ダーク・ファンタジー小説
- Re: (リメ)無限エンジン 1-2執筆中 ( No.1 )
- 日時: 2013/06/03 15:57
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
無限エンジン 第1章 第1話「さぁ、籠の中にいるのを止めるときだよセリス?」Part1
人間歴2016年6月19日。
セリスの住む国、インデットは初夏を迎えていた——
インデットの夏は厳しく、早朝だというのにすでに陽光は暑い。
だが少女にとってそれは二の次だった。
右目が青なのに対して左目は緑という変わった配色の少女は、寝ぼけ眼を擦りながらお腹を鳴らす。
「お腹減った。つば凄いよぉ。気持ち悪い」
どうしても空腹を我慢できなくて、少女はベッドから起き上がる。
そしてクローゼットを開け、シワ1つ無く完璧に洗われたワンピースを羽織(はお)う。
クローゼットの扉裏にある鏡を見ながら、紅の短髪を整(ととの)えていく。
身支度を終えて彼女がドアノブを開こうとしたとき。
ノックの音が響く。
定時の食事時間前に朝食を取るなど、はしたないマネをせずにすんだことにホッとするセリス。
彼女は一歩後ろへと下がり、誰が入ってくるのかを待つ。
「お嬢様、朝食の準備が整いました。あら、もう着替えていらっしゃったのですか。珍しいですね」
扉の向こうには、長いストレートの黒髪と平均的な女性より頭1つ以上高い背が特徴的な女性メイドが立っている。
長身のせいかメイド服が全く似合わないことを深く気にしている昔馴染みの使用人だ。
珍しいこともあるものだと本気で驚く女性に、セリスはおそるおそる声をかけた。
「ねぇ、ファンベルン?」
「?」
ファンベルンと呼ばれた女はセリスの声に耳を傾けるため、彼女の目線にかがむ。
そして耳をすます仕草をして、悩みがあるなら話してみてと、いくらでも相談に乗ってあげると示す。
少女は安心したように口を開く。
「ねぇ、ファンベルン聞いて。あたしね。はしたないと思うかもしれないけど唾液が止まらないの。なんだかね、とってもとっても」
「お嬢様?」
病的な口調で喋るセリスにさすがに異常を感じたのか、ファンベルンに焦りが走る。
だが1度タガの外れた少女は言葉を止めることはしない。
「人間の目が……左目が食べたいの!」
「まさか、セリスお嬢様、貴女」
唾液を口内から流しながら言い切ったセリスを見つめ、ファンベルンはある1つの解に辿り着く。
「無限エンジンの力を?」
そのファンベルンの推測は間違いなかった。
この日を境(さかい)にセリスの生活は大きく変貌(へんぼう)して行く。
ファンベルンの報告を聞いたセリスの父フェルナスはさして驚きもせず。
ついにこの日が来たかとだけ口にしてすぐに町の警察を懐柔(かいじゅう)する。
そして罪人の左目を提供してもらう見返りに、金を送るという契約を果たす。
この日の昼からセリスの食膳には、誰のものとも分からない人の目が常に並ぶようになるのだった。
End
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第1話Part2へ続く。