ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【夢幻を喰らう者】 ( No.2 )
- 日時: 2013/01/06 10:20
- 名前: だいこん大魔法 (ID: Ex8RKlaC)
俺は、同じように動けずに、オドオドしていて、泣きそうに・・・ていうか実際に泣いているのか?となりのその「彼女」に話かけることにした。
「おーい」
軽くおどけた感じで、彼女の目の前で手を振ってみせる。名前がわからないから、個人を特定するような呼びかけではなかったから、気がつかないかもな、と思ったけど、どうにも「彼女」というかもうこの子でいいや。この子は、周りからの声に敏感になっていたらしく・・・すぐに反応を示した。
「ひゃ・・・ひゃぃっ」
うつむき加減だった顔をあげて、半泣きになりながら、ぐっと泣くのを我慢しているかのような顔で、俺のほうを向く。
そんな様子に俺は若干引くが・・・
「今の授業、おもしろかったか?」
極力やさしく声をかける。彼女に対して話題をふるとするなら、これしかないと思ったから。
一度は聞かされているはずのあの授業を大真面目に聞くなんて、そりゃ若干印象に残っていても仕方のないことだし、気になることでもあった。
「ん・・・うーん、そうでもなかった、かな?」
彼女は首をかしげながら答える。
・・・あそこまでバカ正直に聞いているから、もっといい反応を期待したんだが、まあそれは俺の勝手な思い込みってやつで、実際はどうとも思ってなくても、この子のアイデンティティがそうさせてしまっていたんだろうと、軌道を修正させる。
「ま、入隊前に一回聞かされてるからなー」
そういいながら俺は笑う。
自分でいっといて不思議に思うのだが、なぜここではもう一度この説明を行うのだろうか、と。
べつに歴史が大切っていうわけでもあるまいし、「夢幻を喰らう者」に課せられることといえば、「キメラ」討伐のそれだけだろう。なのに、なぜ「軍」の人間が、わざわざこんなことに時間をかけようとしているのか、それが若干謎だ。
「ま、そんなことはどうでもいいか・・・とりあえず、織塚冬夜だ」
そう自己紹介しつつ、照れくさいけど、片方の手をさしだす。
すると、おずおずといった感じで、片方の手ではなく、両手で俺の手をギュッと握り返して、一生懸命といったふうな感じで、彼女は声をだす。
「え・・・えっと、鈴です、神樹、鈴です」
そういいながら、めいっぱいの笑顔を向ける彼女は、やはりというかなんというか、「夢幻を喰らう者」というおぞましい名前には似つかわしくないほどに、そして、死地に向かわせたくないと思わせてしまうほどに、儚くて、弱々しかった。
お互い、自己紹介して、なにか話すことがないか模索するが・・・、彼女、神樹さんには悪いが、まったく共通点が見つからない。
なにせ女の子とこうやって普通にしゃべるのなんて何年かぶりだし、しかもよく思えばナチュラルに握手とかしちゃったけどあれってかなり恥ずかしいことじゃないのか?と、思いだしたら顔がどんどん熱くなってきた・・・
「ね、ねぇ・・・織塚、くん?」
鈴が鳴るような声っていうのはこういうのを表現するんだろう、俺が頭を抱えて話題を必死に探していると、神樹さんのほうから話かけてくる。
・・・人見知りではあるものの、知り合ってしまえばどうってことないタイプなのか?それとも、俺があまりに無様な姿を晒しているから同情したのか・・・?まあそれはおいといて、
「・・・ん?」
気持ちを持ち直して、彼女に向き直る。・・・真正面から見て思うのだが、、やはりというかなんというか、横から見たときの感想とまったく同じて、小さいな・・・と思ってしまったことは心の中においといて。
「織塚くん・・・私の勘違いだったら悪いんだけど・・・検査の時と、施設案内の時、いた?」
若干まだおどおどした感じでそう聞いてくる。・・・そうくるか。
周りをよく見ていないようなやつなら、この質問は絶対にでてこなかっただろうけど、さきほどの授業と同じく、根が真面目だからだろうか、全員の顔を一通りだけど覚えていたらしい。
だけど、それには穴があるようで、しっかりと覚えてはいなかった・・・というところだろうか。だから、『俺』というイレギュラーが混じっても、疑問ぐらいにしか思わなかったってことだろう。
んで、その疑問は、晴れて自己紹介を済ませて、そこからの話題が見つからなかったから、それを話題に使われたっていうわけか。
まあ、本人も絶対に知りたい情報、というわけではないだろうから、適当にはぐらかさせてもらうことにする。
「んー、ま、この人数だしなー、見えなかったっていう表現が正しいんじゃないか?」
おどけたようにいうと、彼女はどこにそんなツボがあったのかわからないが、突然キッと俺のことを弱々しく睨んで
「それって、私がちっちゃいからいけないってこと?」
それまでとは違い、突然オドオドした口調から、強気な口調に変わる。・・・身長の話はタブーってことか。
実際、そんな知り合いがいるから、この手の話には敏感になっていたはずなんだが・・・焦りすぎたか?
「いや、実際、俺も覚えきれてないしさ、別に神樹さんだけが別ってわけでもないよ」
「そ・・・それならいいんだけどね?あ・・・そうだ」
柔らかく訂正すると、彼女はこの話はこれ以上続けたくないという意思表示のように、別の話題をふる。
「織塚くんって、いくつ?」
年齢か・・・たしかにそうだな。これは仲良くなる際に二番目に重要なことといってもいいかもしれない。
シェルターの中で過ごしている人たちは、怯えながら過ごしたている。そのために、交友関係はあまり広がらない。だから、こういった場でないと、俺たちのように、「戦争が始まってから生まれた」者にとって、同い年、それか近い歳の人たちと知り合う機会がめったにないのだ。
この場では、十代、二十代と、わりと近くの年齢が集まっていて、その中でさらに、同い年といて共通点が生まれれば、話が広がるんだろうけど・・・どう考えても、この子と俺は、同い年ではないだろ、と内心で思う。
十七歳で、身長は170センチ程度、顔立ちも、自分では意識したことはないが、普通のそれで、神樹さんのような、淡い色をした黒・・・というかグレーに近い色ではなく、まさに漆黒という表現が使えてしまうぐらい濃い色をした、少し長めの髪。
まあ、「夢幻を喰らう者」の年齢制限は、十五歳から、ということなので、神樹さんはそのあたりだろうと思って、答えることにする。
「17だ」
ピクッと彼女がへんな反応を見せる。
気になって顔をうかがうと、喜び・・・っていうのか驚きっていうのか・・・そんな表現しようのない顔になってから、パァッと、破顔して、とてもかわいらしい、花のような笑顔をむける。
「お、おんなじだね!!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
それが、彼女、神樹鈴という少女との出会いだった。