ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【夢幻を喰らう者】 ( No.6 )
- 日時: 2013/01/06 14:02
- 名前: だいこん大魔法 (ID: Ex8RKlaC)
おっさんのあとをついていきながら、俺たちは整備棟に向かう。
実際、整備棟に用があるのは神樹だけで、俺の場合は、その先にある「支部長室」にいくわけだけど、まあ、その理由はだいたい検討がつく。
神樹に、なにか悪いことしたの?とさっき聞かれたけど、そればっかりは正直、どう答えていいかわからなかったので、適当に流したが・・・まあ多方、「特別事例」に関するなにかだろう。
神樹は、さきほどから少しウキウキしている様子だった。なぜかと言われれば、それは、神樹の「ヴァジュラ」の整備が終わったために、一度チェックしにきてほしい、ということを言われたからだろう。
「どうだ、二人共。チームを組めそうなやつは見つかったか?」
前を歩くおっさんが、少し砕けた様子で話しかけてくる。
神樹はウキウキしすぎているからだろうか、おっさんの話を聞いていなかったが、善意で聞いてきている質問に答えないのはなんというか・・・あれだから、一応答えることにした。
「まあ、一応この神樹と組むつもりです」
といいながら、神樹の頭を叩く。・・・いまこの現状で、組むとしたら、やっぱり神樹しかいないだろ、と思うけど、実際神樹のほうはどう思っているかは、わからない。けど、とりあえず・・・だ。
あうっという声をだして、非難の目を俺にむけるが、神樹はすぐになにかあったの?と首をかしげる。
「二人・・・か。新人のお前らには、四人ぐらいのチームを組んでもらうことが理想なんだが、こればっかりはどうしようもないからなぁ」
ガハハッと豪快に笑い、おっさんは歩くペースを俺たちに合わせて、となりに並ぶ。俺の頭をばしばしと叩きながら、でも、とつけたす。
「お前と一緒のチームなら、その嬢ちゃんは、今新人の中で一番安全な場所にいるのかもしれないなぁ」
「・・・おい」
「おお、悪い、これは言っちゃいけないんだったなぁ」
神樹のほうは若干話についていけないで、首をかしげているが、俺は少しだけ焦った。
おっさんの言葉・・・それは間違いなく、「特別事例」に関することだったから。
・・・一応、俺は、検査の時以外にも、ここに訪れたことがある。
それは、今向かっている場所、支部長室に何度か行く機会があったからだ。
別に、俺と支部長が知り合いというわけでもなければ、この「ファンタズマ」に家族がいるわけでもない。そう・・・ただ、研究対象として、何度か呼ばれたことがあった。
普通の「夢幻を喰らう者」ならば、検査を得て、注射により、力を得るが、俺の場合は、そうではなかった。
そのことは、一部の人間にしか知られていない。普通の「ファンタズマ」の一員だったら、それを知る機会はまずないだろう。まあ、おっさんは、その一部の人間で、さらに、俺が過去支部長室に行く時に、道案内を頼んでいた人だったから、覚えていたということだろう。
「ま、べつに新人どうしでチームを組め、なんて強制した覚えはないから、今度実戦のときに合う先輩たちのチームに取り込んでもらえるようにするのもいいだろう」
長い長い廊下の先にある、各棟につながるエレベーターにのり、現在地の新人用施設から、整備棟のボタンを、全員が乗ったのを確認してからおっさんが押す。
「まあ、新人の間は基本的に補助に回されるだろうから、シェルター外部の「キメラ」討伐までは時間がある、それまでには、チームをちゃんと決めとけよ?」
そうおっさんはいう。けど、神樹のほうは、まだ若干おっさんに慣れていないっぽいけど、一応教師、ということでなんとか気持ちを入れ替えて、口を開く。
「せ、先生、ひとつ質問があるんですけど・・・」
「ん?なんだ?」
「シェルター外部の「キメラ」って・・・、シェルターに侵入してくる「キメラ」とは違うんですか?」
「ああ・・・それは・・・」
・・・シェルター外部の「キメラ」か。
俺もこの話は、支部長から聞いたことがあるのだが、どうやら、シェルター外部にいる「キメラ」は、「夢幻を喰らう者」のベテランチームが遠征を組み、最大三十人がかりで挑んでも絶対に勝てるとは保証できないという超大型種がいるらしい。
一般的に知られている「キメラ」というと、だいたい体長5メートル前後の、「犬型」のものだ。
とはいうものの、顔や体の作りは犬というだけであって、背中からは翼が生えていたり、爪は大型の肉食獣かといわんばかりにするどく、ついでに牙も同じように進化しているていう状態のものなのだが・・・。まあ、とくにこういった「犬型」がシェルター内に侵入してくるらしくて、それが「キメラ」だというふうに解釈しているやつは少なくはない。
実際、その「犬型」は「キメラ」の中で最低ランクを付けられているものなのだが、この「犬型」だけでも、十分に驚異になりえる。
「まあ、そのことについては、模擬訓練の前に外部の「キメラ」の映像を見せるから、そっちのほうがわかりやすいだろう」
おっさんはそういって、神樹の質問を流す。
「軍」の人間は、実際にその存在を知っていたとしても、その驚異まではしらない。外にはどんな「キメラ」がいて、どんな力をもっているのか、そこまでリアルに説明できないから、しょうがないといえる。