ダーク・ファンタジー小説

Re: 【夢幻を喰らう者】※ネタ不足につき一部修正 ( No.14 )
日時: 2013/02/23 11:44
名前: だいこん大魔法 (ID: g5yX4cMd)

「よし、全員集まったようだな・・・それでは、かねてからの実戦訓練を始めようと思うが、訓練場に入る前に、ひとつだけ確認しておこう」

そういうおっさんのあとを歩きながら、俺たち新人は、思い思いに次の訓練にむけて話あっているところだった。
それは・・・そう

「今回の訓練は、新人、ということもあり、二人ひと組のチームでやってもらうことになる。本来訓練ならば、個の技量を測り、測定し、その個人一人がどの「キメラ」の個体まで対応できるか、というのを測ったりもするのだが、お前たちが単独で「キメラ」を討伐するのはまだまだ先の話だ。だから、安全も兼ねてチームでやってもらうことになる、ここまではいいな?」

そう確認するも、ほとんどのやつらはおっさんの話を聞いてなどいない。いや、聞いているんだろうけど、すでにチームを組んでいる奴らにとって、まあどうでもいい話だったりもするから聞き流してしまっているんだろう。

「今回の訓練に用意されているのは、「キメラ」の中でもっとも危険度が低いとされている「犬型」だ。だが、お前たちのなかでもしかしたらこの「犬型」の「キメラ」・・・いや、「キメラ」自体を見たことがなくて、実感が湧いてない奴もいると思う。だから、少しだけ訓練前に時間とり、外部の「キメラ」の資料と、映像を見せようと思う」

「せんせーい、ひとつ質問でーす」

「む・・・なんだね?」

おっさんの説明に、一人水を差すやつがいた。
妙に馴れ馴れしい声でおっさんに話かけるそいつは、どこで染めたのかは知らないが、短めの茶髪。耳にはピアスが何個もついていて、いかにもお調子者・・・あるいはチャラけてるという感じのやつだった。身長は俺とだいたいかわらないぐらいだが、妙にそいつの外見は目立つので、俺でも覚えていたぐらいだ。

「俺たちが戦う「キメラ」ってぇ、どんくらい強いんすか?」

その質問に、少しだけおっさんが首をかしげるが、なるほど、といったふうに頷く

「西岡流地くんだったね、なかなかいい質問だ」

そういうと、左腕に抱えていた資料の中から、一枚だけ抜き取ると、それを上にもっていき、全員が見えるようにしながら

「さっき俺が説明したように、お前たちに戦ってもらう「犬型」の「キメラ」は、危険度がもっとも低い・・・かといって、一般人が倒せるかといえばそうでもない。
表すのなら、死なない猛獣といったところか」

「死なない猛獣・・・?」

意味がわからないといったふうに、西岡流地、つまり質問をしたやつが首をかしげる。

「そうだ。普通の力を持たない人では対抗はできない、だが、君たちから見れば、ただの猛獣ということだ」

「そういうことかぁ・・・つまり、俺たちなら簡単に倒せるってことですか?」

「今からやる訓練の中でなら、確実とはいえないが倒せるレベルなのは間違いはない。だが・・・そうだな、これから実戦、つまり最前線の映像も見てもらうから、あとはそこで説明しよう」

そういいながら、おっさんが再び歩き出す。
それに続きながら、西岡は、隣にいたチームを組んだのであろう女子と話しながら、ケラケラと笑う。

「・・・なんかあの人、緊張感、ないね」

そういったのは、俺の隣にいた神樹だった。
おっさんの話を熱心に聞いているようなので話かけずらかったが、話が終わると突然そういってきた。

「そうだなぁ・・・でも、気を楽にしてたほうがいいこともある時もあるし、いいんじゃないか?」

そうはいったが、俺もあの男を見て、若干の不快感を覚えているのは確かだ。
神樹のように、真面目な性格ならば、ああいったタイプは苦手なんだろうけど、別に俺は真面目ではないとは言わないが、人をあまり毛嫌いするタイプではなかったはずだ。だけど・・・

「ん・・・ん、そうなんだけどね?」

神樹はなにか言いたそうにするが、言葉が見つからないらしく、肯定しているのかしていないのかわからない態度をとる。
そこで俺は

「さっきの口ぶりから見ると・・・たぶん、あいつは「キメラ」を見たことがないタイプだ」

そういいつつ、俺は少しだけ思い出す。
危険区域に住んでいたためか、何度か侵入してきた「キメラ」が、目の前で倒されるという場面を見てきた。そのために「キメラ」の恐ろしさを俺は理解している。けれども、このシェルターの中には、「軍直轄区域」というものがあり、そこには過去金持ちだった家庭や、シェルターにとっては欠かせない人たちが住まう区域がある。その中の人たちは、確実とはいえないが、「キメラ」を見る機会がない。
そう考えると、しっくりくる。あの外見や、あの性格。「キメラ」をもし間近で見たことがあるのならば、これから行う訓練ですらも、「死」というものが付き纏うことを理解できる。
だが・・・見たことがないのなら、戦闘中に怖気付き、硬直してしまう可能性がある。・・・まあ、それを防ぐための、実戦の映像を見せるんだろうが、それで理解できるのか?
若干俺がなにをいっているのかわからないといったふうな表情を見せる神樹だったが、それに

「神樹は「キメラ」を見たこと、あるか?」

というと

「うん、たしか・・・先生のいってた「犬型」ってやつなら何回か見たよ」

「そいつは怖いか?」

「・・・そっか、あの人は、実感が湧いてないってことなんだね」