ダーク・ファンタジー小説

Re: (リメ)無限エンジン 1-1更新! ( No.4 )
日時: 2013/06/03 16:32
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

 無限エンジン 第1章 第1話「さぁ、籠の中にいるのを止めるときだよセリス?」Part2

 時計が12時を周る10分ほど前にセリスは、午前の習い事を終え自室に戻る。 

 「…………」

 5分ほどするとノックの音が響く。
 昼食を明度が運んで来たのだろう。
 セリスの承諾(しょうだく)を得るとファンベルンは静かに入室した。

 サービスワゴンに乗っている料理を、セリスは入念に見つめる。
 メインのロースステーキを中心に並ぶ料理は名家らしく全て豪華だが、その中にあって異様な雰囲気を漂わせる食材が1つ。
 それは人の眼球。
 今の彼女にとって何より欲しいものだ。
 
 ファンベルンの報告を聞き、急いで父が手配した品である。
 疼(うず)きを抑えられないのだろう。
 セリスは大量の唾液が口から漏れそうになるのを我慢しながら、目をウルウルさせてファンベルンに問う。 

 「誰の目玉?」
 「お嬢様は気にする必要の無いことです。罪の意識を感じる必要もございません」

 今年5月9日誕生日をむかえ8歳になったセリスは、すでにそれなりの道徳的感情はあって。
 いかに本能が欲求していようと、忌避の感情を覚えずにはいられなかったのだろう。

 だがファンベルンの言葉を聞いたとたんに彼女は豹変(ひょうへん)する。
 結局は誰かの許可が欲しかっただけなのだ。
 そう自身を嫌悪しながらも衝動(しょうどう)は抑えきれない。
 ファンベルンの言葉を皮切りに、少女は他の物には目もくれず飢えた獣のように目玉を鷲掴(わしづか)みし口内へと運ぶ。

 「あっ、何かぬるぬるっすりゅぅ。以外っと固いなぁ、飲み込んじゃえっ!」

 透き通るような紅色の瞳は宝石のようで。
 セリスは何より価値ある物を自分の一部にするような快楽に襲われた。
 一瞬、立ち眩(くら)みしたかのようにガクンと体を揺らす。
 そして口角を引き上げて凄絶(せいぜつ)な笑みを作り、貪(むさぼ)るように口内に放り込んだ。
 コロコロと飴玉のように目玉を転がし滑(ぬめ)り気をしばらく堪能すると、少女は美味しそうにそれを飲み込む。
 ゴクンと少女の小さな喉を人の眼球が通る音が響く。
 2人しかいない静かな部屋では、その音がやけに大きく感じられた。
 喉に残る確かな感覚はひりひりと痛くて。
 彼女は口を抑えて咳(せ)き込む。
 そして唇をハンカチで拭きながら、初めて人の目を食べた感想を少女は嬉々(きき)として語る。

 「大きな物が通ったからかな? 凄く喉が変な感じなのファンベルン。でも、何かすっごい素敵な気持ち。可笑しい……かな? 普通じゃないよね、だって普通人の目を食べたいとか思わないもの」
 「いえ、それで良いのです。それがエージェントという生物なのですから」

 どうやら初めての快感に戸惑いを感じているらしい。
 可愛らしく小首を傾(かし)げてみせる少女に、ファンベルンは冷然と言う。
 それがエージェントという人種なのだ、と。
 
 まるで彼等を直接理解しているような口調で。
 気になったセリスは無邪気に疑問に思ったことを口にする。

 「ねぇ、ファンベルンはまるで直接見たみたいに言うのね? エージェントって何とか気になることはたくさんあるけど1つ良い? ファンベルンも私みたいに左目を食べたくなったりするの?」
 「…………」

 英才教育の賜物(たまもの)か、意外と察しの良い眼前の少女。
 無垢(むく)な笑みを浮かべているセリスを数秒間見つめ、ファンベルンは珍しく含み笑いをして。

 「いいえ、私もエージェントですが、左目を食べたいとは思わないですね。そのかわり私は愛人の血を吸わないといけないですが」
 
 ファンベルンが同族であるという予想は当たったようだと、セリスは自分の予想が正解だったことを喜ぶ。
 しかしそれ以上は言及することも無く、ただ一言。

 「愛、かぁ……」
  
 

 End
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 第1話Part3へ続く。