ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【夢幻を喰らう者】 ( No.3 )
- 日時: 2013/01/06 09:43
- 名前: だいこん大魔法 (ID: Ex8RKlaC)
各自の自己紹介が終わり、同い年だということで共通点を見つけられ、互いに話すようになった者、また、同じ趣味をもっていたりで話が弾んだもの、それぞれが、完全にグループに分かれた。
俺と神樹は、同い年ということも相まって、互いに話せるようにはなったものの、やはり最初の出遅れ感が否めずに、自己紹介も簡単なものになってしまい、面白みをだすことができずに、さらに、同い年で会ったものも、またべつの同い年のものと仲良くなっていて・・・でもまぁ、最低二人以上のチーム、ということなので、これで神樹は「夢幻を喰らう者」として、戦場にでる資格を得たということになる。
ま、最終的にはかくチーム同士で、うえというか、後でチームを組んだ人とともに、教鞭をふるっていたおっさんの部屋にむかい、報告する必要があるのだが、それはまた別の話だ。
「えへへ、やっぱり、二人になっちゃったね」
若干嬉しそうに、隣から声をかけられる。
神樹のほうは、俺と同い年、ということもありもすぐに打ち解けた。というよりも、神樹のほうが一方的になついた?てきな状態なのだが・・・。
さきほど、というか、自己紹介する前は、オドオドして、さらに、話かける相手を見失い、半泣きだったのに、すっかりとそれはなくなり、素の状態で話かけてくる神樹に、俺は
「ま、いいんだけどさ。てか、なんでほかのやつに話しかけなかったんだ?」
そう、同い年、というだけならば、この教室に五人ほどいた。
そいつらはもうそいつらで仲良く話ているし、そこにまざれ、というわけではないけど、やっぱり、念のために確認しておきたかった。
神樹のほうは、困ったような顔になると、形の整った眉をハの字にして
「だ・・・だって、知らない人と話すの怖いし」
という。
・・・やっぱり、人見知りだったか。
でもまあ、それはしょうがないものといえる。
シェルターの中では、ほとんど交流をしないため、他人、というものをうまく認識できないものが多々いる。というか、俺もそのうちの一人だった。
他人にどう接すればいいかわからない。不快に思わせてしまうかもしれない、そしてなにより、信じることができない。そんな感情が交錯して、人見知りというものは生まれる。
神樹の場合は、信じることができない、というのではなく、前者の二つだろう。最初のときのように話しかけるキッカケみたいなのがあればいいのだが、自分からだとできないっていう、まあ典型的な人見知りタイプだった。
んでもって、一度仲良くなるというか、ウマのあったものにはすぐになつく・・・家弁慶ってやつか?仲間内弁慶ってやつか?そんなタイプの人間だということがわかった。
まあ、それはべつに嫌う理由にもならなければ、自分を、あって間もない自分を頼っている、というその状況は、むしろうれしい、という感情を芽生えさせる。
「なら、俺と話すのは?」
そこで少し意地悪な質問をしてみる。
すると神樹は、さらに困ったような顔になり、ちょっと照れながら。
「織塚くんは・・・うんとね、怖くないよ?」
その答えに少しだけ、素直にうれしいと思う。
まだ話すようになってから数分しかたっていないのに、この反応・・・正直、グッとくるものがある。
「でもさ、たしかこの「夢幻を喰らう者」はさ、チーム活動なんだろ?だったらさ、ほかにもチームを組めるようなやつ、探しといたほうがいいんじゃないのか?」
だけど、「戦場」のことを考えると、今この状況は危なかった。
俺の場合、一人で動いても大丈夫らしいのだが、神樹の場合はそうではない。普通の「夢幻を喰らう者」である神樹は、最初からたった二人だけのチーム、という一番死ぬ確率の高いポジションになってしまっている。
ここでもし、俺が普通の、ほかのやつらと変わらなかったら、神樹は間違いなく、自分から死にに来たようなものになってしまうが・・・神樹は
「うーん・・・、でもやっぱり怖いからいい」
「おいおい・・・まぁ知ってるかもしんないけど、チーム活動っていうことは、そのチームの人数が多い分だけ敵との戦いで有利になるってことだぞ?正直、新人が二人でチームを組んで、いざ戦場にいくと速攻で死ぬぞ?」
「でも、数が多ければ絶対に安全ってわけじゃ、ないでしょ?」
「ま、・・・たしかにそうだけどさ」
・・・実際、新人のうちは、絶対に先輩の「夢幻を喰らう者」のチームと合同して、ミッションを行うことになる。
そのさい、新人は、先輩の動きを見ながら勉強し、実際に援護をしたりするのだが・・・それは、一つの新人のチームの人数が多いと、逆にそれが危なかったりもするらしい。
それで過去、何個かの先輩チームと、新人チームが「キメラ」に喰われてしまっている事例があるから・・・どちらも正しいとは言えないのだ。
「そんなことより織塚くんはさ、「ヴァジュラ」の整備、もう終わってるの?」
「ん?ああ、再検査の時にはもうすでにバッチリだったっぽい」
「えー・・・いいなぁー」
ヴァジュラは通常、「軍」の整備員と、「夢幻を喰らう者」の研究者たちが、整備棟という場所で、管理、保管、チェックを行っている。
だから、新人たちのやつは、第一次適性検査の時に、つまり、「夢幻を喰らう者」の第一段階に入る際に、各個人のデータをもとに、新しく作られる。
第二次適性検査は、その「ヴァジュラ」完成とともにおこなわれて、ためしに装備をし、一度訓練を行う。それで使い心地が悪ければ、再び作り直すという手間をかける。
そして、いざ「ファンタズマ」に入隊するときに行われる適性検査が、もう一度、念のために、ちゃんと「ヴァジュラ」を扱えるか、強制進化が誘発されているときに発せられる音波が感知されないか、そのあたりをチェックして、ようやく「ファンタズマ」の一員となれるわけだ。
その際に、各個人専用に作られた「ヴァジュラ」は、一度整備室にもどるが、検査を受けるときにはもう整備が終了しているものもあり、俺のもその例と同じく、っていうわけだ。
「神樹のはまだなのか?」
「うん・・・」
「ま、この休憩時間の間に終わんなかったら模擬訓練に参加できなくなるだけだから、そう落ち込まなくてもいいんじゃないか?」
そう、整備が終わんなかった新人は、この後、各自己紹介が終わった後に1時間もうけられた休憩時間のあとに、実戦を模した訓練を行うことになる。
たしか内容は、捕獲した「キメラ」に「夢幻喰」を打ち込み、「夢幻」が少しだけ残る程度にされ、衰弱した状態のものと戦うことになる。とはいうものの、これには当然危険が付きまとう。
「ヴァジュラ」を使い慣れていない新人にとっては十分に脅威だけど、実戦はこの比ではない。だから、早く恐怖に打ち勝てるようにと、この訓練を行うことになっているという。
まあ、教官役として、現役の「夢幻を喰らう者」・・・日本支部でもっとも有望視されているっていうやつが、くるらしいから、死ぬ可能性はほぼゼロというのは間違いないんだけど。
「まあ、「ヴァジュラ」の扱いに早いうちに慣れておくに越したことはないんだけどな」
「うー・・・なんか私だけ出遅れるみたいで、やだな」
そこで、今まで退散していた教師、おっさんが戻ってくる。教室内を見回して、キョロキョロとしているが、こっちを見て、手招きをする。
「神樹と・・・それと織塚、二人共ちょっとこい」
「ひ・・・ひゃぃっ」
突然自分の名前を呼ばれたからびっくりしたんだろうけど、今のはちょっと・・・
「ああ!!織塚くん笑わないでよぅ・・・」
「悪い悪い・・くくっ、つい、な」
そう言いながら、俺たちは教室をあとにする。何事かと目を向けてくるやつらもいたが、話しかけてくる奴はやっぱりいなかった。