ダーク・ファンタジー小説

Re: (リメ)無限エンジン 1-3更新!  ( No.8 )
日時: 2013/08/15 07:52
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照:

 無限エンジン 第1章 第1話「さぁ、籠の中にいるのを止めるときだよセリス?」Part3

 目玉を口にするまではお腹は満たされているのに、なぜか無限に食欲が溢れてきて大変だったものだ。
 セリスは心の底から思いながらほぅっと安堵の息を吐く。

 「ふわーぁ、疲れたぁ」

 外は漆黒の帷(とばり)に支配されていて。
 セリスは部屋の扉を開けて、外の風を楽しむ。
 日中と比べてずっと涼しい外気。
 やっと長い1日が終わったと、セリスは喜びを顕(あら)わにする。
 
 「早く彗(すい)来ないかなぁ?」
 
 時計を見ると午後の9時になる1分前。
 21時から就寝時間の10時までが、彼女にとって唯一(ゆいいつ)の自由時間だ。
 いつもその時に、遊びに来てくれるのが彗というメイドである。
 1回り以上年嵩(としかさ)の者ばかりである屋敷において、1人だけセリスと同世代。
 そして何より同性という気安さもあり、セリスは彗と過ごす1時間が大好きなのだ。

 いつも胸を高鳴らせながら彼女が来るのを待っている。
 そわそわしている内に時間は過ぎ、時計の針が動く音が室内に響く。
 見上げてみると9時。
 それを知らせるオルゴールの音が鳴り出す。
 少したどたどしくて寂しい音調に混じって、独特なリズムを刻むノックの音が混じる。
 
 「あっ、来た来たぁ! 彗ぃ」
  
 セリスは思わず声を上げた。
 それと同時に扉が開く。
 見慣れたメイド服を着た黒髪ポニーテルの笑顔がまぶしい少女。
 左目の下にある小さなほくろが少し色っぽい。
 彼女こそが彗だ。
 
 「待たせてもうたかなぁ、ゴメンゴメン」

 彗は時計を一瞥(いちべつ)すると少し申し訳なさそうな顔をしてつぶやく。
 1時間という時間は短い、それ位のことは彼女も知っているのだ。
 メイドとは思えない気軽な口調でしゃべる彗に、セリスは抱きついて泣き出す。

 「そんなこと無いよぉ! 時間完璧じゃんー? ねぇ、彗」
 「なっちょっ! どうしたんやお嬢!?」

 取り留めなく涙を流すセリスの頭を撫でながら、彗は勤めて冷静を装(よそお)い何があったのかを問う。
 しかし一向にセリスは答えることは無く、顔をあげもしない。
 数10秒以上して突然セリスが声を漏らす。

 「ふふっ、彗ってば何でもないわよ? 本当にすぐ動揺するんだからぁ」 
 「お嬢っ、つまりワイをからかったんやな? 全く、演技で本当に涙流すとか女優になれるでお嬢!」

 8才児とは思えない魅惑的な表情をつくりウィンクするセリスに、目をしばたかす彗。
 そして馬鹿のように口を空け、数秒間硬直。 
 騙されていたことに気付いて、長く付き合っているのに気付けなかったことに彗は苦笑した。
  
 「女優かぁ、それも面白そうねぇ」

 彗の冗談に満更(まんざら)でもなさそうに答える。
 もともと演技は得意なほうで鋭さも持ち合わせているので実際に向いているのだが、それ以上に何か自分が選ばれた存在になったような感覚に彼女は陥(おちい)っているのだろう。
 実際には彼女の想像以上に神に魅入られた者達は存在しているのだが、勿論セリスにそれを知る由もない。
  
  

 End
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 第1話Part4へ続く