ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【夢幻を喰らう者】※1-17更新 ( No.19 )
- 日時: 2013/04/01 07:49
- 名前: だいこん大魔法 (ID: uupAp8Xk)
説明よりも見たほうが早いだろうといった感じでおっさんがモニターを指差す。おっさんの説明に耳を傾けてた者たちもそれにより映像をしっかりと見始める。
三人のチームを組んでいる「夢幻を喰らう者」が、一体の「フェンリル」と呼ばれたそのキメラにむかって攻撃を繰り出しているのがわかる。しかし、その「フェンリル」は易々とその斬撃をかいくぐり、反撃をくりだしている。
「キメラ」には、君たち「夢幻を喰らう者」のヴァジュラに宿る力・・・ブラッドアーツに似た力が存在する。「夢幻魔術」と我々が命名するその力は、中位種の「キメラ」から宿るとされている」
そうおっさんがつけたしたすぐあとに、映像のなかで「フェンリル」が「夢幻を喰らう者」たちから距離をとり、翼を大きく広げる動作を行う。
その攻撃はあきらかに「異常」だった。映像の中の「夢幻を喰らう者」は流石にプロだからか、その攻撃を武器で防ぐなり、かわすなりして対応をとり、反撃にでているが、あきらかに下位種の「キメラ」との戦闘とはあからさまに苦戦しているのが伺えた。
今の映像を見て、隣にいた神樹が震えるのがわかった。周りのやつらもふるえたり、悲鳴をあげているのがわかる。
翼を広げた瞬間に、羽の形をした光の物体が「フェンリル」の前に何十・・・何百・・・下手したら何千個も生まれる。それは、狙いを定めて大気を引き裂き、「夢幻を喰らう者」たちに襲いかかる。一撃一撃は大した威力ではないようだが———何千・・・か。
俺は、その一撃を・・・「夢幻魔術」を見て、若干の戦慄を覚える。この世界にはいっていき、何人も死んでいったという報告を聞いたことがある。「夢幻を喰らう者」の年々の死者数は、一般人よりも圧倒的に多いことも知っている・・・その原因が、この常識が通じない「夢幻魔術」によるものなのか・・・と、ようやく理解することができた。
だがしかし、そこで映像は終わらない。おっさんがみらたかったのは、たしかに「夢幻魔術」に関連するなにかもまじっていたのだろうが・・・問題は、このフェンリルの驚異性にたいしてだったから。
攻撃を難なく切り抜けた「夢幻を喰らう者」たちは、フェンリルにむかって再び攻撃をしかける。「夢幻魔術」に関しては、再充填時間があるらしく、フェンリルはさきほどのような驚異的な攻撃を繰り出すことはできない。だから、この戦いは「夢幻を喰らう者」たちの勝利のようにも思えた・・・が。
フェンリルはその翼で上空に逃げる。当然、身体能力が上昇している「夢幻を喰らう者」は、ジャンプすることによって追撃をしようとするが・・・。
攻撃は、届かなかった。
「フェンリル」のあまりの速さの浮上により、「夢幻を喰らう者」たちはなにもできずに地面に落ちる。そのまま「フェンリル」は上空で「夢幻を喰らう者」を見据え・・・再び、翼を大きく開いた。
そこで映像は止まる。下位種にくらべて、壮絶な戦いともいえたその映像を見て、今まで面白半分に見ていたやつらも、いたって真面目にみていたやつらも、なにも言えずにも無言になってしまう。おっさんはその様子を見て、少しだけため息をつくと、説明にもどった。
「今のが、「フェンリル」との戦闘時の映像だ。今見てもらってわかったように、「フェンリル」は速い。動きも俊敏だ。・・・だが、一番の問題は、その自身の能力をちゃんと活かせる頭脳をもっているということだ」
動きの速さ・・・俊敏さ。そして、それを活かせる賢さ。それこそが、この「キメラ」の驚異なのだろう。
「夢幻魔術」を再充填するために上空に逃げ、そして再び放つ・・・これを何度も繰り返されたら、間違いなく「夢幻を喰らう者」に勝ち目はないだろう。そんな思いを込めておっさんをみてると、ニヤ・・・とくちのはしを歪めて、よくきがついた、と口を形だけ動かした。
「しかし・・・だ、「夢幻魔術」を放ったあとに、上空に逃げ、再充填のちに再び放つ。そんなことを永遠とされては我々に勝ち目はない。そんなことが延々とできるのならば・・・こいつは上位種に食い込むほどの驚異となりえるだろうな」
おっさんがそういうと、どういうことだろうか、と騒ぎ始める。神樹もうーん・・・といったふうに考え込んでいるみたいだ。
まぁ・・・要するに、だ。これはまだ推測だけど———「フェンリル」は、「夢幻魔術」を放ったあと、あまり滞空ができないとか、そのあたりだろう。
「気がついた人もいるかもしれない。・・・そうだな、織塚、答えてみろ」
「はい」
おっさんが俺のことを指名して、俺は返事をする。すると、全員が俺のほうに注目するのがわかる。
正直、これが正解かどうかはわからないが、とりあえずといったふうな形で、俺は言う。
「おそらくですが、「フェンリル」は「夢幻魔術」を使用した後は、あまり滞空できないのかと」
「その理由はどうしてだ?」
「そこまではわかりません」
そういうと、おっさんはそれだけで上出来だ、と拍手をする。