ダーク・ファンタジー小説
- Re: 真夜中の始業チャイム ( No.5 )
- 日時: 2013/07/11 22:28
- 名前: 鈴蘭+ (ID: jmwU8QL1)
<3限目>
俺たちは、目の前の光景に、ただただ見入っているだけで。
誰も、声を出す者は居なかった。
するとアナウンスから声が聞こえた。先ほどから聞こえていた声じゃなく、もっと幼い感じの子だった。
『どうやら、〝鬼〟が来てしまったようですね〜♪ これで一人、【退場】となります』
【退......場......】。
さっきまで謎めいていた言葉の意味が、今……ようやく分かり始めた。この場には、この言葉に恐怖を覚えるもの、まだよく分かっていないもの、唖然と翔裏の……いや、"翔裏だったもの"を見つめているもの……の、三種類に分かれていた。俺は、その場から動けなくなってしまっていた。
——どうしてこうなった?
俺は今日も、普通に登校してきて、みんなと仲良く暴れて(遊んで)、いつもどおりの学校生活だった。
——なのに、どうして……。
俺は歯を噛み締めた。涙が出そうになって、顔を俯けた。視界が眩む。
みんな同じ気持ちだった。
すると、俺たちの体が、透けてきた。俺は直感した。
転送、させられるんだな——そう思った。
◆ ◆ ◆
目が覚めると、目の前には……いつも見慣れた大牙がいた。近くにはヒーカ(光)もいる。どうやら俺たちは一緒に転送されたみたいだ。
俺は体を起こして辺りを見回す。俺たちが転送された場所は《図書室》だった。
図書室は、一番いい場所だと思う。本棚が一杯あって、本も余るほどある。机と椅子も十分あるし……ここからは校庭も見え、よく監視(み)ることができる。……もちろん"鬼"をな。
「た......いが......」
俺が声を押し殺して言うと、大牙は体をビクつかせて返事をした。
「あ、あぁ……」
顔は汗だくだった。もちろん、俺も。
冷や汗が顔を伝っていく。
「……ぇ、あれ……?」
突然、ヒーカが口を開く。窓の方を向いて。
何事かと俺たちも窓の外を見る。
すると……。
窓の外にいたのは……死んだ筈の翔裏を担いで行く人々のかたまりだった。
俺らは窓の外の以上な光景に見入っていた。
——だから、気づかなかったんだ。
もう、下級生や教師の殆どが……【退場】してしまったことを……。