ダーク・ファンタジー小説
- Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.13 )
- 日時: 2013/05/14 18:44
- 名前: 利佐 (ID: LuHX0g2z)
- 参照: 血色の似合う美少女——
【むかし の ゆめ】
暗い路地裏に死体が横たわる。建物に張り付く血の香り。月は今宵もその悲惨な光景を見ていた。唯1人魂を持つのは年端もいかぬ幼い少女。へたりと座り込む彼女の頭髪の色は月のように白かった——
何が在ったのかなんて今ではもう忘れてしまった。けれど私はあの日、あの路地裏で確実に大切なものを失くしているんだ。それが何かすらも彼女は忘れてしまったけれど。
どうしてわたしはここにいるの。どうしてパパもママもめをあけてくれないの。なんで。どうして。こわい。わからない。
「——ねえ、どうしてなの?」
問うた相手は煙草の煙を吐いてからこう言った。
「死ぬために。」
まるで絶望の彼方へ落とされた様に、彼女の視界が暗転した。
*
「よーう、白猫ちゃん。遅刻だぜ?」
息を上げながら膝をつく白猫の様子を愉しみながら、ジャンマリアは笑っていた。椅子に腰かけ脚を組み、クスクスと笑っている。ああ、なんという失態だろうか。約束の時間の3分前に目を覚ますだなんて! あれからすっかり寝入ってしまい、目を覚ましたのは午後8時57分。全身全霊で足掻くも、ここへ辿り着いたのは9時08分。
「……ごめんなさい。」
どうでもいいような顔をしているけれど、きっとジャンマリアは怒っている。顔を見ることも今は許されないような気がした。自己嫌悪。ジャンマリアは別段怒っている様子もないけれど、結果としてボスの命令に背くことになった。このことは恥ずべきことなのだから。もう、どうしようもない。
「さてさてのさて、白猫。お前に訊きたいことがあるって言ったよな。」
白猫が遅刻したことに対してはあまり気にしていないかのようなジャンマリア。白猫の「ごめんなさい」を遮るように言葉を並べ、立ち上がった。傅く体制を何とか作りながら白猫は密かに息を整えていた。——そうだ。ジャンマリアが私に訊きたいこととはなんなのだろうか。
余韻を持たせるような間。もったいぶるようにジャンマリアはなかなか口を開かず、デスクの上の小型の気球を指でいじっていた。——そして唐突にこう問うた。
「白猫の夢はなんだ」
おそらくきっと顔を上げたとき、ジャンマリアは不思議の国に出てくる猫のような微笑みを湛えているのだろう。昔と変わらずに。
私の夢は何か? そう問われて出てくる答えなんていつも一つ。
「私の夢は、自由になること。」
声はいつもの様にか細く、聞き取り辛いものだったけれど、それを震わすことは無かった。決意を表明するようなきっぱりとした口調。彼女にしてはだが。その一言を言うだけなのに心臓の鼓動がまた騒ぎ出す。顔が紅潮していくのを感じた。
——白猫が今現在自由ではない理由。それはもう曖昧なものになってしまっている。
「だよな。知ってる。」
バッサリあっさり切り裂くように冷淡なジャンマリアだった。
「……。」
「……。」
顔を上げ、ジャンマリアの表情を確認したいけれど、それを規則が邪魔をする。