ダーク・ファンタジー小説

Re: バラと猫と女 -あたかも自分は無罪の様に- ( No.2 )
日時: 2013/04/27 08:34
名前: 利佐 (ID: LuHX0g2z)
参照: ——愛さえも忘れたわけじゃないです。

 【“あんこくせろん”】

 5月5日日曜日、男が或る新聞の記事を眺めていた。

 某国某都市。3〜5歳程の年齢の幼児を見境なく殺す犯行などで報道やメディアに名の上がっていた或る殺人鬼が、昨日、廃墟となっていた倉庫の中で死体となって見つかった。胸からは紅い血。真赤なソレは滝のように流れ、床に歪な模様を作っていた。目を開けたまま、ショック死した様に固まっていた。彼女の身体には、胸から腹にかけて裂いた様な痕が見つけられるという。殺されたのは何人もの幼児をナイフなどで殺傷していたカティヤ=ベルトリーニ被告。一体彼女に何があったのか——

「——……だって。遺体の血とか遺体の処理とかいろいろやるべきだった気がもするけれど、まあいいんじゃないの。」

 咥えていた煙草を口からだし、プハァッと白い煙を吹いた。
 呑気な調子は変わることなく、硬くなった背中を思いっきり伸ばした後机に突っ伏す。報告の場だというのに緊張感の欠片もない。それが皆の慕ういつもの彼だった。頼り無い雰囲気のある彼だが、今のこの発言は頭の悪い解釈をしない限りは、どう考えても普通の中年(しかし、彼の実年齢は不詳である)の台詞ではなかった。

 未だ彼等の存在は世間に公とはなっていない。なる筈も無かった。
 この間延びした中年率いる組織「暗黒世論」 
 ある条件のそろった人物を徹底的に潰すことを目的とした——実に良く在る犯罪組織だった。

 そう、彼はその組織の長。
 彼の存在は、暗黒世論の人間しか知らない。

「とりあえずお疲れさんでした。お嬢さんの活躍がまた俺たちを救ってくれましたとサ。お疲れさん、もう部屋に戻っていいよ。」

 まるで昔話を終えるような口調をして、目の前に傅いた人殺しに浅く微笑する。彼女は今回の任務を成功させた忠実な部下だ。彼女のことは高く評価しようと思っていた。
 だが彼女は一向に立ち去ろうとせず、ただ頭を下げ続けている。あれ、いったいどうしたんだ? そう思った5秒後、彼は急に思いだす。

「あ、『白猫』って名前だったんだっけ君?」

 頓狂にそう言い、頓狂にまた仰け反って手を叩き、大笑いをする。彼女は名前を呼ばないと返事をしてくれないんだった。それなのに「お嬢さん」なんて他人行儀な呼び方をするだなんて、なんだろう自分。超笑える。——と、こういった調子で彼はくだらない理由で馬鹿笑いをするのだった。笑いのセンスに関しては、社内ではだれよりも評判が悪かった。逆に「面白い」と取ってくれる個性派が少数いるが。「仕事は出来る人だから」と、割り切ってくれる者も居る。どちらも五分五分と言った感じだが。笑い続ける中、か細い声が発される。彼の豪快な笑い声にかき消されてしまったが。僅かな音だった。それに自分が笑っていたのもあったので、笑いすぎて出た涙を手の甲で拭いながら尋ねた。

「え? ごめん、何だってぇ?」

 か細い声がこう言った。

「私の名前は白猫。」