨みにより形成されているといっても過言ではない。
ファンタズマや軍に入隊するものの半数は、おそらくきっと恨みによるものだ。きっと今日入隊した俺たちの中にも、その恨みで入隊したやつもいたはずだ。そんな連中を見てきたルリだからこその質問なんだろうが・・・、俺はそこで安心させるように笑うと

「大丈夫、今もちゃんと健在だよ、ばあちゃんも餓鬼どもも、みんな元気だ」

というか、昨日しばらく帰れないってことをいったら泣きつかれたほどだし、危険区域はファンタズマの先輩の誰かが巡回しているはずだから、そうそう事件が起こるとは思えない。

「そうか・・・よかった」

そう、心から安堵したように言うルリ。

「そうだな・・・時間てきに最後の質問だ」

「ん・・・答えられることなら」

ルリは仕事をしている時とはまた別の方向に真剣な表情になり、俺のことを見据える。俺も、その瞳に応じるように見つめ返す。
やがて、彼女の口から出た質問は・・・

「また・・・、一緒にお茶してくれるか?」

「・・・もちろん、よろこんで」

そんな、わざわざ確認するまでもないことを口にした彼女に俺はそう頷く。

「ほ、ほんとか?・・・よかったぁ」

頬を染めて、嬉しそうに笑う彼女を見て、なぜだかおかしくて、俺も笑った。