ダーク・ファンタジー小説

Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.10 )
日時: 2013/05/13 22:50
名前: 利佐 (ID: LuHX0g2z)
参照: 楽しくないときは、楽しくしたいです——

【ひー いず あ ぶらっく きゃっと】

 
 
 返答がいつまでたっても聞こえてこない。本格的にどうしよう。ジャンマリアが呼んでいるのにどうして出てきてくれないのだろう。でも、再度呼びかけるのも怖い。どうしたらいいのかわからず、白猫はただそこに立ち尽くすことしか出来なくなった。

「……れ。」

 小さな声が聞こえたような気がする。何と言ったのか聞き取れなかった。だが、話を聞いたらジャンマリアに会いに行ってくれるかもしれない。仕方なく白猫は「もう一度、お願いしま……」言いかけた次の瞬間。

パァンッ

「っ……!?」

 銃声が声を上げた。

 何が起こったのだろう。飛びかけた魂を必死に連れ戻して状況を見る。今、自分は尻餅をついた。何故ならば銃声の音に驚いたから。扉の一部が小さく盛り上がっている。球が撃ち込まれた後。だけれど扉はに穴はあかなかった。
 黒猫が部屋の中から扉に向かって銃を撃ったんだ。もしかしたらその球が扉を打ち抜いて自分に当たっていたのかもしれない。脅かす為でなければ“あの男”は私を打ち殺したかもしれない。銃を向けられていたことに対して白猫は震え、立ち上がれないままでいた。
 黒猫が白猫に何か言ったが、恐怖にとりまかれた白猫には何も届いていなかった。任務を遂行することもできず、103号室へと逃げていった。


 *


「怖か……た……」

 大きなため息を漏らすのと同時に全身から力が抜けて行き、白猫は扉の前に崩れ落ちて行った。恐ろしい。自分の目の前で鳴り響いた大きな音。脳裏には先程の情景が鮮明に焼き付けられ、思い出すたびに心臓はうるさく鳴る。立ち上がろうと思えど身体から力が抜けて立ち上がれない。華奢な体を強張らせる。不意にこんな妄想に捕われたもしかしたら今夜黒猫が殺しに来るのかもしれない……だなんて。

「……死にたくないな。……死ぬ前に自由になりたいな。」

 微かな声でまた悲しい願い事。時折自分の気持ちを声に出して言ってみる。自分に希望を持たせるためだ。こうやって口にすると、なぜだかわからないけれど少しだけ楽になる。こうやって自分に言い聞かせれば。

「大丈夫だよ白猫。私はいつか外の世界に出て行けるの。暗黒世論から……」

 弱弱しく、最期の力を振り絞るような声はだんだんかすれて行った。

 ばたり。足だけでなく身まで投げ出すように床に倒れる。
 そのまま彼女は死んだように眠る。まるで人形が倒れているかのように生を感じさせる。感じさせるのは「静」のみ。

 陽の差さない部屋で、白猫は希望と共に眠った。