ダーク・ファンタジー小説

Re: (リメ)無限エンジン 1-4更新!  ( No.12 )
日時: 2013/09/07 17:52
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

 無限エンジン 第1章 第1話「さぁ、籠の中にいるのを止めるときだよセリス?」Part4

 「あー、もう、9時50分過ぎちゃったよぉ。やっぱり、彗とお話してると時間経つの速いなぁ」
 「そう言ってもらえると嬉しいでぇ」
 
 時計を見ると短針が10の所を過ぎている。
 セリスは短い自由時間が終わりを告げようとしていることに、ため息を吐く。

 自分といると時間が早く過ぎていくように感じるということは、自分と話していて楽しいのだろう。
 そう思った彗は不満そうな顔のセリスとは反対に、満面の笑みを浮かべていた。
 そして彗自身も時計を一瞥(いちべつ)して。
 思い切って今日1番話したい話題に入る覚悟をする。

 「ところでお嬢?」
 「なーにぃ?」
 「お嬢は無限エンジンの力ぁ手に入れたんやろ? どんな技使えるん?」

 少しいつもより歯切れの悪い口調で、珍しく自分から話を振る彗。
 水晶のように綺麗な瞳(ひとみ)をキラキラと輝かせて、セリスは彗に続きをうながす。
 彗の口から発される“技”という言葉にセリスは過剰反応し、腰掛けていたベッドから身を乗り出す。
 夢の中で会ったエンジェルビーツと名乗る存在が言っていたことを必死で思い出そうとする。
 確か“絶対的な力を手に入れる”と言っていたはずだ。

 「技ってどういうことぉ?」
 「無限エンジンに魅入(みい)られると、ある特定の行動をしないと生命を維持(いじ)できないかわりに、圧倒的な力を手に入れるって聞いたことがあるで?」

 疑問符に溢れたセリスの声音に対して、あくまで冷静な口調で彗は答える。
 ある特定の行動とは自分の場合は、他者の左目を食うことだろうことを察するのはたやすい。
 しかし肝心の代償を支払って手に入れた力が分らずとは。
 彼女はあごに手を当て鳥が鳴くような可愛らしいうなり声を上げた。

 「うーん? でも、あたしは知らないなぁ? 今度エンジェルビーッに会ったら聞いてみないとね」
 
 力を知らないことを彗に馬鹿にされたくないから、勤(つと)めて冷静にセリスはいつもと変わらない口調でうそぶく。

 10時まで残り5分を切った。
 その時、彗から突然黒いもやがゆらゆらと現れる。

 「彗——?」

 あまりの驚きにセリスは名前を呼んで以降絶句し、身の危険を感じて壁まで後退した。
 いきなりの非現実的な風景に、後はびくびくするばかり。
 下手をすれば失禁(しっきん)するかもしれない。
 両目には大量の涙が溜まる。

 『何ッ? 何のつもり、彗は人間じゃ……あれ、彗!? どこっ! 彗ッ、彗彗彗すいっ彗はどこっ!?』
 
 セリスの思考は止まったように、異常なほどに彗の名前ばかりが脳内を飛び交(か)う。
 唯1つだけ確信がある。
 人の姿をして異常な力を有する術(すべ)があるなら、親友でありメイドだった彼女もまた力(エンジン)の持ち主なのだということ。
 そしてその力を今発動させたのだ。
 何のため。
 能力を行使してすぐに彼女の姿は視界から消えた。
 “姿を消す能力”ならば暗殺には持って来いじゃないか。
 なぜ今まで使わなかったのか、何のメリットがあるのか。
 分らないが目的は——

 「目的は何!? あたしを殺すこっ」
 「そんなわけあらへんやん? でも、怖かったやろ? お嬢は少し浮かれ過ぎや。確かに無限エンジンと付き合う以上、力の性質を把握するのは大事やけど。言うほど良いもんやあらへんで?」

 焦燥感(しょうそうかん)と理解できないことへの恐怖に侵されていたセリスは我慢できず叫び声を上げる。
 次の瞬間。
 彗の中指が彼女の額をつく。
 それはとても殺意のあるような力強い攻撃ではなく、戯(たわむ)れのスキンシップのような力の入れ方。
 目の前には彗がいた。
 どうやら能力を解除したようだ。
 どちらの手にも凶器のような物はない。

 なるほど彼女はセリスにエンジンの危険性を示唆(しさ)してくれたらしい。
 浮かれすぎて力に溺(おぼ)れたりすると、ひどい未来が待っていると。

 「彗——」
 「お嬢。1つだけ良い。覚悟決めておいたほうが良いで? 人は異物を排斥(はいせき)するんや。少数派を差別するんやって」

 疑ったりしてすまなかったと謝ろうとしたとき、愛する2人を引き裂く12時の鐘がごとくに時計がタイムリミットを告げる。
 彗はそれと同時にドアを開け、さびしそうな声でつぶやく。
 その言葉の重みをセリスは理解できず、ただ呆然(ぼうぜん)と立ち尽くした。
  
 
 
 
  
  

 End
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 第1話Part5へ続く