ダーク・ファンタジー小説

Re: 【夢幻を喰らう者】 ( No.9 )
日時: 2013/01/07 02:11
名前: だいこん大魔法 (ID: Ex8RKlaC)

「あ、先生今のかわいいですねっ」

だが、隣にいる神樹はそのおぞましさを理解していなかったようだった。それどころか、かわいいとまでいう。

「お、そうか?ならもう一度やってやろう。ぷんっぷんっ!!」

調子づいたおっさんが、今度はさらに勢いをつけてそういってくる。それに俺はさらに鳥肌を立てて、悪寒を感じて、逃げ出そうとするが・・・神樹の前だ、そんな醜態を晒すわけにもいかないし、なにより逃げた気分になるからそれはしない。

「っと・・・こんなことをやっている場合じゃなかったな・・・ほれ、ここが新人の「ヴァジュラ」が保管されている場所だ。

もとの調子にもどったおっさんがそう説明したことによって、俺の悪寒は消え去った。
扉をくぐり、そこから枝分かれしている道を、新人保管庫と書かれている方向に進み、開けた場所まででる。するとそこには・・・

「うわぁ・・・」

そう、そこには、各個人の「ヴァジュラ」が、壁に備え付けられた装置に固定させられ、一面にズラッと並べられていた。

「あの「ヴァジュラ」を固定している装置はな、あのまま壁にはいって、壁のなかに仕組まれてたいる道を通って、そのまま整備室に出されるんだが、そうだな、ところどころならべられている中で、壁に穴が空いている場所があるだろ?あれらはまだ、整備中ってわけだ」

約五十本近く並べられている「ヴァジュラ」、その中にはおっさんがいったとおり、間があいて、その間の壁がすっかりとなくなってしまっている場所が多々あった。それは今、整備室にいっている、ということらしかった。
「ヴァジュラ」の形式は、基本的に、各個人の好みだ。だけど、その大きさは、成人男性のそれよりも基本てきに大きい。
たとえば、剣の形の「ヴァジュラ」。単に剣といっても、短剣、長剣、大剣、刀とうにわかれていて、そこも個人の好みで決定できる。たとえば俺のなんかは、一番しっくりときたのが大剣の形であったため、その形式を自分の「ヴァジュラ」の形とさせてもらった。

「あの一角が剣、そこが槍、あっちが斧、あっちが銃だ。神樹のはなんだったかな・・・?」

そう一から指をさして説明するおっさん。それを横目に、俺は剣が保管されている場所までいくと、自分の「ヴァジュラ」を見つけ、それに触れる。
「ヴァジュラ」は、持ち主と一心同体といってもよかった。「ヴァジュラ」に打ち込んだ「夢幻喰」と、使い手に打ち込んだ「夢幻喰」を結びつける。その行程は、使い手の血を「ヴァジュラ」にかけ、「ヴァジュラ」の「夢幻喰」を、体に打ち込む、というものだ。どこか儀式じみている光景だが、それをすることによって、「ヴァジュラ」との相性がわかり、そこで不具合が生じればすぐに使い手から「ヴァジュラ」の「夢幻喰」を取り除き、一から制作しなおすという手間がかかるが、不具合が生じなければ、そのまま「オーナー」登録され、その「ヴァジュラ」を扱う許可が降りる。・・・もしも他人の「ヴァジュラ」を使おうとした場合、「ヴァジュラ」のほうが拒絶反応をおこし、触れた箇所から「強制進化」を誘発させ、その使い手を強制的に人間ではないなにかにかえてしまうという考えるのもおぞましい結果が待っているのを事前に説明されているために、少しばかり神経質になってもしょうがないよな。
俺は目の前の自分の「ヴァジュラ」・・・俺の髪の毛の色と同じ、漆黒の刀身をもったその剣は、俺の背丈よりもおおきい。幅も、俺の横幅よりも広く、重量もその比ではないこの武器が・・・そう、俺の「ヴァジュラ」。たしか個別名が「ブラックフェザー」といわれているものだ。
大きく分けると四種、細かく分けると各種類ごとに4つだったり2つだったり・・・、さらにその細かく分かれた中でも、武器の形状、色、形、性能などで、「個別」の名前をつけられる。
普通の新人ならば、長剣ならば「ロングソード」短剣なら「ショートソード」大剣なら「ブレイド」刀ならそのまま刀。これは、最初に扱う時に、もっとも相性があいやすく、これをベテランになっても使っている人は少なくはないという。実績により、自身の稼いだ金額分で、武器の形状を自分好みに作り変えることもできるが、基本的に初期の武器を最後まで使っている人の方が多いい。
そんななかで俺の「ヴァジュラ」・・・「ブラックフェザー」は、支部長直々に制作に加わり、作られたという。
詳細はよくわからないのだが、「特別事例」の再確認とともに、この武器の説明もついでにされるんだろうと理解しているから、そのことは今は気にしないことにする。

「ほう、神樹のは短剣タイプか・・・「ショートソード」・・・ではないようだが」

そうおっさんが言う声が聞こえる。俺は少し気になり、大剣が保管されている場所のすぐ近くの短剣が保管されている場所を見る。そこでは、神樹が実際に自分の武器を手にとり、その感覚を味わっているようだった。
「ヴァジュラ」に不具合がある場合、持ち主が触るとなんとなくだけどわかるらしい。今は、その不具合がないか確かめているところだろう。
神樹のもつそれは、ほかに飾られている短剣とは少し違う形状をしていた。そう、一言であらわすのなら、短刀、と表現できるものだ。まあ、神樹の身長よりも大きいために、それが短刀という類のものかはわからないが、「ヴァジュラ」の刀よりは短く、短剣とほぼ同じような大きさのため、そう呼ばせてもらうことにする。

「はい。えっと、名前がたしか・・・「十六夜」だった・・・かな?」

銀色に輝くその刀身は、まるで穢れを知らないかのように美しい。普通のものよりもいくぶんか細身のそれは、なんとなくだけど、特別なもののような気がした。

「どうだ?不具合はなさそうか?」

・・・今思うと、神樹の「ヴァジュラ」の調整が遅かったのは、神樹のが初期型上のものではなかったから、という理由が当てはまる。
俺のやつは、支部長直々に作ったというだけあって、調整が一番最初に前倒しで行われていたのだが、神樹の場合は、逆に最後のほうに回されてしまったんだろう。そう思うと、あたりにまだ調整の終わっていない奴は、初期形状とは異なるものの場合が高いかもな、と勝手に分析する。

「はい、とくに変に思うとこはないです」

そういいながら、神樹は「十六夜」を定位置に戻す。
不具合か・・・そういえば、調整は終わっているっていわれただけで、一回もさわっちゃいなかったなと思い、俺も「ブラックフェザー」を手に取る。
手にとった瞬間、ズッシリとした重みが俺の全身を襲う。たしかな重量が俺に伝わってきて、やっぱり武器はこうじゃないとな、とニヤリと笑う。
十分に試し振りができるスペースがあるため、「ブラックフェザー」を・・・「通常なら両手でもつ」それを片手で持ち、意識を集中させる。
一度後ろに刀身を流し、空いている左手を前に突き出す。そのまま剣を縦一閃に振り下ろし、すかさず上に切り上げる。その勢いで俺の体が宙に浮かび、そこから俺は斜め下段にむけて、横一閃に、振るう。
武器を降る速度があまりに早すぎたためか、「鎌鼬」が発生して、床にぶつかるが、どうやら特殊コーティングされているらしく、外傷はなかったが・・・少しやりすぎたか?
大剣は、速さを求めず、力を求める、一撃必殺の「ヴァジュラ」だ。その重量と、使い手の技量によっては、さきほどのように、「鎌鼬」とかを発生させて、より威力をあげることができるわけだ。
まあ、これは聞いた話なのだが、特殊な「使い手」と「ヴァジュラ」は、「ブラッドアーツ」という、常識を逸脱した力を扱えるようになるらしいのだが、それを抜くと、大剣が一番力が強いのは明白だった。
まあ、各個人の戦闘スタイルによって、斧や槍のほうが強い、という人もいるだろうけど、俺の場合は、大剣が一番当てはまる、という話だ。
試し振りを終わらせ、下に戻す。すると、それを見ていたらしいおっさんと神樹が、俺に拍手をおくる。

「織塚くんっ、今のすごかったよっ」

と、ちょっと興奮気味の神樹。

「ふむ・・・やはり、お前は———」

と、またなにか危険な発言をしそうになるおっさん。

「・・・ま、整備が終わるのが早かったから、前にも振らせてもらってて、ちょっとなれてるってだけさ」

と嘘をつく俺。
おっさんはなにも言わない。事実、この武器を俺が振ったのは初めてで、おっさんもそれを知っている。けど、そこにあわせないと、神樹がもしかしたら感づいてしまう可能性があるから、話を合わせるように頷くだけでとどまる。

「まあ織塚、早く支部長室にいかないと時間がやばいぞ?あと二十分だ」

「・・・もうそんなに時間たってたのか」

そのおっさんの一言で整備室をでる俺たち、一度エレベーターで新人区画まで移動して、神樹たちとわかれる。
また後でねー、と無邪気にいう神樹に手を振り、エレベーターの、支部長室、というボタンを押したのだった。