ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【夢幻を喰らう者】 ( No.8 )
- 日時: 2013/01/07 02:06
- 名前: だいこん大魔法 (ID: Ex8RKlaC)
そういい、おっさんは歩き出す。それに神樹が続くようにして歩きだす。そこで俺は
「んじゃ、俺はここで」
「ん?おう、支部長に粗相がないようにしろよ?」
踵を返して、エレベーターにむかって歩き始める俺を、おっさんが茶化すように言うが・・・いつものこと・・・というほど親しいわけじゃないが、ここにくるたびにしている同じ会話なので、スルーさせてもらうことにして、足早にエレベーターに向かおうとする。だが・・・
キュッと、手を握られる感触が、俺の動きを止める。
驚き、後ろを向くと、神樹が俺の手をとっていた。怯えた小動物のような眼で俺のことを見つめる神樹は、今にでもなきだしそうだった。
「織塚くん・・・こんなくさいところに、おいてかないでよぅ」
そして紡がれた言葉は、一人ぼっちを嘆くものではなく・・・こんなくさいの一人じゃたえられそうにない・・・という、大変失礼なものだった。
ま・・・考えてみれば、こんなところにこようと思ったぐらいだ。一人になったからって、臆することはないだろうけど・・・若干期待していた自分が馬鹿みたいに思う。
俺は困ったようにおっさんを見ると、時間はまだあるから好きにしろ、というふうに肩をすくめながら言う。・・・ま、ここまできたんだ、俺の「ヴァジュラ」をもう一度見るのも悪くないだろ・・・そういうことにしておこう。
「あー・・・わかったわかった。でも慣れなきゃやってらんないぞ?」
「わ、わかってるんだけどね?」
「ま、俺も別に慣れちゃいないから、お互い様だな」
というか実際さっきのは、とっととこの臭い場所から開放されたかったという思いが強かったりもする・・・声にはださないが。
「んじゃ、二人ともついてこい」
そういいおっさんが歩き出す。
・・・普通、ここは「軍」の人間の出入りは基本的に禁止されているはずだった。というか、「整備員」以外の「軍」の立ち入りは禁止されているはずだった。それなのに、あたり前のように俺たちの前を歩く、黒い軍服をきたおっさんを見て、改めてこいつは、なんなんだ、という思いが芽生えるが・・・神樹がいる手前、そのことは口に出さないことにする。
俺はこのことを知っているのは、前々からここにくる機会があったから、必然的に支部長に施設のことを説明されているからだった。それは間接的に「特別事例」に関わることなので、事情を知らないものに話すのはためらわれる。まあ、カンが鋭い奴でなければわからないだろうけど、用心するにこしたことはないっていうわけだ。
「ここが、「ヴァジュラ」保管室だ。お前らはまだ持ってないが・・・訓練が終わったあとに渡される「ゲートパス」っちゅーので、ここの扉を開けることができる。いっちまえば「夢幻を喰らう者」と、「軍」の一部の人間しかもつことのできない、鍵だな」
平然といいながら、おっさんは懐からそのゲートパス、といわれているものをとりだす。カードの形状をしたそれを、扉の横に設置されたパネルに掲げると、
『認証しました』
という、機械的なアナウンスが流れて、目の前の鉄でできた、いかにも厳重そうな扉が、開く。
「・・・織塚くん、先生って、何者なんだろうね?」
そこで、ワクワクとした感じで、神樹が話かけてくる。
それに俺は
「「軍」の、その一部の、お偉いさんじゃないのか?」
わからないので、とりあえず無難にそう答えておく。けど神樹は
「でもさ、でもさ、新人の教育をするぐらい『暇』なんだから、そうじゃないと私は思うな」
その言葉にピクッとおっさんが反応しかけるが、そこで反応したら肯定するのと同じことだといわんばかりに無視をして、扉をくぐる。
その背中に続きながら俺はいう。
「けどさ、次の模擬訓練にくる日本支部のエースさんも、その考えだと暇ってことになるぞ?」
「う・・・うーん、エ、エースさんは忙しいよ?きっと」
イマイチ容量をえない会話だったが、・・・たしかに、まだ俺もおっさんと知り合って短いが、道案内を頼まれたり、新人の、しかもどうでもいい、一度聞かされている話をまた繰り返す無意味なあの講義をしたりと・・・考えれば考えるほど暇人にしか思えなくなってくる。
「お前らなぁ・・・そんな失礼なことばっかいってると、案内してやんないぞ?ぷんぷん」
ぞわぁっ・・・
まさに、そんな表現が似合う勢いで、俺は腕に鳥肌が経つのを感じる。
季節は・・・たしか十月あたり、たしかに肌寒く感じる季節ではあるものの、新人全員に支給される「ファンタズマ」の、黒を基調とした軍服は、十分に防寒対策ができているため、普通なら鳥肌がたつことはないのだが・・・なんだ、今のおぞましいセリフは・・・っ